異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜

文字の大きさ
1 / 3

1話

しおりを挟む
 自慢ではないが、俺は前世の記憶がある。そして俺は今世で生まれたこの世界のことを知っている。 

 そう、この世界はよくあるBL魔法学園ゲームの世界なのだ。中世ヨーロッパを思わせる街並みと、そこを闊歩する魔法使い。カラフルな髪色をもつ人々が幸せそうに歌を歌う。 

 そして俺はなんの運命のいたずらか、作中最悪の悪役令息として生まれ変わってしまっていた。 

 

 俺がその事実に気がついたのは10歳で第一王子と婚約した日である。俺に笑いかけてきた少年の整いすぎた顔を見て、すべてを思い出した。 

 当然、俺自身のたどる運命も思い出した。 

 俺はサンソリク伯爵家の長男で、名前はマルクスだ。王子と婚約した状態で魔法学園に入学し、そこで庶民出身の主人公の才能と王子との関係に嫉妬をして悪巧みをするいわゆる当て馬的存在だ。 

 このままいけば、俺は18歳の学園の卒業パーティで断罪され、首と胴体が永遠の別れを告げることになってしまう。 

 俺は断罪エンド回避のために8年かけて準備をすることを決意した。 

 

 幸か不幸か、俺はこの手の創作物について知り尽くしている。俺の姉がそっちの趣味の、しかも積極的に布教するタイプの人間だったせいだ。もちろん、この世界についての知識もすべて姉由来である。 

 悪役令息に転生した場合のテンプレは2通りだ。いい人として振る舞って和解エンド、またはめっちゃ極悪人として振る舞って逆に主人公を断罪エンドだ。そしてそのどちらも、いきなり現れた隣国の王子と結婚して幸せざまぁとなるわけだ。 

 それは非常に困る。単純に、隣国の王妃なんて無理ゲーだ。 

 となれば、とるべき行動はひとつだ。 

 

「あー……」 

 俺は部屋に引きこもり、窓の外を眺めて、「あー」とか「うー」とか声にならない言葉を発するお仕事に邁進した。1日12時間、なかなかハードな仕事だ。 

 これがなにかというと、単純に「退場エンド」を目指している行動である。 

 退場エンドとは物語の進行に関わることの一切を拒否することでたどり着けるエンドで、どこからともなくわいてきた幼馴染や理解のある彼くんとのほのぼのハピエンのことを指す。まあ、引きこもっていればそんな人との出会いもないのだが。 

 

「マルクス……、ああ、マルクス……! いったいどうしてしまったというの」 

 俺の両親、とくに母親は狂ってしまった息子を見て嘆き悲しんだが、それはそれ、これはこれだ。命には代えられない。仕方ないじゃないか、俺は頭が回る方ではないから、計算尽くでいい人として立ち回ることや断罪返しなんて高度な真似は絶対にできない。また、退場エンドでよくある家出ができるほどの度胸もない。 

 俺は前世でばりばりの引きこもりニートだったのだ。お家大好き、お布団でごろごろは人生の一部、そして親を泣かすのだって朝飯前だ。 

 

 その演技を続けること8年。俺の筋金入りの引きこもりニート作戦は大成功を収め、(裏金で入学した)学園も無事に退学となり、そして婚約破棄を勝ち取ったのだった。 

 

 

* 

 

  

 というわけで俺は無事に自由の身となったはずだが、今度は別の問題が発生していた。 

「坊っちゃん、おはようございます。ハイセンです。入りますよ」 

「うー」 

「ああ、もう起きていらっしゃったんですね。昨日はよく眠れましたか?」 

「あー」 

 男ーーハイセンは大股で部屋に入ると、手際良く俺をベッドから起こして、髪を梳き、着替えさせる。 

 その間、俺は何もしなくていい。ただ窓の外の鳥に笑ったり、ハイセンが俺の肌に異常がないかを確認しているのを眺めたりするだけだ。 

 そして彼に手を引かれて食卓につく。ハイセンは俺に赤ん坊がするよだれかけのような大きな付け襟をつける。そしてほかほかの食事を一口すくって、にっこりと笑いかける。 

「はい、坊ちゃん、今日はほうれん草と白魚のキッシュですよ。ほうら、あーんしてください」 

「うー」 

「おいしいですね」 

 彼は満面の笑みだ。つられて俺が笑うと、さらに彼は感極まったようになって涙まで流し出す。 

「ぎょうも、ぼっぢゃんが尊いい……!」 

 

 そう、問題とは、このハイセンという男が、俺のことを猫可愛がりして醜態をさらしまくっているせいで、いまさら正気に戻ったと言い出しにくいことである。 

 

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

強面龍人おじさんのツガイになりました。

いんげん
BL
ひょんな感じで、異世界の番の元にやってきた主人公。 番は、やくざの組長みたいな着物の男だった。 勘違いが爆誕しながら、まったり過ごしていたが、何やら妖しい展開に。 強面攻めが、受けに授乳します。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

地下酒場ナンバーワンの僕のお仕事

カシナシ
BL
地下にある紹介制の酒場で、僕は働いている。 お触りされ放題の給仕係の美少年と、悪戯の過ぎる残念なイケメンたち。 果たしてハルトの貞操は守られるのか?

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

気絶したと思ったら闇落ち神様にお持ち帰りされていた

ミクリ21 (新)
BL
闇落ち神様に攫われた主人公の話。

処理中です...