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夢に見る
11.
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ーーーーナニ、コレ……?
唇を覆う柔らかな感触に、開いてるんだか、閉じてるんだか分からない目を見開いた。
「口付け、初めて?」
ーーーーっっっ!!当たり前だろっ!一体誰とするって言うんだよ!
あの、狭苦しく息が詰まりそうな施設暮らしの中で………。
「そうですね、例えば………。貴方が大事にしているペンダントの送り主……とか?」
ーーーーソルネス?何で、彼を……?
「ふふ……、ちょっとした焼きもちですよ。それに厳密に言えば口付けも今が初めてではないんですけどね?毎回初々しい反応だから、嬉しくなります」
吐息がかかるほど近く、僅かな身動ぎで唇が触れ合いそうな距離での囁き。知らない人間の筈なのに、何で嫌悪感も拒否感も沸かないんだろう……。
ーーーーあんた、誰?
「………………。さて、誰でしょう?そうそう、取り引きしましたね。ではヒントを」
指の背が頬を滑り耳元に辿り着く。ヤワヤワと耳朶を嬲って、大きな掌が頬を包んだ。
「私達は現実世界でも出会ってます、愛しい貴方。夢の世界では毎回『初めまして』の状態で、少し淋しく感じていましたけど。今は現実世界で、『また会いましたね』と私の名前を呼んでくれているんですよ」
ーーーーもしかして……俺達、知り合い?
「ええ。この会話も明日になれば貴方は全て忘れてしまう。でも……」
角度を変えて、再び唇が重なる。吐き出す息に熱が籠もり、深く深く貪るように口腔を蹂躙していく。
一頻り口付けを楽しんで落ち着いたのか、ちゅっとリップ音と共に唇が離れていく。
「現実世界では貴方との付き合いが、リセットすることなく続いていくのだと思うと、この場所での淋しさも我慢できるんです」
切ない声音での告白。顔を、身体を、ゆるゆると辿る指先に、確かに『欲』を感じるけど。それ以上に、溢れんばかりの愛情を注がれているのが分かる。
じわりと、温かな気持ちが湧き上がる。
俺、この人の事を覚えておきたい…………。
誰にも必要とされてこなかったから、只唯ひたすらに与えられる愛情が擽ったくて、嬉しくて、満たされて……泣きたくなる。
ーーーー忘れたく、ない………。
伸し掛かる身体にきゅっとしがみ付けば、クスクスと擽ったそうな笑いと共に、身体のあちらこちらに口付けが降ってきた。
「貴方は本当に…………。私を喜ばせる事が上手ですね」
優しい声は、腰に響くような艶を含んだものに変化して、弄る指も明らかに性的な目的を持って身体を這い回る。
「今はまだ忘れても良い。その代わり、しっかりとその身体に私の愛情を刻みこませて……」
手を伸ばせば確かに手に入れることができる愛情が、ある。
俺が小さくコクリと頷くと、歓喜に満ち溢れた気配が漂ってきた。
頭の後ろに、そっと宝物を包み込むように掌が回される。もう一度、唇が重なる。その仕草に、包み込む腕の暖かさに、聞こえてくる鼓動の速さに、俺自身を心の底から求めている事が伝わってくる。
ーーーーああ、この人が、欲しい………。
☆★☆★☆★☆★
眩しい朝日を受けて、薄っすらと目を覚ます。のろりと起き上がって、ふと隣に視線を向けた。
当たり前だけど、誰もいない。
いるはずがない。小さな俺だけのベッド。
なのに、何で誰かがいると思ったんだろう。
くしゃりとシーツを握り込む。襲い来る喪失感と淋しさを、唇を噛んで耐えた。
何の夢を見たんだろう。俺は一体何を手に入れそこねた?
ふと、気付いて握り締めていたシーツを離し、まじまじと左腕を眺めた。
――――痛くない………。
慌てて巻いていたハンカチを外すと、そこには傷跡もなくキレイに治癒した腕があった。
「―――――っ」
両手で顔を覆う。必死に声を飲み込むことはできても、抑えても抑えても湧き上がる涙を止める事なんてできやしないんだ……。
唇を覆う柔らかな感触に、開いてるんだか、閉じてるんだか分からない目を見開いた。
「口付け、初めて?」
ーーーーっっっ!!当たり前だろっ!一体誰とするって言うんだよ!
あの、狭苦しく息が詰まりそうな施設暮らしの中で………。
「そうですね、例えば………。貴方が大事にしているペンダントの送り主……とか?」
ーーーーソルネス?何で、彼を……?
「ふふ……、ちょっとした焼きもちですよ。それに厳密に言えば口付けも今が初めてではないんですけどね?毎回初々しい反応だから、嬉しくなります」
吐息がかかるほど近く、僅かな身動ぎで唇が触れ合いそうな距離での囁き。知らない人間の筈なのに、何で嫌悪感も拒否感も沸かないんだろう……。
ーーーーあんた、誰?
「………………。さて、誰でしょう?そうそう、取り引きしましたね。ではヒントを」
指の背が頬を滑り耳元に辿り着く。ヤワヤワと耳朶を嬲って、大きな掌が頬を包んだ。
「私達は現実世界でも出会ってます、愛しい貴方。夢の世界では毎回『初めまして』の状態で、少し淋しく感じていましたけど。今は現実世界で、『また会いましたね』と私の名前を呼んでくれているんですよ」
ーーーーもしかして……俺達、知り合い?
「ええ。この会話も明日になれば貴方は全て忘れてしまう。でも……」
角度を変えて、再び唇が重なる。吐き出す息に熱が籠もり、深く深く貪るように口腔を蹂躙していく。
一頻り口付けを楽しんで落ち着いたのか、ちゅっとリップ音と共に唇が離れていく。
「現実世界では貴方との付き合いが、リセットすることなく続いていくのだと思うと、この場所での淋しさも我慢できるんです」
切ない声音での告白。顔を、身体を、ゆるゆると辿る指先に、確かに『欲』を感じるけど。それ以上に、溢れんばかりの愛情を注がれているのが分かる。
じわりと、温かな気持ちが湧き上がる。
俺、この人の事を覚えておきたい…………。
誰にも必要とされてこなかったから、只唯ひたすらに与えられる愛情が擽ったくて、嬉しくて、満たされて……泣きたくなる。
ーーーー忘れたく、ない………。
伸し掛かる身体にきゅっとしがみ付けば、クスクスと擽ったそうな笑いと共に、身体のあちらこちらに口付けが降ってきた。
「貴方は本当に…………。私を喜ばせる事が上手ですね」
優しい声は、腰に響くような艶を含んだものに変化して、弄る指も明らかに性的な目的を持って身体を這い回る。
「今はまだ忘れても良い。その代わり、しっかりとその身体に私の愛情を刻みこませて……」
手を伸ばせば確かに手に入れることができる愛情が、ある。
俺が小さくコクリと頷くと、歓喜に満ち溢れた気配が漂ってきた。
頭の後ろに、そっと宝物を包み込むように掌が回される。もう一度、唇が重なる。その仕草に、包み込む腕の暖かさに、聞こえてくる鼓動の速さに、俺自身を心の底から求めている事が伝わってくる。
ーーーーああ、この人が、欲しい………。
☆★☆★☆★☆★
眩しい朝日を受けて、薄っすらと目を覚ます。のろりと起き上がって、ふと隣に視線を向けた。
当たり前だけど、誰もいない。
いるはずがない。小さな俺だけのベッド。
なのに、何で誰かがいると思ったんだろう。
くしゃりとシーツを握り込む。襲い来る喪失感と淋しさを、唇を噛んで耐えた。
何の夢を見たんだろう。俺は一体何を手に入れそこねた?
ふと、気付いて握り締めていたシーツを離し、まじまじと左腕を眺めた。
――――痛くない………。
慌てて巻いていたハンカチを外すと、そこには傷跡もなくキレイに治癒した腕があった。
「―――――っ」
両手で顔を覆う。必死に声を飲み込むことはできても、抑えても抑えても湧き上がる涙を止める事なんてできやしないんだ……。
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