3 / 6
理性的な悪魔
しおりを挟む目を開けているのか閉めているのかわからないほどの暗闇が広がっていた。
僕は暗闇の中でたずねた。
「誰?」
「誰だと思う?」
からかうような声が響いた。
「悪魔でしょ。出て来なよ!」
僕が叫ぶと、暗闇の中に、ぼうっと一人の男が浮かび上がった。
「ふーん。」
僕は鼻で笑った。
「不満げだね?」
「もっと化け物みたいなのが出てくると思った。」
男は真っ白な肌と緑の長い髪をしていた。目は血のように赤い。見るからに人外といった色彩ではあるものの、つくりは人間と相違なかった。目があり、鼻があり、耳があり、口がある。それらは人間の美的感覚では「きれい」と言われる部類だろう。
また、体は修道士のような服を着ているが、布の上からでもわかるほどに均整のとれた体をしていた。
男は柔和な笑みを浮かべながら、首をかしげた。
「それで?私と契約をしに来たんだね?」
予想が確信に変わった。僕は尋ね返した。
「それって、契約しなかったらどうなるのさ?」
「死ぬよ。」
「選ぶ余地がないじゃないか。」
「死にたくないのかい?」
「もちろん。」
死にたくはない。なんとかして生き残りたい。それは人間の本能だろう。
僕はさらに悪魔に尋ねた。
「契約って?」
「君が私の願いを叶えると約束する。私は君に力の一部を分けてあげる。」
「僕が悪魔の願いを叶えるの?」
「そうだよ。悪魔が現世に力を及ぼすには人間が必要不可欠だ。」
僕は考えた。この悪魔と神官、どちらがより僕を生かしておいてくれる可能性があるか。神官たちは有無を言わさず僕をここへ連れてきたが、まだ目の前の悪魔は交渉の余地がある。少なくとも人語を解し、僕と話す意思がある。
「で?あんたの願いは何?」
「……君は見どころがあるね。」
悪魔は口角をぐいっと持ち上げて笑った。そして口が耳まで裂け、鋭く尖った牙をのぞかせた。
僕は怖くなかった。その姿はいつだったか神殿で見た悪魔の絵にそっくりで、もう知っているものだった。それに、僕は悪魔が牙で人を殺さないことも知っていた。悪魔は人を炎で焼くという。炎を一度たりとも出していない目の間の悪魔が、僕を害する気がないのは明白だった。
「悪魔を恐れない少年よ。君の名は?」
「トリク……。」
「そう、トリク…。私はね、君のような存在を待っていたんだ。私の願いを伝えよう。」
僕はその願いを聞き、うなずいた。そうして、悪魔と契約を交わした。
40
あなたにおすすめの小説
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
屈強な男が借金のカタに後宮に入れられたら
信号六
BL
後宮のどの美女にも美少年にも手を出さなかった美青年王アズと、その対策にダメ元で連れてこられた屈強男性妃イルドルの短いお話です。屈強男性受け!以前Twitterで載せた作品の短編小説版です。
(ムーンライトノベルズ、pixivにも載せています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる