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第二話 紅梅
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洸永遼より早く起きて準備をしながら、俺は正直落ち込んでいた。結局昨夜、俺は彼の腕の中で寝落ちしてしまったのだ。かろうじて彼より早く目を覚ますことができたものの、結局俺がしたことといえば添い寝だけ。
そもそもああいう状況になったからって、いきなり体調不良になるなんて。今までの人生でそんなことはなかったし、なんだかすごく情けない気持ちだった。元気なら、毅然と断ることも出来たかもしれないのに。……出来なかったかもしれないけど。
俺が転生していなければ、あのゲームどおり雪柳は洸永遼をも虜にして、破竹の快進撃を続けていたかもしれない。雪柳は攻略対象によって変化するキャラなので、正直掴めないところはあったが、頭の回転が早く度胸もあり、魅力にあふれた少年だった。
一方今の俺は、妓楼で生きて行く覚悟も力もなく。洸永遼にしても真波さんにしても、結果的にその情けに生かされているようなものだ。
……俺はこれから、どうやって生きていけばいいんだろう?
そんなことを思いながらも、髪を整え、顔も拭いて、白粉をはたき、くちびるに少しだけ紅を差す。鏡台で確認をし、秋櫻から湯とお茶セットを受け取って、洸永遼が起きるのを待つ。
んん、と声がしたので寝台に向かった。閉じた目がふと開いて、目をしばたたかせながら俺を見る。
「……ん。おはよう」
いきなり手首を掴まれた。そしてそのまま布団に引きずり込まれる。
「うわっ」
「朝から可愛いね」
あたたかい、大きな体に抱きこまれて息が止まる。エキゾチックな香りが鼻をくすぐる。
「君はやはり暖かいな……」
くすくすと笑う声が聞こえ、かっと身体が熱くなる。彼は俺をじっと見つめて囁いた。まだ夢うつつなのか、くっきりした二重の目がとろんとしている。
「次は……もう少し艶めいたことがあるといいんだけど」
にこ、と微笑んだ。ふいに罪悪感に襲われて、思わず呟いた。
「……ごめんなさい。僕は……男妓失格です」
すると彼は少し気まずそうに、目を瞬かせた。
「あー……冗談だよ。気が乗らなければ客と寝る必要はない。ここの男妓ならそれくらい許されるんだから」
「え……?」
そうなのか? そういえば吉原の遊女はそういうこともあったと聞いたことがある。でも、下っぱでも許されるんだろうか。
「それにそもそも君は孵化前だし、規則を破ったのは私の方だ。鶴兄さんには内緒にしておいてくれると、助かる」
唇に手を当てて、困ったように言う。「もちろんです」と真面目に返すと、彼は笑い返してくれた。そして、俺を抱き寄せ、また髪に顔を埋めた。
「ああ、調子がくるうな」
呟きが聞こえ、俺の顔をのぞきこむ。そして指が俺の唇に触れた。
「……『紅梅』は、君みたいな子だったのかもしれないな」
……紅梅? きょとんとする俺をよそに、彼はふわりと優しげな微笑みを浮かべた。
「……さあ、名残惜しいけど、一日をはじめようか」
そもそもああいう状況になったからって、いきなり体調不良になるなんて。今までの人生でそんなことはなかったし、なんだかすごく情けない気持ちだった。元気なら、毅然と断ることも出来たかもしれないのに。……出来なかったかもしれないけど。
俺が転生していなければ、あのゲームどおり雪柳は洸永遼をも虜にして、破竹の快進撃を続けていたかもしれない。雪柳は攻略対象によって変化するキャラなので、正直掴めないところはあったが、頭の回転が早く度胸もあり、魅力にあふれた少年だった。
一方今の俺は、妓楼で生きて行く覚悟も力もなく。洸永遼にしても真波さんにしても、結果的にその情けに生かされているようなものだ。
……俺はこれから、どうやって生きていけばいいんだろう?
そんなことを思いながらも、髪を整え、顔も拭いて、白粉をはたき、くちびるに少しだけ紅を差す。鏡台で確認をし、秋櫻から湯とお茶セットを受け取って、洸永遼が起きるのを待つ。
んん、と声がしたので寝台に向かった。閉じた目がふと開いて、目をしばたたかせながら俺を見る。
「……ん。おはよう」
いきなり手首を掴まれた。そしてそのまま布団に引きずり込まれる。
「うわっ」
「朝から可愛いね」
あたたかい、大きな体に抱きこまれて息が止まる。エキゾチックな香りが鼻をくすぐる。
「君はやはり暖かいな……」
くすくすと笑う声が聞こえ、かっと身体が熱くなる。彼は俺をじっと見つめて囁いた。まだ夢うつつなのか、くっきりした二重の目がとろんとしている。
「次は……もう少し艶めいたことがあるといいんだけど」
にこ、と微笑んだ。ふいに罪悪感に襲われて、思わず呟いた。
「……ごめんなさい。僕は……男妓失格です」
すると彼は少し気まずそうに、目を瞬かせた。
「あー……冗談だよ。気が乗らなければ客と寝る必要はない。ここの男妓ならそれくらい許されるんだから」
「え……?」
そうなのか? そういえば吉原の遊女はそういうこともあったと聞いたことがある。でも、下っぱでも許されるんだろうか。
「それにそもそも君は孵化前だし、規則を破ったのは私の方だ。鶴兄さんには内緒にしておいてくれると、助かる」
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「ああ、調子がくるうな」
呟きが聞こえ、俺の顔をのぞきこむ。そして指が俺の唇に触れた。
「……『紅梅』は、君みたいな子だったのかもしれないな」
……紅梅? きょとんとする俺をよそに、彼はふわりと優しげな微笑みを浮かべた。
「……さあ、名残惜しいけど、一日をはじめようか」
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