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「ちっ。やっぱり娼婦か! 全くどこの娼館の女ですか? ビド様もいいかげん娼館通いを辞めればいいのに」
この使用人の感じでは、ビドは日常的に娼館通いもしているらしいわ。
私が娼婦ねぇ。確かに貴族の令嬢にしては色気のありすぎる顔立ちをしているとは言われる。潤んだ瞳は切れ長でぽってりした唇の横にはホクロがある。これがとてもセクシーらしいが、私はこれでもれっきとした侯爵令嬢である。
それに今の私は、簡素でも最高に仕立ての良いワンピースを着ている。これはそのへんの娼婦が着ることのできるものではないのに。この使用人はいったいどこを見ているのよ?
「あなた、どこの家の者ですか? 家名をおっしゃい」
「は? 俺の家名なんてないよ。平民ですからね。お優しいイルヤ様が平民である俺を雇ってくれたんですよ」
このフレンツエ王国にある屋敷はシーグ侯爵家の別荘で名義はお父様よ。だからここの使用人の給料も我が家が負担している。だって、ビドは私のお婿さんになる予定だから。
高位貴族の屋敷では爵位を持たない貴族の者を雇うのが常だ。その給料は平民よりもかなり高い。確かビドの暮らすこの屋敷では使用人5人を雇っているはずなのに、この男だけしか使用人はいないようだわ。浮いたお金は誰がどう使っているのかしらねぇ?
「本当にビド様はしようが無い方ですわ。ほら、このお金をあげますから帰ってくださいませ。いつもの集金なら私が払いますわ」
「集金?」
「えぇ、ビド様はツケで娼館を利用なさいますので」
「は? ツケで?」
(常連なわけね? いったい、隣国まで何しに来ているのよ? あんなに純真だったビドはどこにいったの?)
「お金をあげたのだからさっさと出て行ってよ。ここはあたしの屋敷よ」
私を騙る偽物に蔑んだ眼差しを向けられて私は今にも爆発しそうよ。
「無礼者! このお方こそがイルヤ・シーグ侯爵令嬢です! わざわざセロ王国からこちらに来られたのですよ」
侍女のデジレが私とその偽物の間に立ちはだかってくれたけれど、予想通りのことを言われただけだった。
「シーグ侯爵令嬢が侍女一人しか連れないで祖国からやって来るわけないじゃない。もう少しましな嘘をついた方がいいわよ。あたしは半年以上前からここにビド様の婚約者として住んでいるし、使用人を雇ったのもあたしだわ。だからあたしがイルヤに決まっているでしょう? 婚約者のビドがそう言うのだもの」
偽物女が声を出して笑うけれど、確かにこの状況では私が本物という証拠が出せない。やっぱりお父様の言いつけ通りに護衛騎士を連れて侍女も3人は連れてくるべきだったわ。
(こんな女をシーグ侯爵家の別荘に連れ込んでいたなんて・・・・・・しかも娼館通いをするのが日常的なんて・・・・・・だったら、あの毎日来ていた手紙は誰が書いたの?)
「なにをそんなに騒いでいるのだい?」
「お帰りなさいませ」
使用人がほっとしたように挨拶をする。
この声の主は間違いない、私の婚約者のビドが帰ってきたのだわ。振り返ると、幽霊を見るような顔をして立っているビドがいた。
「え! イルヤ? なんでここにいるんだい?」
(そうよね、私こそは本物よね? ビドまで私を知らない、なんて言ってきたらどうしようかと思ったわ。
「今日は私の誕生日だからサプライズで会いに来ました。なのにこの女は誰ですか? ツケで娼館に行っているとは、どういうつもりなのでしょう?」
「まさかイルヤは護衛騎士も連れて来ずに、侍女一人だけを連れてここに来たのかい?」
「えぇ、そうよ」
私の言葉にニヤリと笑ったビドに思わず寒気がした。さきほどの平民の使用人は、私が本物だと知り青ざめていた。
「あら、ほぉんとにイルヤだったのね? まずいことがばれたわね?」
偽物女が、あははっと笑った。
「大丈夫だよ。その侍女をこっちにもらうよ。こいつはイルヤが子供の頃から仕えている大事な人だったよね? 僕が留学中はここで働いてもらうし、これからは僕専用の使用人にしよう。この侍女の命が惜しければ、ここで見たことは黙っていてよ。イルヤは僕の夢を応援したいんでしょう?」
「夢は応援したかったけれど、女遊びは応援する気にはなれないわ。婚約は破棄だしビドの留学にあたってかかった費用はすべて返して貰うわね。あなたは今日からシーグ侯爵家の援助は一切うけられませんよ。あなたの実家もね。それから慰謝料を請求してさしあげるわ!」
私のセリフに不愉快そうに顔を歪め、ビドは私の頬を叩く。赤くなった頬がじんじんとした熱を持ち腫れていくのが自分でもわかった。
「だったら余計なことを言う女が祖国に戻れなくすればいいんだよね?」
ビドがそう言った瞬間、私はきつく言いすぎたことを後悔した。今言うべきことではなかったのだ。普通に許した振りをしてセロ王国に戻ってから、お父様に対処して貰えば良かったのに・・・・・・
近づいてくるビドと偽物女が私の首に触れようとした瞬間、現れたのは・・・・・・
この使用人の感じでは、ビドは日常的に娼館通いもしているらしいわ。
私が娼婦ねぇ。確かに貴族の令嬢にしては色気のありすぎる顔立ちをしているとは言われる。潤んだ瞳は切れ長でぽってりした唇の横にはホクロがある。これがとてもセクシーらしいが、私はこれでもれっきとした侯爵令嬢である。
それに今の私は、簡素でも最高に仕立ての良いワンピースを着ている。これはそのへんの娼婦が着ることのできるものではないのに。この使用人はいったいどこを見ているのよ?
「あなた、どこの家の者ですか? 家名をおっしゃい」
「は? 俺の家名なんてないよ。平民ですからね。お優しいイルヤ様が平民である俺を雇ってくれたんですよ」
このフレンツエ王国にある屋敷はシーグ侯爵家の別荘で名義はお父様よ。だからここの使用人の給料も我が家が負担している。だって、ビドは私のお婿さんになる予定だから。
高位貴族の屋敷では爵位を持たない貴族の者を雇うのが常だ。その給料は平民よりもかなり高い。確かビドの暮らすこの屋敷では使用人5人を雇っているはずなのに、この男だけしか使用人はいないようだわ。浮いたお金は誰がどう使っているのかしらねぇ?
「本当にビド様はしようが無い方ですわ。ほら、このお金をあげますから帰ってくださいませ。いつもの集金なら私が払いますわ」
「集金?」
「えぇ、ビド様はツケで娼館を利用なさいますので」
「は? ツケで?」
(常連なわけね? いったい、隣国まで何しに来ているのよ? あんなに純真だったビドはどこにいったの?)
「お金をあげたのだからさっさと出て行ってよ。ここはあたしの屋敷よ」
私を騙る偽物に蔑んだ眼差しを向けられて私は今にも爆発しそうよ。
「無礼者! このお方こそがイルヤ・シーグ侯爵令嬢です! わざわざセロ王国からこちらに来られたのですよ」
侍女のデジレが私とその偽物の間に立ちはだかってくれたけれど、予想通りのことを言われただけだった。
「シーグ侯爵令嬢が侍女一人しか連れないで祖国からやって来るわけないじゃない。もう少しましな嘘をついた方がいいわよ。あたしは半年以上前からここにビド様の婚約者として住んでいるし、使用人を雇ったのもあたしだわ。だからあたしがイルヤに決まっているでしょう? 婚約者のビドがそう言うのだもの」
偽物女が声を出して笑うけれど、確かにこの状況では私が本物という証拠が出せない。やっぱりお父様の言いつけ通りに護衛騎士を連れて侍女も3人は連れてくるべきだったわ。
(こんな女をシーグ侯爵家の別荘に連れ込んでいたなんて・・・・・・しかも娼館通いをするのが日常的なんて・・・・・・だったら、あの毎日来ていた手紙は誰が書いたの?)
「なにをそんなに騒いでいるのだい?」
「お帰りなさいませ」
使用人がほっとしたように挨拶をする。
この声の主は間違いない、私の婚約者のビドが帰ってきたのだわ。振り返ると、幽霊を見るような顔をして立っているビドがいた。
「え! イルヤ? なんでここにいるんだい?」
(そうよね、私こそは本物よね? ビドまで私を知らない、なんて言ってきたらどうしようかと思ったわ。
「今日は私の誕生日だからサプライズで会いに来ました。なのにこの女は誰ですか? ツケで娼館に行っているとは、どういうつもりなのでしょう?」
「まさかイルヤは護衛騎士も連れて来ずに、侍女一人だけを連れてここに来たのかい?」
「えぇ、そうよ」
私の言葉にニヤリと笑ったビドに思わず寒気がした。さきほどの平民の使用人は、私が本物だと知り青ざめていた。
「あら、ほぉんとにイルヤだったのね? まずいことがばれたわね?」
偽物女が、あははっと笑った。
「大丈夫だよ。その侍女をこっちにもらうよ。こいつはイルヤが子供の頃から仕えている大事な人だったよね? 僕が留学中はここで働いてもらうし、これからは僕専用の使用人にしよう。この侍女の命が惜しければ、ここで見たことは黙っていてよ。イルヤは僕の夢を応援したいんでしょう?」
「夢は応援したかったけれど、女遊びは応援する気にはなれないわ。婚約は破棄だしビドの留学にあたってかかった費用はすべて返して貰うわね。あなたは今日からシーグ侯爵家の援助は一切うけられませんよ。あなたの実家もね。それから慰謝料を請求してさしあげるわ!」
私のセリフに不愉快そうに顔を歪め、ビドは私の頬を叩く。赤くなった頬がじんじんとした熱を持ち腫れていくのが自分でもわかった。
「だったら余計なことを言う女が祖国に戻れなくすればいいんだよね?」
ビドがそう言った瞬間、私はきつく言いすぎたことを後悔した。今言うべきことではなかったのだ。普通に許した振りをしてセロ王国に戻ってから、お父様に対処して貰えば良かったのに・・・・・・
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