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あなたのことだけわかりません
私を不倫させたいのですか?
しおりを挟む庭にいるみんなからは死角になっている場所で、ルイスと文子が揉めていた。
文子はルイスにつかまれた手をふりほどこうとしている。
「……なんだ、あれは」
「もしや、ルイス先生は文子さんを連れて逃げようとしているのではないですか?」
「あの二人は恋仲だったのか?」
行正は何故かそのことに激しい衝撃を受けているようだった。
「……はあ、そのような感じに見えますが。
でも、文子さんに、そのような兆候は今までなかったんですけどね。
この結婚への愚痴も私と美世……」
言いかけて、咲子は踏みとどまる。
おっと危ない。
行正さんに向かって、文子さんは、私や美世子さんの結婚生活を聞いていたせいで。
結婚というものに不安と不満を抱いてたみたいですけど、とか、と言うとこでした。
「あの、もしかして、ルイス先生が一方的に文子さんを好きだったんですかね?」
そう首をかしげる咲子の横で、行正が、そんな莫迦なっ、と声を上げる。
「お前もあの友だちと一緒にルイスの授業を受けてたんだろっ?」
「は?
ええ、まあ」
「それなのに、何故、ルイスが好きなのはお前じゃないっ」
……どうしたいんですか、あなたは。
「私を不倫させたいのですか?」
と訊いてみたが、行正は窓に張りつき、二人を見つめ。
いつもキリリと引き締まっている唇を噛み締めて言う。
「……不倫?
不倫とか許されない。
一般論でも許されないのに。
お前の友人が不倫とか、さらに許されないっ」
お前まで不倫したらどうするっ? と言われるが。
いや、不倫って、相手いりますからね……。
っていうか、行正さん一人にこんなに振り回されてるのに。
さらに他の男の人とか、こりごりですよ、と咲子は思っていた。
ちょっと怖いし、厳しいけど。
行正さん以上に素敵な人なんて、きっとこの世にいませんしね、と。
室内ではちょうどシェフが炎を使って目の前でデザートを作る珍しいサービスをしていたので。
みんなそちらに注目していて、まだ、誰も文子たちのことには気づいていなかった。
ルイスが強引に文子を連れて行こうとしたが。
着物姿の文子はルイスのように大股では歩けないので、よろける。
そんな文子をルイスが支えた。
金髪碧眼で美形のルイスと着物姿の日本的で愛らしい文子。
「……素敵ですね」
とそんな場合ではないのに、咲子は、うっとりと見惚れてしまったが。
行正は、さっさと外に行こうとする。
「みんなに見つからないうちに止めてくる」
ええっ? 止めるんですかっ? と言いながら、咲子も行正について庭に下りた。
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