オタク姫 ~100年の恋~

菱沼あゆ

文字の大きさ
上 下
10 / 65
夢の中で乙女ゲームの世界っぽいところに迷い込みました

王子とふたりは緊張します

しおりを挟む
 

 王子に座れと言われたので、座ってみましたが、緊張するではないですか。

 十文字に命じられ、隣に座ってみたものの、朝霞はできるだけ通路側に寄って座っていた。

 十文字も朝霞も細身なので、そんなに避けずとも、そもそも間は空いていたのだが――。

「あ、あのー、王子は……」

 緊張に耐えかね、口を開いてみたのだが。

 うっかり王子と言ってしまって、睨まれ、また緊張する。

 だが、もう話しかけてしまったので、そのまま最後まで言ってみた。

「あの、先輩は楽器はお得意ですか?」

 夢でオカリナを吹いてくれた王子のことを思い出しながら、そう訊くと、

「楽器って、なんのだ?」
と十文字に訊き返される。

「いや、なんでもいいんですけど」
と朝霞が言うと、十文字は少し迷ったあとで、

「……カスタネットなら得意だぞ」
と言ってきた。

 あまり楽器は得意ではないようだ。

 朝霞が、ぴぱー、とオカリナでおかしな音を出していた王子を思い出していると、十文字は少し沈黙したあとで、

「トライアングルなら得意だぞ」
と付け足してきた。

 いや、無理やり足さなくても、と思いながら、朝霞は訊いてみた。

「先輩、トライアングルって、いつ鳴らす機会があるんですか?

 ああ、……カラオケ?」

「お前、なに歌ってんだ、カラオケ……」

 などとくだらぬ話をしているうちに、朝霞の降りる駅に着いてしまった。

 そうか。
 私が先か、と朝霞は思う。

 まあ、そうだよな。
 そうじゃなきゃ、先輩乗ってくるときに、さすがに顔を合わせてるはずだもんな。

 通学電車というものは、乗降する駅やその時間帯の車両の混み具合によって、乗る車両がおのずと決まってくるものだからだ。

 降りるときは、私は戸口に立ってるから、着いたら、すぐに降りちゃうし。

 先輩がいても、気がつかないよな~、と思う。

 さっきまでガチガチに緊張していて、早くここから逃げ出したいと思っていたのだが。
 いざ、そのときが来ると、ちょっと寂しい。

 だが、ぐずぐずしていると降りそびれるので、朝霞は、
「失礼します」
と深々と頭を下げて、席を立った。

 電車を降り、二、三歩歩いて、振り返る。

 先輩、どうせ、またすぐ本とか読んでるんだろうなーと思ったが、十文字はこちらを見ていた。

 ただ、それだけなのだが、なんだかすごく嬉しくなり、朝霞は慌てて、何度も頭を下げた。

 すると、十文字は、阿呆か、という顔をしたあとで、目をそらしてしまう。

 しまったあああああっ。
 やりすぎたーっ、と思ったとき、
「おい」
と誰かに肩を叩かれた。

 振り向くと、兄、廣也が立っていた。

「おにいちゃん、今日は一緒の電車だったのね。
 って、あーっ、電車出ちゃったーっ」

 よそ見している間に、十文字の乗った電車はホームを出てしまっていた。

 ああ~……と名残惜しげに見送る朝霞に、廣也が言ってきた。

「お前、いつから、十文字と付き合ってんだ」

「え?
 おにいちゃん、先輩を知ってるの?」

「まあ、とりあえず、来い」
と引きずって行かれる。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

処理中です...