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本編

強面カイル

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誘拐された数日後、私は孤児院に来ています。カイルさんや、シェイドさんも一緒です。あと、護衛の騎士さんも一緒です。


あの日誘拐されたのは、私が勝手な行動をしたからです。だから、罰を受けたいってお母さんに言ったら、

『じゃあ、私の代わりに孤児院に行ってきてくれる?』

お母さんが、毎週行う慈善事業だそうです。

金銭だけじゃなく、衣類や書物、食事や勉強を教えたりするんだと聞きました。
私も教わってる途中なのに、誰かを教えることが出来るんでしょうか?
不安ですが、やれるだけやってみます!
任せてくれた、お母さんの信頼に応えるためにもっ

カイルさんとシェイドさんも、一緒に罰を受けてくれるらしくて……2人は剣術や護身術を子供達に教えるそうです。

ただ……

「……」
「……」
「……?」

カイルさんの顔が、強ばってる気がします…それから、落ち込んでる?気がします。
シェイドさんは、いつものように微笑んでますけど…どうしたのかな?

「あの……」
「心配ないわよ」
「え?」
「カイルはね、子供好きなのに子供に恐がられるの」

(そうなの?)

私はカイルさんの顔を覗き込んだ。覗き込むと、弱々しく笑い返してくれるカイルさん。


「貴方だけよ。カイルを怖がらなかったのは」
「カイルさん、怖い?」

私はカイルさんよりも……

セシリアは、バルディオスを思い出していた……

汚い物を見るような目や、自分を殴る大きな手……セシリアは、思っていた。カイルよりも、バルディオスの方が何倍も怖かったと。

「怖くないよ。カイルさんは、初めて会った時から凄く優しかったもの」

私の言葉にカイルさんが嬉しそうに笑った。
シェイドさんも、暖かな笑顔を浮かべ、私達を眺め見ていた。


そうして過ごしているうちに、馬車は教会に着きました。教会は、街中から少し外れていて、静かで厳かな雰囲気を感じました。

悪い事してないつもりだけど……何だか、「ごめんなさい」って言いたくなります。

あ……悪い事したんだった……
私が勝手な行動をして、皆に迷惑かけたんだから……神様にも、ちゃんと謝罪しないと…



私が訪れる孤児院は、教会の隣にあるんです。
教会が運営してると聞きました。

教会の前には、シスターさんが2人立っていました。

「セシリア様、ようこそおいで下さいました」

シスターさんが深くお辞儀したので、私も頭を下げました。でも、前みたいな深々としたお辞儀じゃなくて、少し下げるだけです。

シェイドさんとカイルさんも、同じように少し頭を下げました。

シスターさんの案内で、孤児院に連れて行って貰いました。荷物は、シェイドさんとカイルさんに持ってもらって。

カイルさん、すごく力持ちなんです!
シェイドさんの倍以上持ってるのに、顔色ひとつ変わらないんです!
シェイドさんだって、両手に沢山の荷物を持ってるのにっです!

ふだんの話し方は女性らしいのに、こういうのを見ると男の人なんだなと思います。重たい荷物を持って貰ったり、戦ってる姿の事です。

「あっ!シスターだっ!」
「あれ?いつものおばさんじゃない」
「この子、だぁれ?」

外で遊んでいた子供達が、沢山集まって来ました!
私と同じ位の子かな?

孤児院にいる子達は、みんな親を亡くした子たちなんだって聞きました。だけど、お互いを助け合って頑張って生きてるんだって、お母さんが言ってました。

「私は、セシリアって言います。いつも来てくれる人の娘…です」

アーシェ様の娘……って自分で言うの、まだ少し慣れなくて俯いてしまうけど…恥ずかしがることは無いんだよね!本当の事だもの。自信持つって決めたんだから、堂々としないと!私だって、貴族になったんだからっ!

セシリアは、前々から貴族だったけど、貴族として育てられず使用人として扱われていたため、昔から貴族という自覚は無かった。

俯きかけた顔を上げて、「よろしくお願いしますね」と微笑んだ。

すると子供達が、みんな満面の笑顔で「よろしくっ!」って言ってくれました。

シェイドさんが、少し驚きながらも頷いて微笑んでくれました。

午前中は、子供達にお勉強を教える事になりました。……でも、そこで問題が起きたんです。
馬車の中で言っていた事態です……

「うわぁぁぁん!」
「こなぁいでぇぇぇ!」
「あああぁぁぁぁぁん!」

数人の小さな子供達が、カイルさんを見て泣いてしまったんです。少し大きな子達は、前に会った事があるのか泣かなかったですけど……カイルさんからは、離れていました。

仕方ないので、カイルさんには昼ごはんの準備の方に回って貰いました。

心の中で謝罪すると、視線が「問題ない、心配するな」と訴えていました。

お勉強を教えている時に、年齢を聞かれたので「13歳ですよ」と答えたら、とても驚かれました。孤児院にいる小さい子達と同じくらいの背だから、年下だと思われていたみたいです。

「先生、僕よりも小さいのに、お姉さんだったんだね!」
「なんで、貴族様なのに孤児院の俺達より小さくてガリガリなんだよ」

と、色々言われました。
これでも、お母さんと暮らすようになってからは、結構食べてるつもりなんだけどな…

「えっと…わたし、少食なんです」

と、誤魔化しました。
じゃないと、お母さんの印象が悪くなる気がしたので……
ご飯……食べさせてないみたいに思われたら、困るもの。

それからは、順調に進んで皆さんと一緒にご飯も食べました。……私は、皆さんより少なめのご飯でお腹いっぱいになったので、先程の言葉にみんな納得したみたいです。

午後から男の子たちは、シェイドさんに連れられて剣の稽古をするみたいです。
カイルさんも一緒みたいですが、小さい子はやらないみたいなので泣かれる心配はなさそうです。

小さい子達は、お昼寝の時間なんだそうです。
シスターさんが、「寝る子は育つ!」と言ってました。

女の子達は、私と一緒に刺繍です。
どうせなら、誰かにプレゼントしましょう。という話になり、私も加わって贈るためのハンカチを選び刺繍を施していきます。

贈る相手は、シェイドさんにしようと思います。
あの日、精霊さんがそばに居てくれたけど…シェイドさんが来てくれて、私は凄く安心しました。

あの日の謝罪とお礼を兼ねて……喜んでくれると良いな。

私は、外にいるシェイドさんに視線を向けた。
剣を振るシェイドさんを見ると、あの日抱き締めてくれた彼の手を思い出し、私は顔が赤くなるのを感じました。

「お姉さん、どうしたの?」
「お顔、真っ赤だよ?」
「だ、大丈夫。何でもない」


私は、シェイドさんから視線を外し刺繍に集中した。シェイドさんを見ると、何だか恥ずかしくなる…何でかな?



数時間後、女の子たちの間から「出来た!」という声が上がった。私も、もうすぐ完成です。

刺繍は、カンパニュラという花とシェイドさんのイニシャルにしました。
カンパニュラの花言葉には、感謝とい意味があると前に聞いた事があったので図鑑で調べました。
いつか、お父さん達に感謝の花束でもって思ってたので……でも、まさかこんな形で役に立つとは思ってませんでした。

まだまだ下手だけど……受け取ってくれたら、嬉しいな。
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