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第二章 相思相愛編
アーリヤの部屋
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「さあ。入って。」
「お、お邪魔します…。」
アーリヤに促され、リスティーナは遠慮がちに部屋に入った。
アーリヤの部屋はリスティーナの部屋よりも広く、雰囲気もリスティーナの部屋と全然違う。
天井からは色とりどりのランプが吊り下がっていて、灯りのついたたくさんのランプが室内を照らしている。
家具も調度品も異国の物で揃えられている。鮮やかな色合いと繊細で優美な柄と模様が入ったクッションやカーテン、絨毯に目が奪われる。
異国情緒あふれた部屋にリスティーナはまるで自分が異国にいるかのような気がした。
「わあ…。綺麗…。」
思わず室内をキョロキョロと見回し、声を上げるリスティーナ。
「あの、ここに置いてある物はもしかして、アーリヤ様のお国の…?」
「ええ。そうよ。これ、ほとんどがパレフィエ国から持ってきた私の花嫁道具なの。」
「素晴らしいです…!パレフィエ国にはこんなにも素敵な物があるのですね。まるでここだけ別世界みたいです。」
リスティーナは興奮した様子でランプを眺めたり、見たことのない陶芸品を見たりして、楽しんだ。
何せ、リスティーナはメイネシア国とローゼンハイム国以外に行った事がない。
パレフィエ国のような砂漠の国には一度も行った事がなかった。
当然、伝統工芸品を手にしたこともないし、見たこともないのだ。
初めて目にする物にリスティーナは見惚れた。
「嬉しいわ。私の故郷をそんな風に言ってくれるなんて。」
アーリヤはフフッと嬉しそうに笑った。
ハッとリスティーナは我に返った。
しまった。つい、はしゃいでしまった。
「も、申し訳ありません。私ったら…、」
「あら、いいのよ。そんなに喜んでくれるなんて私も誇らしいわ。故郷の物を褒められて、喜ばない人はいないもの。ねえ、カーラ?」
「はい。アーリヤ様。」
リスティーナはアーリヤの傍に控えている一人の侍女に目を向けた。
アーリヤ様と同じ褐色の肌を持った黒髪の綺麗な女性だ。
もしかして、この人もパレフィエ国の…?
そう思っていると、アーリヤはリスティーナに侍女を紹介した。
「ああ。そうそう。紹介しておくわね。この子はカーラ。私の専属侍女なの。私と同じパレフィエ国出身で小さい頃からずっと私に仕えてくれている侍女よ。」
「お初にお目にかかります。カーラと申します。」
深々と頭を下げるカーラにリスティーナも頭を下げて挨拶をした。
「は、初めまして。メイネシア国の第四王女、リスティーナといいます。突然、お邪魔してしまい、すみません。」
「まあ、これはご丁寧に…。よろしいのですよ。アーリヤ様はあまり親しい友人がいませんので、心配しておりましたの。同じ後宮の女性ともほとんど交流をしていなかったので…。」
カーラがリスティーナを見て嬉しそうに言った。
「どうぞ、ごゆっくりお過ごしください。リスティーナ様のような方がアーリヤ様のお友達になって下さるのなら嬉しいですわ。」
好意的な反応にリスティーナは戸惑った。もしかして、この二人、私の出自を知らないんじゃ…。
私が由緒正しい血筋の王女じゃないと知ったら、どう思うだろうか。リスティーナは曖昧にしか頷くことができなかった。
アーリヤがカーラ以外の侍女に何かを指示し、その侍女は奥の部屋に引っ込んだ。
「今、カーラがお茶を用意してくれるから。さ、そこへ座って。」
アーリヤに促され、リスティーナはソファーに腰を下ろした。その時、カーラが温かいお茶とお菓子を運んできた。
彫り硝子調で高級感がある鮮やかな赤い色をしたグラス…。このグラスもエキゾチックで素敵…。
リスティーナはじっとグラスを見つめた。
グラスに注がれた飲み物からは湯気が立っている。
これは、ミルクティー?でも、スパイスの香りがするから普通のミルクティーとは違うような…。
「これは…?」
「それはチャイという飲み物ですわ。ミルクティーの一種でパレフィエ国に伝わるお茶ですの。
一般的なミルクティーと違って、シナモンやカルダモンといったスパイスを使っています。お好みでジンジャーや砂糖、蜂蜜を加えるとまた違った味が楽しめますのよ。」
カーラの説明にリスティーナはへえ、と興味深げに聞き入った。
「これ、グラスですけど、熱い物を入れても大丈夫なんですか?」
こんなに薄いグラスなのに、割れたりしないのだろうか。リスティーナの質問にカーラがにこやかに答えた。
「ご安心を。そちらは、耐熱性のあるグラスですの。」
「耐熱性の…?そんな物まであるんですね。」
パレフィエ国は随分と技術が進んだ文化なのね。
リスティーナは感心した。グラスを手に取って、チャイを一口飲んだ。
「わ…、美味しい。」
シナモンの上品な香りと爽やかさが混ざり合い、深い香りが漂っている。そして、コクと甘さが絶妙な味加減となっている。
「お気に召しましたか?」
「はい!とても美味しいです。スパイスが効いて、普通のミルクティーと全然違うんですね。」
「気に入ってくれたのなら、良かったわ。私もこれ、好きなのよ。小さい頃から、これを飲んで育ったせいか普通のミルクティーでは物足りなくなってしまうのよねえ。」
「それは、分かる気がします。こんなに美味しいお茶ですもの。」
リスティーナはアーリヤの言葉に頷いた。
社交辞令ではなく、本当にそう思った。
「アーリヤ様。頼まれていた本をお持ちしました。」
そう言って、他の侍女がアーリヤに古びた本を渡した。
「それは…?」
「これは、呪術に関する文献を集めた書物で『呪術全書』という本よ。暫く、使ってなかったから埃を被っているけど。」
「呪術全書…。」
そんな本があるんだ…。
「じゃあ、早速始めましょうか。まず、確認だけど…、リスティーナ様は呪いについてどこまで知っているの?」
「あ…、実は私、今までそういう本を読んだことがないので知識は全くなくて…。」
「成程。じゃあ、まずは基礎編から教えていくわね。」
そう言って、アーリヤはパラ、とページを捲ってリスティーナに見せながら、説明する。
「まずは呪術の歴史から…、」
アーリヤの説明は分かりやすかった。呪術は長い歴史を持ち、奥が深い分野であることも知った。
呪術という分野はかなり、幅広い知識が必要で覚えることも大変だ。
一つ一つを丁寧に理解するのは莫大な時間がかかるらしい。
だから、アーリヤは端的な部分だけを重点的に教えてくれた。お蔭で全体的に呪術の事を理解できた気がする。
「でも、何でリスティーナ様は急に呪術の本を調べようと思ったの?もしかして、誰か呪いたい人でもいるとか?」
休憩中、アーリヤからの質問にリスティーナはグッ…、と咽そうになった。
「ち、違います!そんなんじゃないんです!私は…、ただ…、ある方の呪いを解く方法を知りたくて…、」
「呪いを?…もしかして、それって、ルーファス殿下のこと?」
「ッ!?」
「あら。図星だったみたいね。」
リスティーナの表情を見て、アーリヤはクスッと笑った。
「それであんなに必死になって本に齧りついていたのね。フフッ…、健気な人ね。あなたって…。」
「あ、あの…、ひゃっ!?」
アーリヤがツツ―、とリスティーナの項に指を滑らせた。
思わずビクッと反応してしまい、変な声が出てしまう。
「な、何を…!?」
「あら、ごめんなさい。虫がいたような気がしたんだけど…、気のせいだったみたい。擽ったかった?」
「い、いえ…。あの、ただ、いきなりだったのでびっくりしてしまって…、」
リスティーナの言葉にアーリヤはニコニコしたまま、じっとこちらを見つめてきた。
顔は笑っているのに捕食者の目をしていて、怖い。
「あの…?」
「ねえ…、リスティーナ様って、もう男を知っているんでしょう?しかも、相手はルーファス王子。」
「!?」
リスティーナは持っていたグラスを危うく、取り落としそうになった。
「私、見たのよ。ルーファス王子とあなたが朝帰りしている所を。
それに、昨日は雨の中、ルーファス王子と一緒にいたでしょう?
そして、そのまま朝まで一緒にいた。つまり、あなた達ってそういう関係なんでしょう。」
「ど、どうして、それを…?」
「朝帰りや雨の日に見たのは本当にただの偶然。さすがに昨日から朝までずっと一緒にいることは知らなかったけど、今日の朝、ダニエラが煩い位、騒いでいたからね。それでぴん、ときたわけ。」
リスティーナはギュッと膝の上に置いた手を握り締めた。
落ち着いて…。私は別に何も疚しい事はしていない。私はルーファス殿下の妻なのだから、彼に抱かれた所で何もおかしい事なんてないのだから。
「もしかして…、情が移ってしまったのかしら?女にとって、初めては大切だものね。
でも、よりにもよって何でルーファス王子を選んだの?ああ。もしかして、無理矢理関係を迫られたとか?あの男なら、やりかねないわよね。何せ、女子供も容赦なく殺す人だもの。女を犯すことだって平気な顔して…、」
「っ、違います!殿下はそんな方じゃありません!」
リスティーナは思わず立ち上がって、叫んだ。
「それに、無理矢理なんかじゃありません!私は自分の意思で殿下を受け入れたのです!」
リスティーナの反応にアーリヤは目を瞠った。
そして、へえ…、と興味深げに呟き、
「何だ…。あなたって、そんな顔もできるのね。ただのお人形さんってわけでもなさそうね。」
アーリヤはフフッと怪しげに笑い、蠱惑的な目でリスティーナを見つめた。
リスティーナはアーリヤに見つめられた瞬間、背筋がゾクッとした。何…?今の…?
そんな違和感を抱くがすぐにアーリヤはニコッと笑った。
そこには、さっきの怪しさは欠片も見当たらない。
アーリヤは眉根を下げ、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ごめんなさい。私、ルーファス王子の事を誤解してしまったみたい。彼には怖い噂しか聞かないから、ついケダモノのような人だと思ってしまって…。でも、違ったのね。ルーファス王子って噂程、ひどい人じゃないのね。」
「っ!ええ!そうなんです!」
リスティーナはアーリヤの言葉に頷き、パアッ、と顔を輝かせた。
彼が噂通りの人ではないのだと分かって貰えたのが嬉しかった。
「殿下は一見、怖そうに見えるかもしれませんが、本当はとても優しくて、誠実で紳士的な素晴らしい方なんです!」
「へえ。そうなの。やっぱり、噂って当てにならないわね。」
「はい!」
リスティーナはアーリヤ様に話してよかったと思った。
やっぱり、ちゃんと事情を話せば分かる人には分かるんだ。
もしかしたら、話せば分かってくれる人は他にもいるかもしれない。
リスティーナはそう思った。アーリヤは目を細めた。
「お、お邪魔します…。」
アーリヤに促され、リスティーナは遠慮がちに部屋に入った。
アーリヤの部屋はリスティーナの部屋よりも広く、雰囲気もリスティーナの部屋と全然違う。
天井からは色とりどりのランプが吊り下がっていて、灯りのついたたくさんのランプが室内を照らしている。
家具も調度品も異国の物で揃えられている。鮮やかな色合いと繊細で優美な柄と模様が入ったクッションやカーテン、絨毯に目が奪われる。
異国情緒あふれた部屋にリスティーナはまるで自分が異国にいるかのような気がした。
「わあ…。綺麗…。」
思わず室内をキョロキョロと見回し、声を上げるリスティーナ。
「あの、ここに置いてある物はもしかして、アーリヤ様のお国の…?」
「ええ。そうよ。これ、ほとんどがパレフィエ国から持ってきた私の花嫁道具なの。」
「素晴らしいです…!パレフィエ国にはこんなにも素敵な物があるのですね。まるでここだけ別世界みたいです。」
リスティーナは興奮した様子でランプを眺めたり、見たことのない陶芸品を見たりして、楽しんだ。
何せ、リスティーナはメイネシア国とローゼンハイム国以外に行った事がない。
パレフィエ国のような砂漠の国には一度も行った事がなかった。
当然、伝統工芸品を手にしたこともないし、見たこともないのだ。
初めて目にする物にリスティーナは見惚れた。
「嬉しいわ。私の故郷をそんな風に言ってくれるなんて。」
アーリヤはフフッと嬉しそうに笑った。
ハッとリスティーナは我に返った。
しまった。つい、はしゃいでしまった。
「も、申し訳ありません。私ったら…、」
「あら、いいのよ。そんなに喜んでくれるなんて私も誇らしいわ。故郷の物を褒められて、喜ばない人はいないもの。ねえ、カーラ?」
「はい。アーリヤ様。」
リスティーナはアーリヤの傍に控えている一人の侍女に目を向けた。
アーリヤ様と同じ褐色の肌を持った黒髪の綺麗な女性だ。
もしかして、この人もパレフィエ国の…?
そう思っていると、アーリヤはリスティーナに侍女を紹介した。
「ああ。そうそう。紹介しておくわね。この子はカーラ。私の専属侍女なの。私と同じパレフィエ国出身で小さい頃からずっと私に仕えてくれている侍女よ。」
「お初にお目にかかります。カーラと申します。」
深々と頭を下げるカーラにリスティーナも頭を下げて挨拶をした。
「は、初めまして。メイネシア国の第四王女、リスティーナといいます。突然、お邪魔してしまい、すみません。」
「まあ、これはご丁寧に…。よろしいのですよ。アーリヤ様はあまり親しい友人がいませんので、心配しておりましたの。同じ後宮の女性ともほとんど交流をしていなかったので…。」
カーラがリスティーナを見て嬉しそうに言った。
「どうぞ、ごゆっくりお過ごしください。リスティーナ様のような方がアーリヤ様のお友達になって下さるのなら嬉しいですわ。」
好意的な反応にリスティーナは戸惑った。もしかして、この二人、私の出自を知らないんじゃ…。
私が由緒正しい血筋の王女じゃないと知ったら、どう思うだろうか。リスティーナは曖昧にしか頷くことができなかった。
アーリヤがカーラ以外の侍女に何かを指示し、その侍女は奥の部屋に引っ込んだ。
「今、カーラがお茶を用意してくれるから。さ、そこへ座って。」
アーリヤに促され、リスティーナはソファーに腰を下ろした。その時、カーラが温かいお茶とお菓子を運んできた。
彫り硝子調で高級感がある鮮やかな赤い色をしたグラス…。このグラスもエキゾチックで素敵…。
リスティーナはじっとグラスを見つめた。
グラスに注がれた飲み物からは湯気が立っている。
これは、ミルクティー?でも、スパイスの香りがするから普通のミルクティーとは違うような…。
「これは…?」
「それはチャイという飲み物ですわ。ミルクティーの一種でパレフィエ国に伝わるお茶ですの。
一般的なミルクティーと違って、シナモンやカルダモンといったスパイスを使っています。お好みでジンジャーや砂糖、蜂蜜を加えるとまた違った味が楽しめますのよ。」
カーラの説明にリスティーナはへえ、と興味深げに聞き入った。
「これ、グラスですけど、熱い物を入れても大丈夫なんですか?」
こんなに薄いグラスなのに、割れたりしないのだろうか。リスティーナの質問にカーラがにこやかに答えた。
「ご安心を。そちらは、耐熱性のあるグラスですの。」
「耐熱性の…?そんな物まであるんですね。」
パレフィエ国は随分と技術が進んだ文化なのね。
リスティーナは感心した。グラスを手に取って、チャイを一口飲んだ。
「わ…、美味しい。」
シナモンの上品な香りと爽やかさが混ざり合い、深い香りが漂っている。そして、コクと甘さが絶妙な味加減となっている。
「お気に召しましたか?」
「はい!とても美味しいです。スパイスが効いて、普通のミルクティーと全然違うんですね。」
「気に入ってくれたのなら、良かったわ。私もこれ、好きなのよ。小さい頃から、これを飲んで育ったせいか普通のミルクティーでは物足りなくなってしまうのよねえ。」
「それは、分かる気がします。こんなに美味しいお茶ですもの。」
リスティーナはアーリヤの言葉に頷いた。
社交辞令ではなく、本当にそう思った。
「アーリヤ様。頼まれていた本をお持ちしました。」
そう言って、他の侍女がアーリヤに古びた本を渡した。
「それは…?」
「これは、呪術に関する文献を集めた書物で『呪術全書』という本よ。暫く、使ってなかったから埃を被っているけど。」
「呪術全書…。」
そんな本があるんだ…。
「じゃあ、早速始めましょうか。まず、確認だけど…、リスティーナ様は呪いについてどこまで知っているの?」
「あ…、実は私、今までそういう本を読んだことがないので知識は全くなくて…。」
「成程。じゃあ、まずは基礎編から教えていくわね。」
そう言って、アーリヤはパラ、とページを捲ってリスティーナに見せながら、説明する。
「まずは呪術の歴史から…、」
アーリヤの説明は分かりやすかった。呪術は長い歴史を持ち、奥が深い分野であることも知った。
呪術という分野はかなり、幅広い知識が必要で覚えることも大変だ。
一つ一つを丁寧に理解するのは莫大な時間がかかるらしい。
だから、アーリヤは端的な部分だけを重点的に教えてくれた。お蔭で全体的に呪術の事を理解できた気がする。
「でも、何でリスティーナ様は急に呪術の本を調べようと思ったの?もしかして、誰か呪いたい人でもいるとか?」
休憩中、アーリヤからの質問にリスティーナはグッ…、と咽そうになった。
「ち、違います!そんなんじゃないんです!私は…、ただ…、ある方の呪いを解く方法を知りたくて…、」
「呪いを?…もしかして、それって、ルーファス殿下のこと?」
「ッ!?」
「あら。図星だったみたいね。」
リスティーナの表情を見て、アーリヤはクスッと笑った。
「それであんなに必死になって本に齧りついていたのね。フフッ…、健気な人ね。あなたって…。」
「あ、あの…、ひゃっ!?」
アーリヤがツツ―、とリスティーナの項に指を滑らせた。
思わずビクッと反応してしまい、変な声が出てしまう。
「な、何を…!?」
「あら、ごめんなさい。虫がいたような気がしたんだけど…、気のせいだったみたい。擽ったかった?」
「い、いえ…。あの、ただ、いきなりだったのでびっくりしてしまって…、」
リスティーナの言葉にアーリヤはニコニコしたまま、じっとこちらを見つめてきた。
顔は笑っているのに捕食者の目をしていて、怖い。
「あの…?」
「ねえ…、リスティーナ様って、もう男を知っているんでしょう?しかも、相手はルーファス王子。」
「!?」
リスティーナは持っていたグラスを危うく、取り落としそうになった。
「私、見たのよ。ルーファス王子とあなたが朝帰りしている所を。
それに、昨日は雨の中、ルーファス王子と一緒にいたでしょう?
そして、そのまま朝まで一緒にいた。つまり、あなた達ってそういう関係なんでしょう。」
「ど、どうして、それを…?」
「朝帰りや雨の日に見たのは本当にただの偶然。さすがに昨日から朝までずっと一緒にいることは知らなかったけど、今日の朝、ダニエラが煩い位、騒いでいたからね。それでぴん、ときたわけ。」
リスティーナはギュッと膝の上に置いた手を握り締めた。
落ち着いて…。私は別に何も疚しい事はしていない。私はルーファス殿下の妻なのだから、彼に抱かれた所で何もおかしい事なんてないのだから。
「もしかして…、情が移ってしまったのかしら?女にとって、初めては大切だものね。
でも、よりにもよって何でルーファス王子を選んだの?ああ。もしかして、無理矢理関係を迫られたとか?あの男なら、やりかねないわよね。何せ、女子供も容赦なく殺す人だもの。女を犯すことだって平気な顔して…、」
「っ、違います!殿下はそんな方じゃありません!」
リスティーナは思わず立ち上がって、叫んだ。
「それに、無理矢理なんかじゃありません!私は自分の意思で殿下を受け入れたのです!」
リスティーナの反応にアーリヤは目を瞠った。
そして、へえ…、と興味深げに呟き、
「何だ…。あなたって、そんな顔もできるのね。ただのお人形さんってわけでもなさそうね。」
アーリヤはフフッと怪しげに笑い、蠱惑的な目でリスティーナを見つめた。
リスティーナはアーリヤに見つめられた瞬間、背筋がゾクッとした。何…?今の…?
そんな違和感を抱くがすぐにアーリヤはニコッと笑った。
そこには、さっきの怪しさは欠片も見当たらない。
アーリヤは眉根を下げ、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ごめんなさい。私、ルーファス王子の事を誤解してしまったみたい。彼には怖い噂しか聞かないから、ついケダモノのような人だと思ってしまって…。でも、違ったのね。ルーファス王子って噂程、ひどい人じゃないのね。」
「っ!ええ!そうなんです!」
リスティーナはアーリヤの言葉に頷き、パアッ、と顔を輝かせた。
彼が噂通りの人ではないのだと分かって貰えたのが嬉しかった。
「殿下は一見、怖そうに見えるかもしれませんが、本当はとても優しくて、誠実で紳士的な素晴らしい方なんです!」
「へえ。そうなの。やっぱり、噂って当てにならないわね。」
「はい!」
リスティーナはアーリヤ様に話してよかったと思った。
やっぱり、ちゃんと事情を話せば分かる人には分かるんだ。
もしかしたら、話せば分かってくれる人は他にもいるかもしれない。
リスティーナはそう思った。アーリヤは目を細めた。
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