オタク姫 ~100年の恋~

菱沼あゆ

文字の大きさ
9 / 65
夢の中で乙女ゲームの世界っぽいところに迷い込みました

王子が電車に乗っています

しおりを挟む

 
 電車に乗ったら、いつも、ぼんやり外を見ている。

 目を休めるタイミングがここしかない気がするからだ。

 朝霞は、いつものように出入り口付近立ち、外の景色を眺めていた。

 誰かと一緒のとき以外、席に座ることはない。

 前にご老人とか立たれると、どきどきしてしまうからだ。

 席を譲るべきだよな。

 でも、わしはまだ若いっ、とか言って、怒られるかもしれないしな~。

 私だって、まだ若いつもりのときに譲られたらやだしな~、
とか迷って、どうしていいかわからなくなるからだ。

 我ながらヘタレだな、と思ったとき、ふと、いつもは見ないのに、車内を眺めてみた。

 すると、隣の車両へ続く扉付近に座って本を読んでいる男が見えた。

「ああっ、王子っ」

 えっ? 王子っ?
という顔で、みんながキョロキョロし始める。

 朝霞が本を読んでいた十文字のところに行って、
「なんでこの電車に乗ってるんですか?」
と話しかけると、十文字は少し赤くなり、

「お前……、今のセリフのあとに、俺に話しかけるな」
と言ってくる。

 確かに。

 周囲が、あの人が王子。

 ああ、王子って感じねーという雰囲気で十文字を眺めていた。

 すみません、と朝霞は苦笑いしたあとで、言い訳をする。

「でも、王子って名字かもしれないじゃないですか。
 ところで、王子、なんで、この電車に乗ってるんです?」

 だから、王子やめろ、という顔をしたあとで、十文字はひとつ溜息をついて言った。

「いつも一緒に乗ってるが。
 気づいてなかったのか」

「き、気づきませんでした……」

「俺は気づいていた」
と言いながら、十文字は本を閉じる。

「お前がいつも、窓の外を見ながら、どんな妄想を巡らせているのか、にやにやしているのを眺めていた」

「……すみません。
 ゲームのことを考えてました」

 だろうな、と言われてしまう。

「ところで王子」

「だから、王子やめろ。
 十文字だ」

「わかりました、先輩」

「……今、俺が名乗った意味、なくないか?」


 

「あの、男といるの、朝霞ちゃんじゃないか?」

 一緒に電車に乗っていた友人にそう言われ、廣也は隣の車両を見た。

「……十文字じゃないか」

 学校は違うが、十文字のことはよく知っている。
 昔、サッカーをやっていた頃、試合で頻繁に出会っていたからだ。

 いつの間に、と思いながら、仲良く話している二人の様子を眺める。

 十文字がなにか言い、朝霞が赤くなる。

 十文字が奥側へと席をずれ、朝霞は困ったハムスターのような不思議な顔をしたあとで、譲ってもらった席に、ちょこんと座っていた。

 ……どうした、朝霞。
 可愛いじゃないか。

 家でのダラダラした感じはそこにはなく、本当に姫っぽいが。
 今は、特に優等生キャラを演じているわけでもないようだった。

「サマになるな、美男美女で」

 いいなあ、うらやましいなあ、とその友人、大毅だいきは、まだ隣の車両を窺いながら言ってくる。

「お前、あれ、やらないのか? あれ。
 ほら、うちの妹は、お前のようなヤツにはやらんとか」

 何故か、大毅はワクワクしている感じで言ってくる。

「俺、一度言ってみたいんだよ。
 兄貴の夢だよな」
と笑う大毅に、

「自分の妹のときに言えばいいじゃないか」
と言ってみたが、

「いや、うちの場合、もらってくれるという相手がいたら、急いで押し付けないと逃げられそうだからな……」

 そんなこと恐ろしくて言えん、と大毅は言う。

「そんなことないだろ。
 朝霞こそ、ろくなもんじゃないが、でも――。

 まあ、朝霞が美人だろうが、そうじゃなかろうが。
 姫だろうが、下郎げろうだろうが」

「下郎?」

「俺にとっては大事な妹だからな」
と廣也はもう一度、十文字といる朝霞を覗く。

「まあ、俺が認めたヤツにしかやりたくはないが」

 十文字か――。

「まあ、とりあえず、名乗りを上げてこないヤツよりはマシかな」

 大毅が後ろで、
「誰のことだ?」
と言っていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

アリア

桜庭かなめ
恋愛
 10年前、中学生だった氷室智也は遊園地で迷子になっていた朝比奈美来のことを助ける。自分を助けてくれた智也のことが好きになった美来は智也にプロポーズをする。しかし、智也は美来が結婚できる年齢になったらまた考えようと答えた。  それ以来、2人は会っていなかったが、10年経ったある春の日、結婚できる年齢である16歳となった美来が突然現れ、智也は再びプロポーズをされる。そのことをきっかけに智也は週末を中心に美来と一緒の時間を過ごしていく。しかし、会社の1年先輩である月村有紗も智也のことが好きであると告白する。  様々なことが降りかかる中、智也、美来、有紗の三角関係はどうなっていくのか。2度のプロポーズから始まるラブストーリーシリーズ。  ※完結しました!(2020.9.24)

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...