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それぞれの想い【上】

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 家具などの大きなものは後日届けてもらうよう手配して、二人して両手に持てるだけの荷物を抱えて帰宅した。

「ふーっ、重かったぁー! いっぱい買ってもらっちゃってありがとうございます」

 重たい荷物を下ろし、パタパタと手を振って痺れを払う。
 私の三倍近い荷物を抱えていたヨルグも、ドスッと鈍い音をさせて荷物を下ろした。

「それだけ、に必要なものが足りていなかったということだろう」

 今日買ったもののほとんどが私の生活用品であるにも関わらず、ヨルグは当然のように『二人の生活』に必要なのだと言ってくれる。
 身のまわりのものを一から選んでいく作業は楽しくて、お揃いのカップだとか可愛い柄のラグマットだとか、ついつい生活必需品とは言いがたいものまで買ってもらってしまった。

「えっと、ひとまず食材と調味料類をキッチンに……」

「それよりもリズ、ガファスさんへのお土産を先に届けたほうがいいんじゃないか?」

「そうだった!」

 おじいちゃんが寝支度をはじめてしまっては大変と、荷物の片付けもそこそこに実家に向かった。




 新居に『ただいま』と言って帰るなら、実家に来たときはなんと言えばいいのだろう? そう悩んでいた私に、ヨルグは言ってくれた。どちらもリズの帰る場所だろう、――と。

「ただいまー! もう夕食は済ませちゃってるだろうと思って、デザートを買ってきたの! 一緒に食べましょ!」

 両親を喪ったあの頃。帰ってくる家族のいない家にたった一人遺されて、世界から自分の居場所が失われたような言い知れない恐怖を感じていた。
 それが今は、自分の帰りを迎えてくれる『家』が二つもあるなんて。『ただいま』とドアをくぐるたび、『おかえりなさい』と出迎えるたび、何度だって幸せを噛みしめるのだ。


 お土産に買ってきたのは洋ナシのタルト。
 何を食べてもさして表情の変わらないおじいちゃんが、実は甘いもの好きなことを知っている。食べるペースが早まって、食べる量が増えるから。
 「土産なんざいらねえっつったろ」と言いながらちゃっかりふた切れも食べたおじいちゃんは、食べ終えると「ちょっと待ってろ」と言って席を外した。
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