あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ

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箱から出てこない箱入り娘

幻聴が聞こえる……

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 海里さんから電話だっ。

 あまりは知らずテンションが高くなっていた。

「あっ、そうなんですか。
 いえ、なんでもないです」
と言ったあまりに、海里が、

『ところで、今日は暇か?』
と訊いてきた。

 つい、
「暇ですっ」
と勢い良く答えてしまう。

 あっ、しまった。

 海里さんを警戒中だったのに、と思ったが、遅かった。

 いや、まあ、本当に暇なのだが。

『今日は少し時間が取れそうだから、お前のうちに行ってもいいか』

「い、……家はちょっと」
と言うと、海里が笑うので、なにかと思ったら、

『そうかそうか。
 男を知って、警戒することを覚えたか。

 感心だな』
と何故か褒めてくる。

『その調子でおかしな男を部屋に上げるなよ。
 成田とか成田とか成田とか……』
と呪文のように繰り返してくるので、いや、成田さん、すぐそこに居るのですが、思ったが、幸い聞こえてはいないようだった。

『だが、俺は例外だ。
 お前の彼氏だからな』

 いや、いつ、そんなことが決まったんですか、と思っていると、
『……違うというのか。
 じゃあ、お前は、付き合ってもいない男とあんなことをした淫乱女ということだな』
と言ってくる。

 なんだかんだで押し切られた。

「わ、わかりました。
 じゃあ、食べないで待ってます、はい」
と言って電話を切る。

 成田が心配そうにこちらを見ていた。

「大丈夫か?
 なにかあったら、すぐ僕に連絡するか、警察に通報しろよ」

 いや、何故、警察に通報? と思いながらも、成田の気遣いには感謝し、
「ありがとうございます」
とあまりは深々と頭を下げた。



 あまりとの電話を切った海里は、ふう、と息をつく。

 スマホをデスクに置き、窓の外を見た。

 やった。
 よくやったぞ、俺、と自分で自分を褒めてやる。

 さりげなく誘えたはずだ。

 ……たぶん。

 やはり、仕事のときのように多少強引に出た方がいいのかも、と思う。

 今は隣りの部屋で仕事をしている寺坂の、
『お疲れ様です。
 よくやりましたね、支社長』
という幻聴が聞こえた。

 満足して仕事に戻る。


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