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魔界編(本編)
178.帰りたくない
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スズネの窮地を救ったのはレイブだった。
彼はガストニアを出発後、千里眼を使用し彼女の居場所を特定。その際、ケルベロスの存在を確認し、急ぎ現場へ直行した。この間わずか三分である。
抱かかえられたスズネが俺と視線を合わせる。
「あなたは……」
「ん、俺か? 俺は――」
地上からの攻撃を感知する。
ケルベロスが口から空気弾を放ち、俺は魔法陣を展開させて防御する。見下ろせば、グルゥゥと唸り威嚇するケルベロスが見えた。
「まずあっちだな」
「レイ様」
そこへアリスとムウが到着する。
「遅いぞ、アリス」
「レイ様が速過ぎるんです。その子がそうなのですね」
「ああ、頼めるか?」
「かしこまりました」
俺は浮遊化の魔法をスズネにかけ、彼女から手を離した。
落とされると思ったのか、一瞬焦ったようすの彼女だったが、空中に浮けることに気付き驚いている。
「じゃあ行ってくるよ」
「お気をつけて」
俺は地上へ、ケルベロスの眼前に降り立った。
右手に聖剣を生み出し、切っ先を前に向けて構える。
ケルベロスには、決まった討伐方法が存在する。それは、三つある首を同時に斬りおとすことである。胴体を斬っても、首を一つ二つ斬り落しても、ケルベロスは死なない。
そして、ケルベロスは魔物の中でも秀でた俊敏性を持っている。故に同時に三つの首を斬るのは、非常に困難といえるだろう。
「スゥー……」
「グルゥゥゥ――」
俺は呼吸を整え集中を高めた。
ケルベロスが先に一歩を踏み出す。その瞬間を見逃さず、俺は瞬時に懐へ飛び込んだ。そして三つの首を、ほぼ同時に攻撃する。
どっさと言う音が三つ重なって聞えた。
ケルベロスの首を三つ同時に斬り落すことは困難である。
しかし、俺には関係ないことだった。どんなに素早く動こうと、俺の方が速ければ斬れる。
戦闘終了を確認した後、上空で待機していたアリス達が降りてくる。
「お疲れ様でした」
「ありがと。それで、一応確認なんだけど、君がスズネちゃんでよかったかな?」
「は、はいそうです。あの……お兄さん達は……」
「俺はレイブ、こっちはアリスで、肩に乗ってるのがムウだ」
「よろしくお願いいたします」
「よろしくでありますよ!」
アリスは丁寧に頭を下げた。ムウも元気よくあいさつをする。
スズネは戸惑いながらもそれぞれのあいさつに返した。そして俺に目をむけじっと見つめている。彼女が戸惑う理由はわかっている。
「見ての通り、俺達は人間だよ。だけど敵じゃないから安心してほしい。俺達は、君のお姉さんから頼まれて、君を探しにきたんだ」
「お姉ちゃんの!? ……くっ」
それを聞いたスズネは、急に振り返って逃げようとした。俺は彼女を腕を掴んで止める。彼女は必死で振り払おうとした。
「離して!」
「どうしたんだ急にっ」
「いいから離してよ! あんな場所帰りたくないもん!」
「っ……」
スズネはさらに激しく抵抗した。
余程の理由があるのかもしれない。そう思った俺は、彼女を安心させるためにこう言った。
「大丈夫だ。俺は無理やりつれ帰ったりしない」
「そんなの嘘だ!」
「嘘じゃないから、一旦落ち着いてくれ。それで理由を話してくれよ。ちゃんと聞くから」
そう言っているうちに、スズネは徐々に落ち着きを取り戻していく。抵抗する力を緩め、恐る恐るこちらへ振り返った。
「ほんと?」
「ああ、本当だよ」
「……わかった」
ようやく完全に落ち着いたスズネ。俺達は彼女から、家出に至った経緯を聞くことになった。
「私……ずっと家から出してもらえなかったの。危ないからって……。何回もお願いしたのに、お姉ちゃんは聞いてくれなかった」
「それで家出を?」
「うん……」
「だからって外は危険すぎるだろう」
「だっていっつも街の中じゃ捕まっちゃうんだもん!」
今回が初めてじゃないのか……。
「それでも外へ一人で来ちゃ駄目だ。危ないのはよくわかっただろ?」
「うぅ……だってぇ……」
スズネは駄々をこねるように言う。
あれだけ危険な目にあっても、諦めてはいないようだった。俺はそれに呆れながらも、少し興味がわいた。
「君は、外へ出て何がしたいの?」
「いろんな所へ行ってみたい! 本でいっぱい見たんだ! 外には私の知らないものがたくさんあるんでしょ!」
スズネは急に元気になった。瞳を輝かせ、楽しそうな表情になる。
俺はそんな彼女を見て、ふと昔の自分を思い出した。
ああ、そうか……。この子も同じなんだ。
初めてこの世界へ来た時、俺も同じようにワクワクした。見たことの無い景色に、触れたことの無い感覚に――
そういう好奇心に罪は無いし、止められないよな。
「よしわかった。じゃあ今度は、俺が外の世界へ連れて行ってあげるよ」
「えっ、ほんと!?」
「ああ。だけど、今は待ってほしい。危ない人達が君の国を、世界を乗っ取ろうとしてるんだ。俺はそれと戦わなくちゃいけない。その全部が終わって、世界が平和になったら、君が行きたい場所へ案内するよ」
「ほんと? ほんとにほんと?」
「もちろん。だから今は一緒に帰ろう」
スズネは少しだけ考えた。
本当は今すぐにでも行きたい。そんな気持ちを飲み込んで、笑顔を俺に向けた。
「うん! じゃあ指きりしよ!」
「ああ」
俺とスズネは、小指と小指を重ねた。
彼はガストニアを出発後、千里眼を使用し彼女の居場所を特定。その際、ケルベロスの存在を確認し、急ぎ現場へ直行した。この間わずか三分である。
抱かかえられたスズネが俺と視線を合わせる。
「あなたは……」
「ん、俺か? 俺は――」
地上からの攻撃を感知する。
ケルベロスが口から空気弾を放ち、俺は魔法陣を展開させて防御する。見下ろせば、グルゥゥと唸り威嚇するケルベロスが見えた。
「まずあっちだな」
「レイ様」
そこへアリスとムウが到着する。
「遅いぞ、アリス」
「レイ様が速過ぎるんです。その子がそうなのですね」
「ああ、頼めるか?」
「かしこまりました」
俺は浮遊化の魔法をスズネにかけ、彼女から手を離した。
落とされると思ったのか、一瞬焦ったようすの彼女だったが、空中に浮けることに気付き驚いている。
「じゃあ行ってくるよ」
「お気をつけて」
俺は地上へ、ケルベロスの眼前に降り立った。
右手に聖剣を生み出し、切っ先を前に向けて構える。
ケルベロスには、決まった討伐方法が存在する。それは、三つある首を同時に斬りおとすことである。胴体を斬っても、首を一つ二つ斬り落しても、ケルベロスは死なない。
そして、ケルベロスは魔物の中でも秀でた俊敏性を持っている。故に同時に三つの首を斬るのは、非常に困難といえるだろう。
「スゥー……」
「グルゥゥゥ――」
俺は呼吸を整え集中を高めた。
ケルベロスが先に一歩を踏み出す。その瞬間を見逃さず、俺は瞬時に懐へ飛び込んだ。そして三つの首を、ほぼ同時に攻撃する。
どっさと言う音が三つ重なって聞えた。
ケルベロスの首を三つ同時に斬り落すことは困難である。
しかし、俺には関係ないことだった。どんなに素早く動こうと、俺の方が速ければ斬れる。
戦闘終了を確認した後、上空で待機していたアリス達が降りてくる。
「お疲れ様でした」
「ありがと。それで、一応確認なんだけど、君がスズネちゃんでよかったかな?」
「は、はいそうです。あの……お兄さん達は……」
「俺はレイブ、こっちはアリスで、肩に乗ってるのがムウだ」
「よろしくお願いいたします」
「よろしくでありますよ!」
アリスは丁寧に頭を下げた。ムウも元気よくあいさつをする。
スズネは戸惑いながらもそれぞれのあいさつに返した。そして俺に目をむけじっと見つめている。彼女が戸惑う理由はわかっている。
「見ての通り、俺達は人間だよ。だけど敵じゃないから安心してほしい。俺達は、君のお姉さんから頼まれて、君を探しにきたんだ」
「お姉ちゃんの!? ……くっ」
それを聞いたスズネは、急に振り返って逃げようとした。俺は彼女を腕を掴んで止める。彼女は必死で振り払おうとした。
「離して!」
「どうしたんだ急にっ」
「いいから離してよ! あんな場所帰りたくないもん!」
「っ……」
スズネはさらに激しく抵抗した。
余程の理由があるのかもしれない。そう思った俺は、彼女を安心させるためにこう言った。
「大丈夫だ。俺は無理やりつれ帰ったりしない」
「そんなの嘘だ!」
「嘘じゃないから、一旦落ち着いてくれ。それで理由を話してくれよ。ちゃんと聞くから」
そう言っているうちに、スズネは徐々に落ち着きを取り戻していく。抵抗する力を緩め、恐る恐るこちらへ振り返った。
「ほんと?」
「ああ、本当だよ」
「……わかった」
ようやく完全に落ち着いたスズネ。俺達は彼女から、家出に至った経緯を聞くことになった。
「私……ずっと家から出してもらえなかったの。危ないからって……。何回もお願いしたのに、お姉ちゃんは聞いてくれなかった」
「それで家出を?」
「うん……」
「だからって外は危険すぎるだろう」
「だっていっつも街の中じゃ捕まっちゃうんだもん!」
今回が初めてじゃないのか……。
「それでも外へ一人で来ちゃ駄目だ。危ないのはよくわかっただろ?」
「うぅ……だってぇ……」
スズネは駄々をこねるように言う。
あれだけ危険な目にあっても、諦めてはいないようだった。俺はそれに呆れながらも、少し興味がわいた。
「君は、外へ出て何がしたいの?」
「いろんな所へ行ってみたい! 本でいっぱい見たんだ! 外には私の知らないものがたくさんあるんでしょ!」
スズネは急に元気になった。瞳を輝かせ、楽しそうな表情になる。
俺はそんな彼女を見て、ふと昔の自分を思い出した。
ああ、そうか……。この子も同じなんだ。
初めてこの世界へ来た時、俺も同じようにワクワクした。見たことの無い景色に、触れたことの無い感覚に――
そういう好奇心に罪は無いし、止められないよな。
「よしわかった。じゃあ今度は、俺が外の世界へ連れて行ってあげるよ」
「えっ、ほんと!?」
「ああ。だけど、今は待ってほしい。危ない人達が君の国を、世界を乗っ取ろうとしてるんだ。俺はそれと戦わなくちゃいけない。その全部が終わって、世界が平和になったら、君が行きたい場所へ案内するよ」
「ほんと? ほんとにほんと?」
「もちろん。だから今は一緒に帰ろう」
スズネは少しだけ考えた。
本当は今すぐにでも行きたい。そんな気持ちを飲み込んで、笑顔を俺に向けた。
「うん! じゃあ指きりしよ!」
「ああ」
俺とスズネは、小指と小指を重ねた。
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