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それぞれの想い【中前】

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 ――ジャラッ、ジャラッ、ゴトッ

 目の前のテーブルに置かれた二つの袋と瓶をまじまじと見つめ、おじいちゃんへと視線を移す。

「おじいちゃん、なに? この大金……」

 古ぼけて曇ったガラス瓶にはミッチリと硬貨が詰まっているのが見えるし、置いたときの音からして二つの袋の中身も硬貨だろう。

「結婚にゃあ『持参金』がいんだろ。こいつぁリゼットの持参金だ」

 そう言って、おじいちゃんは袋の一つをヨルグの前に押し出した。

「は……」

「ついでにこっちも持ってってくれ、飛び出してったバカ息子に渡しそびれた分だ。……こいつを探すのに手間取って、渡すのが遅くなっちまった」

 戸惑うヨルグの目の前に、さらに瓶まで押し出される。
 呆然としていたヨルグは、ハッとしたように勢いよく首を振った。

「いやっ、そんな、こんなに受け取れませんよ! 結婚資金なら俺のほうでも十分な蓄えが――」

「持参金ってのぁ親からの責任と愛情だ。俺ぁ親代わりだが……、リゼットを『持参金も持たされなかった花嫁』にしてぇのか?」

「それは…………」

 ……どうやら、ヨルグが受け取る方向で話はまとまったらしい。

 そっと袋の腹を撫でれば、ジャラッと音を立ててなかの硬貨が崩れる。おじいちゃんが私に内緒でこんなお金を用意してくれているなんて、全然知らなかった。
 透視――いや、『千里眼』を使えたところで、見えていないものの多さに驚くばかりだ。

 一体いつから用意してくれていたのだろう。お父さんの分だって、男の人には持参金なんて必要ないのに。
 きっと将来のためにと、多くはない稼ぎのなかからコツコツ蓄えてくれていたのだ。
 何ヵ月も、何年も。

 おじいちゃんはわかりやすく態度で表してくれる性格ではないから。幼い頃は話しかけてもにこりともしない表情や、その素っ気ない物言いに、本当は私なんか引き取らなければよかったと思っているのだろうと、愛情を疑ったこともあった。

 それでも今ならわかる。
 愛されていない日なんて、きっと一日もなかった。
 私も、――お父さんも。
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