帝国に売られた伯爵令嬢、付加魔法士だと思ったら精霊士だった

紫宛

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本編

贈り物

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剣の稽古が終わった子供達が、帰って来ました。
贈り物を渡す女の子達が、ソワソワと落ち着かない様子で男の子達が来るのを待っています。

もちろん……私も……

(シェイドさん、受け取ってくれるかな……)

広間が騒がしくなって来ました。
男の子達が帰ってきて、女の子達が男の子のそばにいきハンカチを渡しているのが見えます。

「よ、よしっ、私も!」

シェイドさんとカイルさんが、シスターと一緒に最後に広間に入って来ました。

渡しに行こうと思ったけど……1人にならないかな…
カイルさんの分は無いし…どうしよぅ

そう思っていたら、シェイドさんが2人から離れ外に出て行った……

(あれ?何でまた、外に……?)

忘れ物かな……?
でも、シェイドさんが、忘れ物なんてするかな……
…分からないけど、今を逃したら次は無いかもしれないし。

(うん、追いかけよう)

外に出たシェイドさんを追って、私も外に出ました。すると、シェイドさんは木の幹に背を預けるようにして待ってました。

「やっと来たわね?」
「私が来るの、分かってたんですか?」
「当たり前でしょ?ずっと話したそうに、私の事を見てたじゃない。気付かないと思った?」

うぅ、バレてたみたいです。
私が全然話しかけに来ないから、一人になるようにわざわざ外に出てくれたそうです。
外なら、2人っきりって訳でも無いから大丈夫だってシェイドさんが言ってました。

貴族で未婚の女性が、男性と2人っきりになるのは良くないそうで……変な噂が立ったら、シェイドさんに申し訳ないよね。

気を付けなきゃ……

でも、私の思いとは別にシェイドさんが、「私は良いけど…貴方に変な噂が立ったら問題だもの」と言った。

「それで?どうしたの?」
「あ、あの……」

私は後ろ手に持ったハンカチを、いざ渡そうと思ったら何だか恥ずかしくなってきて……

上手く刺繍出来たかな?とか、喜んで貰えなかったらどうしようとか、どうでもいい事が頭をかすめ初めて……

(や、やっぱり止めようかな……こんなの貰っても、嬉しくないかも…)

「な、何でも無いですっ!ごめんなさい」

そう言って、ハンカチをポケットにしまい踵を返しました。そのまま孤児院に向かって歩き始めた私の後ろで、シェイドさんが見つめていたのを私は気付きませんでしたでした。

「ふーん、そう」

シェイドさんが、納得いかなさそうに呟きながらも歩き出し、そしてシェイドさんの手が私の方に伸びてきて……ポケットに入れた私の手を掴みました。

「え?」
「これ、どうしたの?」

ポケットから引っ張り出された私の手には、頑張って刺繍したハンカチ。

「あ、あの……」
「私への、プレゼントじゃないの?」

ど、どうして分かったのでしょうか?
私が分かりやすいのかな?!

「くれないの?」
「あ、の……貰ってくれますか?」
「ええ!ありがとう、嬉しいわ」

恐る恐る手にしたハンカチを、シェイドさんに渡す。拙い刺繍だけど、喜ん貰えたのかな?
シェイドさんの顔を見ると、本当に嬉しそうに笑ってくれていた。

「今度、私からも何か贈るわね!」
「い、いえ!私の方こそ、色々ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!感謝と謝罪を込めて、作らせて頂きましたっ。シェイドから何かを貰う資格なんて、私にはありませんっ!」

緊張が限界を超えたのか、自分が何を喋ってるのかセシリアは分からなくなっていた。

「あら、それはどういう意味かしら?」
「……え?」

急にシェイドさんから、冷たい冷気のようなものを感じました。シェイドさんの瞳が細められ、知らず知らずに後退りをしてしまう。

一歩、シェイドさんが近づく。
二歩、私が下がる。
でもまた一歩、シェイドさんが近づいて。
私もまた二歩、下がった。

そうして、シェイドさんが近付く度に私が下がりを繰り返していると、いつの間にか私の背中が孤児院の壁にくっついた。

「ねぇ、セシリア……」

シェイドさんは少し屈み、そっと手が伸ばされ私の顔の横につけられた。目の前にシェイドさんの胸があって、顔を上げるとシェイドさんが私を覗き込んでいた。

「シェ、イドさん?」

良く分からないけれど、シェイドさんは怒っているみたいだった。

でも、何に対し怒っているのか、セシリアにはとんと分からなかった。

「感謝の贈り物をあげるのに、資格がいるのかしら?それを言うなら、私もセシリアから何かを貰う資格なんてないわ。何より貴方は、ディオーネ家のご令嬢ですものね」

え?
何で、急にそんな事……言うの?

『シェイドから何かを貰う資格なんて……』

あ……

「あ、わ、わたし、そんなつもりじゃなくて……」
「分かってるわ。でもね、覚えておいて、私はセシリアに感謝してるの。私だけじゃない、セシリアに感謝してる者は沢山いるわ。その子達が、私と同じように貴方に贈り物を上げたいと思うかもしれない」

私のさっきの言葉は、その人たちの想いを傷付ける行為なんだってシェイドさんは言いました。
確かにそうです。私だって、同じ事を言われたら悲しいから……

シェイドさんは、壁から手を離しその場に跪き私の手を取った。

「私がセシリアに何かを贈りたいと思ったの、その思いを否定しないで。貰うのに、資格なんて要らないのよ。ただ、「ありがとう」と一言あればいいの」
「ごめんなさい、シェイドさん。ありがとうございます」
「うん、それでいいのよ」

シェイドさんは立ち上がると、私があげたハンカチを大事そうに胸に抱き「大事に使うわね」と言ってくれました。

私はまだ、想いの返し方とか、言葉の選び方とか知らない事ばかりで、傷付けてしまうけれど……シェイドさんは、そんな私を見限ることなく教えてくれる。

私の言葉に傷付いているはずなのに、優しく諭し教えてくれる。

(優しい人です……いつか、ちゃんと恩返し出来たらいいな)

それから2人で広間に戻り、残りの作業を行って孤児院を後にしました。一緒に過ごした子供達が集まってきて、「また来てね」と言ってくれた事が嬉しくて、今度はお母さんに自分から頼んでみようと思いました。

シェイドさんも、男の子達に人気でした。
カイルさんはまだ少し怖がられていましたが、最初に比べると大きい子達は慣れたかな?って思います。


家に帰ると、何故か沢山のドレスが用意されていて……私は、驚いてしまいました。
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