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「イルヤ、本当に一人で行くのか? 護衛騎士を連れて行け、とシーグ卿に言われたのだろう?」
「大丈夫よ、フレンツエ王国はとても安全な国よ。侍女を一人だけ連れて行くけれど、それ以上はいらないわ。私のお誕生日に合わせて、あちらに着く手はずなの。勉強に忙しくて私に会いたいくても帰って来られないと、毎日のように嘆きの手紙が届くのですもの。可哀想でしょう?」
ビドは私の婚約者でリカール子爵家の次男だ。彼は私が大好きで毎日のように手紙が届くの。純粋で私だけを愛する彼は、セロ王国の学園を卒業した後に、さらに天文学を学ぶためフレンツエ王国に留学した。そこはセロ王国の右隣に位置する天文学の最も発達した国だった。
「はいはい。毎日届く手紙ね。祖国に、学園の長期休暇があっても帰って来られないほど忙しいくせに、毎日便せん3枚にわたって愛を綴ってくるなんて、ずいぶん珍しい男だな」
「うふふ。愛されているとおっしゃって。ビドはね、ユーインのように目の覚めるような美男子ではないけれど、純粋で素朴な男性なのよ。星が好きで・・・・・・」
「わかった、わかった。俺とは違って女にも不慣れで口下手だっけ? 何度も聞かされて耳にタコができた」
そう、ビドは決して格好いい男性ではない。でも、ユーインを見ていたらその方が良いと思える。ユーインはいつも女の子に囲まれてもてすぎるし、きっとこんなのが夫になったら苦労するものね。
その点、ビドの容姿は平凡だし無口で勉強ばかりしているから大丈夫よ。それに夜空を見上げて星を指さし、きらきらと輝く目で夢を語る彼の価値は、私だけが知っているわ。いつまでも少年のようで無邪気だもの。
侍女のデジレを連れて大袈裟なドレス姿ではなく、ちょっと裕福な商人の娘のような格好で、フレンツエ王国に着いた私。
「ビドは何時に戻るのかしら? ここで待たせていただくわ」
ビドが滞在している屋敷のチャイムを鳴らすと、若い使用人が胡散臭そうに私を睨み付ける。
「こちらはシーグ侯爵家の別荘です! あんたのような女性が来る場所ではありません。もうじきビド様の婚約者のイルヤ様がお帰りになるので、お引き取りください」
「は? この私がイルヤ・シーグ侯爵令嬢ですわ」
「はぁーー? そんな平民のような格好でなにを寝ぼけたことを言うのですか? イルヤ様はそれはそれは清廉な容姿の方ですよ。あんたのようなけしからん身体ではありませんっ!」
けしからん身体ですって? ・・・・・・まぁ、私の身体はいわゆるボンキュッボンだ。でもこれはお母様の遺伝子を受け継いだのだから仕方ないわ。
(だいたい貴族令嬢が華奢で小柄な女性とは、誰が決めた価値観なのよ? それこそけしからんわ)
「あらぁーー、こんにちわぁーー。あなたはどなたですかぁ? あたしはイルヤ・シーグ。ここの屋敷の持ち主シーグ侯爵家の一人娘ですわぁ」
声の主を振り返ると・・・・・・そこには淡い金髪にブルーの瞳の小柄で華奢な女性が微笑んで立っていたわ。
(へぇーー。びっくりした! この世に私が二人もいるなんて!)
「あぁ、わかった。あなたは娼婦でしょう? その体つきですぐにわかったわぁ。商家のお嬢様の振りをしてもダメよ。そのお下品さは隠せないわよ」
私は人生で初めて娼婦扱いされて、あまりのことに言葉をなくしていたのだった。
「大丈夫よ、フレンツエ王国はとても安全な国よ。侍女を一人だけ連れて行くけれど、それ以上はいらないわ。私のお誕生日に合わせて、あちらに着く手はずなの。勉強に忙しくて私に会いたいくても帰って来られないと、毎日のように嘆きの手紙が届くのですもの。可哀想でしょう?」
ビドは私の婚約者でリカール子爵家の次男だ。彼は私が大好きで毎日のように手紙が届くの。純粋で私だけを愛する彼は、セロ王国の学園を卒業した後に、さらに天文学を学ぶためフレンツエ王国に留学した。そこはセロ王国の右隣に位置する天文学の最も発達した国だった。
「はいはい。毎日届く手紙ね。祖国に、学園の長期休暇があっても帰って来られないほど忙しいくせに、毎日便せん3枚にわたって愛を綴ってくるなんて、ずいぶん珍しい男だな」
「うふふ。愛されているとおっしゃって。ビドはね、ユーインのように目の覚めるような美男子ではないけれど、純粋で素朴な男性なのよ。星が好きで・・・・・・」
「わかった、わかった。俺とは違って女にも不慣れで口下手だっけ? 何度も聞かされて耳にタコができた」
そう、ビドは決して格好いい男性ではない。でも、ユーインを見ていたらその方が良いと思える。ユーインはいつも女の子に囲まれてもてすぎるし、きっとこんなのが夫になったら苦労するものね。
その点、ビドの容姿は平凡だし無口で勉強ばかりしているから大丈夫よ。それに夜空を見上げて星を指さし、きらきらと輝く目で夢を語る彼の価値は、私だけが知っているわ。いつまでも少年のようで無邪気だもの。
侍女のデジレを連れて大袈裟なドレス姿ではなく、ちょっと裕福な商人の娘のような格好で、フレンツエ王国に着いた私。
「ビドは何時に戻るのかしら? ここで待たせていただくわ」
ビドが滞在している屋敷のチャイムを鳴らすと、若い使用人が胡散臭そうに私を睨み付ける。
「こちらはシーグ侯爵家の別荘です! あんたのような女性が来る場所ではありません。もうじきビド様の婚約者のイルヤ様がお帰りになるので、お引き取りください」
「は? この私がイルヤ・シーグ侯爵令嬢ですわ」
「はぁーー? そんな平民のような格好でなにを寝ぼけたことを言うのですか? イルヤ様はそれはそれは清廉な容姿の方ですよ。あんたのようなけしからん身体ではありませんっ!」
けしからん身体ですって? ・・・・・・まぁ、私の身体はいわゆるボンキュッボンだ。でもこれはお母様の遺伝子を受け継いだのだから仕方ないわ。
(だいたい貴族令嬢が華奢で小柄な女性とは、誰が決めた価値観なのよ? それこそけしからんわ)
「あらぁーー、こんにちわぁーー。あなたはどなたですかぁ? あたしはイルヤ・シーグ。ここの屋敷の持ち主シーグ侯爵家の一人娘ですわぁ」
声の主を振り返ると・・・・・・そこには淡い金髪にブルーの瞳の小柄で華奢な女性が微笑んで立っていたわ。
(へぇーー。びっくりした! この世に私が二人もいるなんて!)
「あぁ、わかった。あなたは娼婦でしょう? その体つきですぐにわかったわぁ。商家のお嬢様の振りをしてもダメよ。そのお下品さは隠せないわよ」
私は人生で初めて娼婦扱いされて、あまりのことに言葉をなくしていたのだった。
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