上 下
20 / 123
脱出編

20 私はすべてを打ち明ける

しおりを挟む
 お風呂に入ってさっぱりした二人は、さらにイケメン度が上昇していた気がする。
 
「シズ、ありがとう。お湯に浸かるのがあんなに気持ちいいとは思わなかったよ。悪いな、随分ゆっくりしてしまったみたいだ」

「ありがとう……。気持ちよかったです」

「全然!!私もお風呂大好きなので、嬉しいです。それよりも、はい。これをどうぞ。違和感があったら言ってください。すぐに直しますから」

 そう言って、私は二人に出来上がったばかりの服と下着を差し出した。
 二人は、私が差し出したものを見て同じ様に首を傾げていたけど、受け取ってくれた。
 服を広げた二人は、目を丸くして驚いていた。
 
「えっと、ささっと作ったのでシンプルな出来ですが、布は前に作っておいたきちんとしたものなので、着心地はいいと思います」

 そう言ってから、二人に着替えてもらうように促した。
 脱衣所で着替えた二人は直ぐに戻ってきた。
 うん。見た感じサイズは大丈夫そうだ。そんな事を考えながら、二人を見ているとヴェインさんが照れたように頬を指で掻きながらお礼を言ってきた。
 
「シズ、ありがとう。すごくぴったりで驚いたよ。もしかして、さっき俺にくっついて来たのって……」

「いえいえ。ぴったりみたいで安心しました。はい。サイズを測るためですが?」

「そっかそっか。うん。すごく着心地がいいよ。本当にありがとう」

「はい。アーくんはどうかな?」

「ありがとうございます。驚くほど肌触りも着心地もいいです」

 アーくんも照れたみたいな表情ながらも、私が作った服を気に入ってくれたみたいで安心したよ。
 それじゃ、今度こそ洗いざらい話そう。
 
「それじゃ、今度こそ私のこと話します。だけど、少し長い話になると思うのでお茶とお菓子を用意しますね」

 そう言って、覚悟は決めたけどここに来てもまだ、悪足掻きでもするかのようにゆっくりとお茶とお菓子の用意をしてからリビングで待つ二人のもとに戻った。
 
 テーブルに、ハーブティーの入ったポットとティーカップ、スイートポテトを並べる。
 一口ハーブティーを飲んで、口を潤してから私は話し始めた。
 
 身の上話、元の世界で両親に先立たれていること。
 両親がいなくなってから、うまく笑えなくなったこと。
 他人に顔を見られるのが怖くなったこと。
 突然、異世界に召喚されたこと。
 ベルディアーノ王国で、聖職者風の男に国を救って欲しいと言われたこと。
 その時に、不思議な力で元の世界で遊んでいたゲーム内の力を与えられたこと。
 千歌子ちゃんにスクロールを使ってここに飛ばされたこと。
 この森でたった一人、力を使って暮らしてきたこと。
 
 全部話していた。二人も何も言わずに、ただ頷いて私の話を聞いてくれた。
 すべてを話し終えた私は、もう冷たくなってしまったハーブティーを一口飲んで小さく息を吐いた。
 
 はぁ。全部話したら、なんだか気持ちが軽くなった気がする。
 そんなことを考えていたら、ヴェインさんが優しい顔で言った。
 
「話してくれてありがとう。今度は、俺達の番だな」

 そう言って、今度はヴェインさんが自身の話をしてくれた。
 
「改めて、俺達のことを話すよ。俺たち兄弟は、ベルディアーノ王国の隣国、フェールズ王国の者だ。俺たちは、槍の名門と言われるラズロ家の次男と三男だ。家は、兄が継ぐので俺とアークは騎士団に入った。俺は、騎士団の中隊長補佐をしている。アークは、今年騎士団に入ったばかりの新人だ。アークは、騎士団恒例の新人演習に参加することになったんだ。新人以外は自由参加の演習だったが、俺も参加することにしたんだ。毎年恒例なこともあって、演習場所は毎年街の外に設けられていた専用の演習コースで行われた。演習は、数人で班を組んでコース上の障害物や罠を掻い潜って、ゴールを目指すというものだ。俺とアークは二人でコースに臨んだんだ。順調に進んでいた筈が、気がついたらトラップ魔法を踏んでいてここに飛ばされた。不思議で仕方ない。コース上にはあれほど高度なトラップは無かったはずなのに……」

 そこまで真剣な表情で話してくれたヴェインさんだったけど、アーくんがそんなヴェインさんの話に突っ込んでいた。
 
「兄様……、違います。コースを逸れていたんです。僕たちが踏んだのは間違いなく、演習コースがあった場所から更に行った先の森ダンジョンのものです。ありえないです。普通の新人演習であんなトラップ魔法なんてありえないです。間違いなく、兄様の方向音痴の所為で森ダンジョンに入っていたんです!!」

「ばっ、馬鹿な!!ゴールと森ダンジョンは真逆の位置なんだぞ?あり得ない!」

「あり得るんです!!国に帰ったら、演習を監督していた中隊長に聞いてみてください!!」

「そ、そんな……。ばかな……。あり得ない……、俺は、俺は……、方向音痴なんかじゃない……」

 ヴェインさんの悲しい呟きは、小さすぎて誰の耳にも届いてはいなかった。
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

拝啓。聖女召喚で得た加護がハズレらしくダンジョンに置いてきぼりにされた私ですが元気です。って、そんな訳ないでしょうが!責任者出て来いやオラ!

バナナマヨネーズ
恋愛
私、武蔵野千夜、十八歳。どこにでもいる普通の女の子。ある日突然、クラスメイトと一緒に異世界に召喚されちゃったの。クラスのみんなは、聖女らしい加護を持っていたんだけど、どうしてか、私だけよくわからない【応援】って加護で……。使い道の分からないハズレ加護だって……。はい。厄介者確定~。 結局、私は捨てられてしまうの……って、ふっざけんな!! 勝手に呼び出して勝手言ってんな! な~んて、荒ぶってた時期もありましたが、ダンジョンの中で拾った子狼と幸せになれる安住の地を求めて旅をすることにしたんですよ。 はぁ、こんな世界で幸せになれる場所なんてあるのかしら? 全19話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

嫌われ貧乏令嬢と冷酷将軍

バナナマヨネーズ
恋愛
貧乏男爵令嬢のリリル・クロケットは、貴族たちから忌み嫌われていた。しかし、父と兄に心から大切にされていたことで、それを苦に思うことはなかった。そんなある日、隣国との戦争を勝利で収めた祝いの宴で事件は起こった。軍を率いて王国を勝利に導いた将軍、フェデュイ・シュタット侯爵がリリルの身を褒美として求めてきたのだ。これは、勘違いに勘違いを重ねてしまうリリルが、恋を知り愛に気が付き、幸せになるまでの物語。 全11話

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

元の世界に戻るなんて聞いてない!

バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国には、あまり知られていない恐ろしい呪いがあった。 それは【魔女の嫉妬】というもので、莫大な魔力を持ち、美しい容姿の女性を醜い姿にかえてしまう、恐ろしい呪いだった。 イグニシス公爵家の次女として生まれたレインはその呪いに掛かっていた。この呪いのせいで、周囲の者に冷笑され、嘲笑われていた。 しかしレインは、優しくも温かい家族に支えられて穏やかに暮らしていた。そして、婚約者となった第二王子を大切に思うようになって行った。 だが、世界はとても残酷だった。 レインを愛する家族は、レインに残酷仕打ちをする世界に耐えきれなかった。だから、家族全員でこの世界から姿を消すことにした。 この物語は、呪いに掛かったレインが彼女を愛する人と幸せになるまでのお話。 ※小説家になろう様で連載していた作品を加筆修正したものです。 ※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」と同じ国ですが、それよりも昔の時代のお話です。

冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~

平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。 ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。 ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。 保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。 周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。 そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。 そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

処理中です...