【本編完結】【R18】愛さないで

桃色ぜりー

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秘密の花園

第26話 悲しき母の切望 2

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 懐いてくれる子供達が可愛くて仕方がない。そう思えば思うほど、我が子への想いが強くなっていた。
 城内でエミーナに会うたびに、何度も何度も喉元まで出かかったが言えなかった。
 そんなある日の夜。
 子供達と寝ていると、遠くで馬の嘶きが聞こえた。
 起き上がったルティシアは、両脇で眠る三人の子供達を起こさぬように、そっと寝台から下りた。

「ルティシア様」

 生み月が近く、部屋にはもう一つ寝台が置かれ、夜にはファーミアも同室にいてくれた。
 ファーミアが近づいて、ルティシアを気遣って手を取る。

「ごめんなさい、起こしてしまって。お越しになられたのがセレス様なら、どうしてもお会いしたくて」

「ご一緒します。お子様方はぐっすり眠っていらっしゃいますから大丈夫ですわ」

 コクリと頷くと、ファーミアがルティシアにケープを羽織らせ、階下へ下りた。


「お久しぶりにございます、ルティシア様。お健やかなご様子で安心致しました」

「あなたとエミーナのおかげです」

 城に来ていたのはやはりセレスだった。愛妻家の彼は、三日おきに、妻に会う為と王から預かっている愛妾の様子を聞きに来ていた。
 話したいというルティシアに、セレス夫妻は夫婦の貴重な時間を快く割いてくれた。
 
「妊婦さんの夜更かしは体に障ります。早速、本題を伺いましょうか」

 向き合うと早々に促されたが、いざとなると、ルティシアは迷う。
 けれど部屋に戻って寝息を立てる子供達の存在と、温もりを感じると、きっとまた苦しくなる。それが分かっているから、もう言わずにはいられなかった。

「き、気を悪く……さ、されるかもしれませんが」

「そのようなことはありませんので、どうかお気になさらずおっしゃって下さい」
「そうよ、ルティシア。私達はあなたの味方よ。遠慮しないで」

 セレスとエミーナに励まされ、思い切って口にする。

「わ、私が以前に生んだ子が、今、どこにいるかご存知ですか?」

「知っていますよ。ですが、それをお知りになってどうなさる気です?」
 
 決して責めるような口調ではないが、後ろめたいルティシアは、寝衣の上から羽織っているケープの裾を掴んで、重くのしかかる罪悪感に耐えた。
 
「お、親だと……い、今更親だと名乗る気はありません。他人としてで構いませんから……あ、会わせて……ほ、ほんの少しで構いませんからどうか会わせてもらえませんか?」

 触れられなくてもいい。
 離れたところからでいい。
 生きて、元気に過ごしている姿を一目見たかった。

 言った。
 とうとう言ってしまった。
 我が子の幸せだけを願って手放すと決めた日から、どんなに会いたくなっても会わないと、心に固く誓ったはずなのに。
 子を想うあまりルティシアは自ら禁を犯そうとしていた。

 向かい側の椅子から、ふっと穏やかに笑い合う二人がいた。
 すぐ隣では、傍にいてくれるファーミアが、鼻をすすってぐずぐずと泣きだしている。
 どうして、彼らがそんな反応をするのかが、ルティシアには分からなかった。

「構いませんよ。では明日、お引き合わせいたします。ファーミア、ルティシア様をお部屋まで頼むぞ」

 あっさりと引き受け、しかも今日の明日と驚くほどの速さに、ルティシアはそんな早く会わせてもらえるとは思っていなかった。言い出しておいて、先方の都合も聞かずに、そんな簡単に決めてしまって良いものか。

「あ、あのっ」

「大丈夫よ、ルティシア、任せておいて」

 うろたえるルティシアをエミーナが宥める。

「ぐすんっ……承知いたしました、セレス様」

「ファーミア?」

 涙声のファーミアを怪訝に呼ぶと、感極まったように泣き出してしまう。

「ルティシア様がやっとそのように、お子様方のことを仰られるようになられまして、ファーミアは嬉しゅうございます」

 長年、ファーミアはルティシアの最も近くにいた。
 手放した我が子に、時折想いを馳せていたことも気づかれていたのかもしれない。
 ルティシアは、今更会いたがることを罪としか思っておらず、侍女や王の友人達の反応に、複雑になる。

「ごめんなさい、ずっと心配させていたのね」

「いいえ、私の事は良いのです。それよりも、きっと、お子様方も、お母上に会えるのをとても楽しみにしてらっしゃいますよ」

 ファーミアは人が良いからそう思うだけだ。
 子供たちが、喜んで会ってくれるわけがない。
 生まれてすぐ人に預けるような母親だ。恨まれて憎まれていても仕方がない。
 母親と名乗るつもりもない。今の生活に慣れているであろう子供達の心を、乱すようなことはしたくない。
 何も言えず、ルティシアはしばらくファーミアを抱きしめていた。

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