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魔界編(本編)
179.クロガネ
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「みんな遅いよぉー」
「走ると危ないでありますよ!」
「大丈夫ぅー」
スズネは言葉と身体を弾ませ歩いている。
彼女を説得した後、俺達はガストニアへ戻っている。今はその道中である。
俺との約束のお陰か、スズネは最初とうってかわってご機嫌の様子だ。この変わり様には俺も少し呆れている。
「やれやれ」
「よろしかったのですか?」
ふと隣を歩くアリスが尋ねてきた。
俺は歩きながら彼女に目を向ける。
「なにがだ?」
「先程の約束です。ああも簡単に決めてしまって」
「別に構わないだろ。外に出ちゃいけない理由が、危ないってだけなら」
「ですがそれ以外にも理由はありかもしれませんよ」
「かもな。だけど、どんな理由があれ、やりたいことすら出来ないのは辛いだろ。もし理由が他にあるなら、そこも俺がなんとかするよ」
そう言うと、アリスは笑顔を見せた。
「傲慢ですね」
「今さらだろ」
そうして俺達はガストニアを目指して歩いていく。
急げばすぐ到着できるのだが、楽しそうに歩くスズネを見ていると、ゆっくり行こうと思えてくる。
しかし巫女様は心配しているだろう。確か捜索には親衛隊も出動していると言っていた。
「さすがにそろそろ急ぐかな。スズネちゃん」
「なぁに?」
俺は彼女に手招きをした。
スズネは走ってこちらへ向かってくる。
「今の声……」
そんな俺達に近づく男が一人。
彼はスズネの声を聞き、一目散に駆け出した。そうして木々を掻き分け、俺達の前に現れる。
「スズネ様!」
男は彼女の名前を口にした。
オオカミの耳と尻尾、鋭い目つきをした男は、腰に刀をたずさえている。
スズネが彼に気付く。
「クロガネ?」
「よかった。ご無事で――……」
スズネの無事に安堵した彼だったが、俺を見て血相を変えたていく。
人間である俺は、彼に敵として映ってしまったのだ。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
クロガネは腰の刀を抜き、叫びながら俺に切りかかってくる。
咄嗟に俺も魔剣を生み出して受け太刀をした。
「スズネ様から離れろぉぉぉぉぉ」
「ぐっ……」
クロガネは全力で刀を振り下ろしていた。
鋭い剣気は、俺に剣聖を思い出させるほど凄まじいものだった。
「ちがうよクロガネ! この人は――」
「はっ!!」
怒りで興奮しているクロガネに、スズネの声は届いていなかった。
彼は激しい殺気を放ち、俺に怒涛の連撃をしかけてくる。俺は防御に徹しながら、弁解の言葉を彼に投げかけた。
「落ち着け! 俺は敵じゃない!」
「黙れ人間! それほど禍々しい力を持っておいて!」
しまったな。咄嗟に魔剣の方を使ったのは失敗だった。
それにしても強い。剣術だけなら俺以上かもしれない。
クロガネの斬撃は鋭く正確だった。確実に俺の防御を削り取っていく。
一本だけでは負いきれない。そう判断した俺は、聖剣も召喚して応戦した。
俺が聖剣を取り出した瞬間、クロガネは大きく後退する。
「その剣は……」
彼の視線は、俺の右手に集まっていた。
その様子から察するに、彼はこの剣を知っているのだろう。僅かだが落ち着きを取り戻した。
そこへスズネが声をかけなおす。
「待ってクロガネ! この人は敵じゃないよ!」
「スズネ様?」
「私を助けてくれたんだよ! だから戦わないで!」
スズネは俺の前に立ち、両手を広げてクロガネを静止した。
その様子を見た彼も、彼女の言葉が嘘ではなさそうだと感じ、刀を鞘に納めた。
「詳しい話をお聞かせもらいましょうか」
俺は事情を彼に話した。
スズネも一緒になって説明してくれたお陰で、なんとか信じてもらうことに成功した。
「なるほど、そのような事情が……。先程は無礼を働き申し訳ございませんでした」
「大丈夫ですよ。逆の立場だった、俺でも同じだったでしょうし」
「ありがとうございます。私は親衛隊隊長、名をクロガネと申します。以後お見知りおきを」
ガストニアには二種類の部隊が存在している。
一つは巫女であるシオン直属の部隊、それが親衛隊である。もう一つは国民全体から募った部隊、有事の際のみ活動するため、普段は一般人として暮らしている。
そして前者のトップに立つ男が、このクロガネである。彼は国内一の剣士であり、国を支える最後の砦でもあった。
「私の剣が剣聖殿に?」
「ええ、勝るとも劣らない迫力でしたよ。俺も斬られるんじゃないかと焦りました」
ガストニアへ戻る途中、俺はクロガネと少しだけ話をした。
彼の強さは、あの一瞬ではっきりわかるほどだった。それを伝えると、彼は首を横に振って否定する。
「それは買被りです。私はまだまだ若輩者、あの方には遠く及びません」
「そんなこと無いですって、どちらとも戦ったことがある俺が言うんですから、間違いないですよ」
「レイブ殿は剣聖殿と手合わせしたことがあるのですか!?」
「ええ、ありますよ」
「詳しく聞かせてください!」
クロガネと話していくうちに、彼について少しわかった。
彼は剣術マニア、剣にすべてをかけている男のようだ。剣士として強くなること、いつか剣聖と越えることが、彼の目標だったらしい。
俺と剣聖の話を、彼は夢中になって聞いていた。
そうしていつの間にか、ガストニアについていた。
「走ると危ないでありますよ!」
「大丈夫ぅー」
スズネは言葉と身体を弾ませ歩いている。
彼女を説得した後、俺達はガストニアへ戻っている。今はその道中である。
俺との約束のお陰か、スズネは最初とうってかわってご機嫌の様子だ。この変わり様には俺も少し呆れている。
「やれやれ」
「よろしかったのですか?」
ふと隣を歩くアリスが尋ねてきた。
俺は歩きながら彼女に目を向ける。
「なにがだ?」
「先程の約束です。ああも簡単に決めてしまって」
「別に構わないだろ。外に出ちゃいけない理由が、危ないってだけなら」
「ですがそれ以外にも理由はありかもしれませんよ」
「かもな。だけど、どんな理由があれ、やりたいことすら出来ないのは辛いだろ。もし理由が他にあるなら、そこも俺がなんとかするよ」
そう言うと、アリスは笑顔を見せた。
「傲慢ですね」
「今さらだろ」
そうして俺達はガストニアを目指して歩いていく。
急げばすぐ到着できるのだが、楽しそうに歩くスズネを見ていると、ゆっくり行こうと思えてくる。
しかし巫女様は心配しているだろう。確か捜索には親衛隊も出動していると言っていた。
「さすがにそろそろ急ぐかな。スズネちゃん」
「なぁに?」
俺は彼女に手招きをした。
スズネは走ってこちらへ向かってくる。
「今の声……」
そんな俺達に近づく男が一人。
彼はスズネの声を聞き、一目散に駆け出した。そうして木々を掻き分け、俺達の前に現れる。
「スズネ様!」
男は彼女の名前を口にした。
オオカミの耳と尻尾、鋭い目つきをした男は、腰に刀をたずさえている。
スズネが彼に気付く。
「クロガネ?」
「よかった。ご無事で――……」
スズネの無事に安堵した彼だったが、俺を見て血相を変えたていく。
人間である俺は、彼に敵として映ってしまったのだ。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
クロガネは腰の刀を抜き、叫びながら俺に切りかかってくる。
咄嗟に俺も魔剣を生み出して受け太刀をした。
「スズネ様から離れろぉぉぉぉぉ」
「ぐっ……」
クロガネは全力で刀を振り下ろしていた。
鋭い剣気は、俺に剣聖を思い出させるほど凄まじいものだった。
「ちがうよクロガネ! この人は――」
「はっ!!」
怒りで興奮しているクロガネに、スズネの声は届いていなかった。
彼は激しい殺気を放ち、俺に怒涛の連撃をしかけてくる。俺は防御に徹しながら、弁解の言葉を彼に投げかけた。
「落ち着け! 俺は敵じゃない!」
「黙れ人間! それほど禍々しい力を持っておいて!」
しまったな。咄嗟に魔剣の方を使ったのは失敗だった。
それにしても強い。剣術だけなら俺以上かもしれない。
クロガネの斬撃は鋭く正確だった。確実に俺の防御を削り取っていく。
一本だけでは負いきれない。そう判断した俺は、聖剣も召喚して応戦した。
俺が聖剣を取り出した瞬間、クロガネは大きく後退する。
「その剣は……」
彼の視線は、俺の右手に集まっていた。
その様子から察するに、彼はこの剣を知っているのだろう。僅かだが落ち着きを取り戻した。
そこへスズネが声をかけなおす。
「待ってクロガネ! この人は敵じゃないよ!」
「スズネ様?」
「私を助けてくれたんだよ! だから戦わないで!」
スズネは俺の前に立ち、両手を広げてクロガネを静止した。
その様子を見た彼も、彼女の言葉が嘘ではなさそうだと感じ、刀を鞘に納めた。
「詳しい話をお聞かせもらいましょうか」
俺は事情を彼に話した。
スズネも一緒になって説明してくれたお陰で、なんとか信じてもらうことに成功した。
「なるほど、そのような事情が……。先程は無礼を働き申し訳ございませんでした」
「大丈夫ですよ。逆の立場だった、俺でも同じだったでしょうし」
「ありがとうございます。私は親衛隊隊長、名をクロガネと申します。以後お見知りおきを」
ガストニアには二種類の部隊が存在している。
一つは巫女であるシオン直属の部隊、それが親衛隊である。もう一つは国民全体から募った部隊、有事の際のみ活動するため、普段は一般人として暮らしている。
そして前者のトップに立つ男が、このクロガネである。彼は国内一の剣士であり、国を支える最後の砦でもあった。
「私の剣が剣聖殿に?」
「ええ、勝るとも劣らない迫力でしたよ。俺も斬られるんじゃないかと焦りました」
ガストニアへ戻る途中、俺はクロガネと少しだけ話をした。
彼の強さは、あの一瞬ではっきりわかるほどだった。それを伝えると、彼は首を横に振って否定する。
「それは買被りです。私はまだまだ若輩者、あの方には遠く及びません」
「そんなこと無いですって、どちらとも戦ったことがある俺が言うんですから、間違いないですよ」
「レイブ殿は剣聖殿と手合わせしたことがあるのですか!?」
「ええ、ありますよ」
「詳しく聞かせてください!」
クロガネと話していくうちに、彼について少しわかった。
彼は剣術マニア、剣にすべてをかけている男のようだ。剣士として強くなること、いつか剣聖と越えることが、彼の目標だったらしい。
俺と剣聖の話を、彼は夢中になって聞いていた。
そうしていつの間にか、ガストニアについていた。
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