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夢に見る

6.

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「ねぇ、レイ。お願いします」

目を細めて微笑む姿に、ピシリと固まる。容姿端麗な人に、こうも甘やかにお願いされると、何か裏があるんじゃないかって疑念も吹き飛ぶ。
俺が受けた衝撃は、他テーブルに座る人達も襲ったらしく、ザワザワザワっと広がる波のようにざわめきが広がっていく。

「宰相閣下の微笑みっ!(目が潰れるっ)」
「宰相閣下の微笑みっ!(命令じゃなくてお願いだとっ!?)」
「宰相閣下の微笑みっ!(ヤベえ、嵐が来るっ!)」
「宰相閣下の微笑みっ!(怖っ!微笑みなのに、恐怖しか感じられねぇ!)」

何かデジャブな雰囲気………。俺は背後を気にしながら、口を開いた。

「マ……マイナ、さん……で、お願いします……」

「仕方ありませんね」

ふふっと微笑む姿に、ドクンと心臓が一度強く鳴る。ちょっと俯いて、唇を噛んで心に荒れ狂う嵐を飲み込んだ。
ここで出会う人達は、みんな桁外れに優しい。
だから、ずっとずっと夢に見た事も叶うんじゃないかって思ってしまう。

でも、忘れてはならない。
俺は、親からも不要だと言われた存在だ。
こんな人間を欲しがるヤツなんて、いない。

黙り込んだ俺に気付いたマイナさんは、俯いた拍子に前に流れ落ちた髪をそっと掬って持ち上げた。

ああ、皿に付いて汚れちゃうから………。

そう思った瞬間、彼は瞼を閉じて手にした髪に唇を落として口付けてきた。びくっと身が竦む。

は………?え……………………っと………?

平民の俺の髪に口付けた?何で?

麗しいマイナさんの顔を凝視していると、ふっと目を開いた彼の上目遣いな視線とち合う。

「貴方が私の名前を呼んでくれたと思うと、嬉しくてつい………」

その瞳はトロリと甘く、微かに『欲』が滲んでいるようにも見える。気のせい?いや、でも………。

動揺が隠せず身動いでしまう。マイナさんが僅かに口を開き何か言おうとした、その時。

「ご歓談中申し訳ありません。陛下がお呼びです」

すっと現れた人物が恭しく頭を垂れてマイナさんに告げた。マイナさんは一瞬目を眇めて不快感を露わにしたけど、次の瞬間にはそれらをキレイに隠して、改めて俺を見つめた。

「すみません。呼び出しがかかりました。また是非お会いしましょう」

にこやかに微笑んで優雅に立ち上がると、踵を返して立ち去っていく。その後ろ姿を見送って、俺は詰めていた息をようやく漏らすことができた。
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