深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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絶え間

強者

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 シズク? なんでここに? 生きているのか? どうやってこな場所に?
 無数に疑問を抱き、それを真っ先に聞きたくて口を開こうとする。
 だが、

「っ……っ!?」

── くそっ、拘束のせいで声が出せない!

 姿も声もどこからどう見ても、いま俺を守ってくれている彼女はシズクだった。だが、俺の知っている彼女と異なる点が一つだけある。

「知り合いですか? 邪魔しないでくれませんかぁ?」
「うーん、だ」

 堂々としているのだ。目の前の彼女は怖いもの無しといった感じで、明らかに苛立っているユミを笑って一蹴しているが、俺の知るシズクはもっとオドオドとしていて怖がりだったはず。

「あ、そ。じゃあ死んでもらいます」

 ユミは吐き捨てるのと同時にデッドウルフの脚力を活かして飛び上がったかと思えば「<毒爪波ヴェノムスラッシュ>」とスキルを発動させる。その鋭い前足の爪2本で虚空を斬る度に宙から降り注ぐ毒属性が付与された攻撃。
 その一つ一つが即死級の威力にも関わらず、高密度かつ大量に頭上に襲いかかる。だが、シズクは避ける素振りを見せない。いや、避けられないのだ。このままでは俺が八つ裂きにされてしまうから。

── ちくしょうっ、俺が動けさえすれば……!

 完全に俺が足を引っ張っている。俺を守るという制約のせいでシズクは……。申し訳なさと惨めさに俺は苦しくなる。が、そんな俺の心中と正反対に、シズクはどうでもいいような無関心な声でこう言った。
 
「ふーん、<収孔ヴォイドストレージ>」

 <毒爪波ヴェノムスラッシュ>からシズクを守るように、何も無かった宙に真っ黒の円が出現する。厚さが無い、理を無視したようなその円はユミの攻撃を全て音もなく飲み込んだ。
 俺はその異様なスキルに目を見張るが、ユミはこの攻撃で殺れるとハナから思っていなかったのだろう。既に次撃を仕掛けていた。

「<爆吼バーストロア>!」

 上の攻撃に対処するシズクの隙を突くような、地面に極限まで這い忍び寄ってからの音の攻撃。

 ──バン!! という殴られたような強烈な衝撃が耳に響き、次の瞬間には世界の音がぼやけた。滲むような痛みや首を伝わる液体の感触からして鼓膜が破れたのだろう。

 シズクもモロに喰らったようだ、耳を抑えて険しい表情を見せる。だが、戦意は失っていない。聴覚を奪い、さらに追い打ちを仕掛けようとするユミをしっかり目で追っていた。

「<……>!」

 さっきの黒い穴、今度は接近していたユミの目の前にそれが再び姿を見せた。かと思えば、次の瞬間、その穴からユミが放ったハズの<毒爪波ヴェノムスラッシュ>が飛び出し、殆ど回避不可能に思えた、超至近距離からの不意打ち。

「っ!!??」
「<……帰>!」

 しかし、ユミは体を真後ろに翻らせてギリギリながらも全弾を避ける。一時後退させることに成功したシズクは、その隙に回復スキル? を発動させる。突然その声が聞こえたことから推測するに、俺にも効果は適用されたようだ。
 
「チッ……」

 ユミは何らかのスキルによって後退しシズクからかなり距離を取る。未知の敵が扱う未知のスキルに対する警戒と、『代償成就』を発動させる時間を作るためだろう。

「<ハイパー加速アクセラレート><風蹴りゲイルキック><武器召喚サモンウェポン>」
 
 それを分かってかシズクもスキルを発動させ、足を踏み込んだ! と思えば既にその場にシズクの姿は無く、いつの間にかユミの寸前まで移動している。
 <加速アクセラレート>の上位スキルである<ハイパー加速アクセラレート>のスピードは凄まじく、俺が移動し終わったシズクを捉えてから、少し遅れてようやく超速移動の衝撃波が通過点に降り注ぐ吹雪を塵に変えたぐらいだ。
 
「なっ!?」
 
 これにはユミも驚きを隠せず、そう声を上げる。シズクはそのままどこからともなく取り出した槍で流れるような連撃を仕掛ける、が、やはり一筋縄では行かない。元より四足歩行という獣の姿をしているユミのほうが圧倒的に接近戦は有利なのだ。
 怒涛の攻撃をユミはどうにか凌ぎながら、叫ぶ。
 
「『代償成就』! 永遠に味覚を代償に一定時間スキルのクールタイムを無効化!<烈爪嵐フィアスクローストーム><死咆乱譜デスロアバラージュ>!!」

 クールタイムを消したおかげで無制限に溢れ出し続ける死の名を冠する咆哮の攻撃と、逃げ道を塞ぐように拡散する爪の斬撃波。
 そんな絶望的状況、シズクは笑っていた。
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