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ダリア男爵の処分

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「さて、さて、準備はできたかな? お前がダリヤ男爵か? なんだ、その太鼓腹は! 日頃の怠惰な生活が想像できるというものだな。メイソンをムチで打ったのはお前か? なんと、底意地の悪い顔だ。おおかた、ストレス発散の為に平民の子供をいたぶろうとしたのだろう?」

 王は私に、むちゃくちゃなことを言ってきた。太鼓腹のどこが悪い! 大きなお世話だ。ムチでは打ったが、あれは盗みをする子のしつけ一環いっかんだ。それに、顔のことは言いがかりもいいところだ。底意地の悪い顔だなんて、決めつけるとはなんて酷いんだ!

 王は『さぁ、ムチでこの男を3回打て!』と奥の部屋に向かって声を張り上げた。ムチを持った屈強な兵士が出てきて、私に向かってゆっくりと歩いてきた。手に持っているムチは長い革製のもので平民用の折檻室においてあるものよりよほど本格的なものだ。あんなもので3回も打たれてみろ! 背中が裂けて血が出て2、3日は寝返りもうてない。

「王様に申し上げます。あれは、メイソンという子供が盗みをしたので躾のためにしたものです! カンニングだってしたと聞きました。性根が腐っている子供は口で言ってもわからないので、私はしたくなかったけれど大人の義務としてムチで打ったのです! 私は、もともとそういう暴力的なことは嫌いなのです 」

 私は、必死になって叫んだ。だって、そうじゃないか? 口で言ってもわからない聞き分けのない子は、体罰で身体に覚えさせるしかないだろう?

「ほぉーー? 躾のためならムチを打ってもいいのだな? 口でいってもわからない奴はムチで打ってもいい。
お前は儂にそう言った。ならば、儂もお前の躾の為に回数を増やそう。5回に増やせ!」

「うわぁ。待って。お待ちください! なぜ、一方的に私が悪いと決めつけてムチを打つんですか? 公平な判断はここではされないのですか! おかしいじゃないですか? もっと、ちゃんと調べてくださぁい!」

 私はそのムチに打たれたくなくて、ますます大騒ぎした。

「先日お前がしたことが、今日になって返ってきただけのことだ! お前達はメイソンを一方的に盗人と決めつけた。そのお前達は、自分が裁かれる番になると『公平な判断をしろ』とのたまう。実に都合のいい頭だ。こいつはもっと回数を増やそう。口で言ってもわからなさそうだ。10回打て!」

「え・・・・・・そんなぁ・・・・・・」

 ビシッ、パシッとムチが音をたてて、私の背中に当たる。そのたびに、焼けるような激痛が身体じゅうにはしる。
5回目までは覚えているが、その先は覚えていない。あまりの痛さに気絶したらしく、冷たい氷水をかけられて目が覚めた。

 背中の激痛に顔が歪み涙がこぼれた。王はまだ物足りなさそうな顔で私を見つめていた。

「あんな子供を庇護するために、私にこのような無体なことをして絶対に許されないことだ! 昨夜、あの子供について調べましたよ。淫売の子供じゃないですか! 父親もわからないらしい。トマス公爵家とは血の一滴も繋がっていないじゃないですか!」


 私は、これ以上は我慢できない。あの子供がいけない。あんな平民用の学校に通うなんて間違っている。そんな経緯の子供を慈しむトマス公爵家も頭がおかしい。この王様も、いかれてる。


「ふむ。ダリア男爵よ。お前はこれで無罪放免と思っていたが私は気が変わった。口で言ってもわからないからムチで打った。それでも、わからないなら貴族でいる資格はない。ダリア男爵家の当主はお前の親戚筋から妥当な者に継がせることにする。お前はもう男爵ではない。この瞬間から平民だ。お前がいつも虐げてきた平民だ。」


「・・・・・・なんで・・・・・・そんなぁ・・・・・・」


「あぁ、ちょっと待て。・・・・・・なんと、まぁ・・・・・・お前は平民どころではないな。一度、賎民に落ちよ。全く、愚か者が!」

 文官らしき男が、書類を王の前に見せた途端に表情が変わった。

「先日の夕方にメイソンの事件の報告を受けてから、ダリヤ男爵家を調べさせていた。お前は、使用人になにかあるたびに、ムチを使っていたそうだなぁ? 特にここに過去、賎民出身の雑用女を20人も滅多打ちにし、その傷が原因で死んだと推定される者が17人と記されている。お前はバカか? 極刑にするような罪人を使役する炭鉱場ならいざしらず。貴族の屋敷でこんなことが許されたのは、儂の父の代までだ」


「・・・・・・あれは、私の言うことをあの女達が聞かなかったので・・・・・・賎民など家畜でしょう? なにをしてもいいはずです」


「お前に雇われた賤民より家畜に産まれたほうが、よほど幸せだろうよ。この者を連れて行け! ムチで打たれて家畜のように扱われる場所をご希望のようだ。しっかり、躾をされてきなさい。次は、そのモヤシの番だな」

 私は、ガクリと肩を落とした。あぁ、口答えなどしなければ良かった・・・・・・

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