深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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「トドメは……刺すまでもないか」

 復活を遂げた俺が見た頃には既にランブルタイガーの息は無かった。俺が死に際に放った魔法剣に身体中を貫かれた上、意識が無い間にユミが何をやったのかは分からないが左下腹部から後頭部にかけて大きな針がランブルタイガーを貫いていた。

 それを見て俺は安心して気が抜けてしまったのか、膝をついて倒れ込んでしまう。なんせ一度死んだのだ、未だ心臓はバクバクと高鳴っているし、息も荒い。

「はぁー、危なかった」
「本当です……もう、リューロさんが死んじゃうかと……」

 涙こそ収まったようだがユミはそう言って、俺にちょっと文句を言いたげな表情をする。まぁ我ながら無茶をしたとは思う。

「『代償成就』、レベル5を代償に」

 ようやく休憩できる、ただでさえここまで登ってくるのに体力を使ったし、そこにさっきの強敵との死闘だ。とっくに俺の体は悲鳴を上げていた。それを察してか、ユミはこっちを向いて、分かってますよと言いたげに『代償成就』を発動させる。
 ここまで休息をとるときは、それがいかに短い間だろうとも『代償成就』で簡易的な『セーフゾーン』を再現してそこに腰を下ろした。だから、今回もそうだろう、と俺は思い込んでいた。

 だがそうじゃなかった。

「一定時間、身体能力を上昇」
「えっ?」

 予想外の願いに反射的に驚きが声に出てしまう。
 もしかしてまだ魔物が居るのか? と周囲を見渡しても、1面真っ白の雪の高原にそれらしき影は見当たらない。そしてユミはそんな戸惑う俺に一瞥もくれることは無い。

「『代償成就』、レベル15を代償に

 その願いをユミが口にした瞬間、落ちた雪が積雪に馴染むよりも速く、俺の身体が石のように硬直して動かせなくなる。

「……っ!!??」

 身体を動かそうとする電気信号が途中で切断されているような、体の動かし方を忘れたような、そんな感覚。いきなりの攻撃、理由を問いただそうにも口が動かない

 そんな俺にユミは笑いかけた。

「なにも『代償成就』はレベルだけが代償になる訳ではありません。例えば私が仕留めた魔物の死体だったり、要は私の所有物だったらなんでもいいわけです」
「……?」

 突然『代償成就』の説明をし始めたユミ、俺は彼女が何を考えているのか全く分からなかった。

「その場合は代償になるものへの思い入れが大きければ大きいほど大きな願いを叶えられます。私の四肢を犠牲にした時は研究所を破壊して階層移動が出来ました。そして、リューロさん、私は」

 ユミは一度言葉を止め、息を大きく吸う。まるで告白のような、場違いの雰囲気を醸し出す彼女に俺はどこか違和感のような恐怖を感じる。

「私は……あなたが大好きですっ! 頼りになるし、強いし、私の容姿も受け入れてくれたっ!」

 次第に恍惚とした表情に変わっていくユミ。うっとりとしてかつ焦点が合わない瞳、へらりと三日月に開く口、やや紅潮する頬。見たことがないその顔に俺は戸惑いを隠せない。

「だからっ……だからこそ貴方を殺して捧げば! 私はどんな願いでも、例えば『元の姿に戻りダンジョンから出る』なんて願いでも叶えられるのです! あぁ神サマこれは致し方の無いことなのです! あの頃と同じく致し方の無いことなのです!」

 ああ、これが本来のユミなのだ。興奮した様子で動けない俺を見下ろして、好き勝手に語る彼女を見て俺は察する。今までの彼女はただの表層、もしくは仮面に過ぎない。
 俺のそんなどこか冷めたような俯瞰的思考が伝わったのだろうか。ユミの興奮も同じようにすんっと冷め、代わりに殺意が放たれる。

「『代償成就』、ランブルタイガーの死体を代償に毒付与」

毒爪ヴェノムクロー

 デッドウルフの巨体で振り下ろされる鋭い爪、その矛先は真っ直ぐ動けない俺の首に。必死に動こうとするが、何も出来ない。魔法もスキルも使えない。
  死、ランブルタイガーと戦った時よりも明確な死のイメージ。俺はもう目を瞑ってその時を待つことしか出来なかった。

── カァンッ!

 だが、首にその爪が届くことは無かった。

 何か硬いもの同士がぶつかるような衝撃音。訪れるハズの死の代わりに聞こえた音に、俺は目を開く。

 目を開いて、頭が真っ白になった。ユミの毒爪を弾いたと思われる半透明の防御壁、それを展開する人物に。

── どうして? なぜ? なぜ彼女がここに?

 訳が分からなかった。困惑する俺を他所に彼女はこちらを向いて微笑んだ。

「大丈夫? 助けてあげる」

 そう言った彼女はだった。死んだハズのサクラ シズクだった。
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