【本編完結】【R18】愛さないで

桃色ぜりー

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秘密の花園

第25話 悲しき母の切望 1

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「あにうえ、あにうえ、これがいい」
「いいよ」
「あにうえ、お腹の赤ちゃんも聞いてるのかな?」
「聞いてるよ。だからゆっくり読むね」

「ありがとう、リシャウェル。私も聞かせてもらうわね」 

「うん」

 昼食後、長椅子にルティシアは座っていた。隣にはマルクスとリシャウェルがいる。
 マルクスは金髪の髪に碧眼、リシャウェルは黒髪に同じく碧眼を持っていた。二人とも整った愛らしい顔をしている。リシャウェルが童話の本を持ち、読んでくれるようだ。
 ちょこんと隣に座るマルクスの体温が、服越しに伝わってくる。
 温かい存在自体がもう可愛らしく、気づけば我が子に想いを馳せていた。
 ルティシアはこれまで四人の男児を産んできた。無事に生きて成長していれば、長男は十五歳、次男は十歳、三男は七歳、四男は四歳になっている。
 アージェスの話だと、皆、孤児院からすぐに里親に引き取られて元気にしているとのことだ。
 想起のたびに、胸が苦しく、辛く悲しくなったが、後悔はしていない。無理に手元において、彼らに何かあったときのことを考えると、心底手離して良かったと納得していた。けれど、こうして子供達に囲まれていると、我が子と過ごすことのできるエミーナが無性に羨ましくなった。何より、マルクスとリシャウェルの髪と瞳の色が、ルティシアが手放した息子達と同じ色をしていたからだ。
 
 無意識に手が伸びて、柔らかな髪に触れ、小さな頭を撫でた。
 撫でているうちにマルクスが振り返って、ルティシアにぺたりと抱きついてくる。
 懐いてもらえるといっそう愛おしく、小さな背を優しく撫でた。 

 アルドリス家の今回の恒例行事には、エミーナと使用人の他に、子供達は五人いた。
 成人を過ぎた娘が二人と、三人の幼児達だった。
 使用人たちと一緒に、大勢で昼食を取った後、エミーナは二人の娘と使用人を連れて、管理の為、敷地内の確認作業に向かった。
 男児の中では最年長のロベルトは、料理番を連れて朝から狩りに出ている。なんでも近くで鹿が獲れるらしく、夕食にルティシアに振舞いたいと、張り切っていた。
 残る二人の子供達は、昼食を終えるといつの間にかどこかへ行っていた。
 エミーナは下の二人がいなくなっても特に気にする様子もなく、「すぐに戻ってくるわよ」と、楽観的に言い残して管理の仕事に行ってしまった。
 流石、肝が据わっている。
 それにしても活発な子供たちだ。男の子というのはそういうものだろうか。
 ルティシアは子供たちのことが心配になりつつも、ファーミアと談話室に移動した。侍女がお茶の用意をしにいく間、しばらく一人でいた。
 そこへ二人の子供たちがやってきたのだ。
 リシャウェルの音読は幼く拙いが、新鮮で癒されるようだった。
 穏やかな時間が過ぎていく。

「読むのが上手ね。とっても聞きやすかったわ。ありがとう」 

 物語を最後まで読んでくれたリシャウェルにお礼を言うと、無言で椅子から下りた。
 どうしたのかと怪訝に思っていると、マルクスがいる反対側に来て、ルティシアの膝に甘えるように頭をつけた。
 もう片手で、労わるようにリシャウェルの頭を撫でてやる。

「頑張って読んでくれてありがとう、立派な兄上だわ」

「あらあら、お戻りになったと思ったら、もうお昼寝されているんですか?」

 戻ってきたファーミアが声をかけると、リシャウェルが体を起こした。

「バカだな、こんなとこで寝ないよ。僕はもう七歳だぞ」

 ルティシアの鼓動がトクンと跳ねる。
 
 私の赤ちゃんと同じ歳。

「そうですか、失礼しました。でも、マルクス様は眠ってらっしゃるようですね。オリオンを呼んでお部屋に運んでもらいましょう」


「やだっ、ルルといる」

 やってきたオリオンが抱き上げようとすると、寝ていた思われたマルクスが目を覚まして嫌がる。ルティシアの膝にしがみついて離れない。

「そ、その名前誰から聞いたの?」

 アージェスがつけたルティシアの愛称だ。
 王宮を離れて一週間が過ぎ、ガーネット城の生活に慣れてきた頃だった。しばらく会っていないアージェスが、急に身近に感じられた。
 教えてくれたのはリシャウェルだった。

「ああ、ロベルト兄上だよ。ルティシアって言いにくいって」

「そ、そうね」

「僕もルルって呼んでいい?」

「え、ええ」

「ルルのお部屋へ行こうよ」

 マルクスが目を擦りながらルティシアの手を掴む。

「僕も今日はルルのお部屋で寝る」

 反対の手をリシャウェルが掴み欠伸をした。
 いつの間にか二人の子供の間では、お昼寝をルティシアの部屋で一緒にすることになっているようだ。

「あなた達が良いならどうぞ」

「今日は、ではなく、今日も、ですけどね」

 ファーミアが笑って訂正した。

 エミーナは管理の仕事が忙しいのか、一つの部屋に長時間いることが少ない。
 子供達はそんな母親を気にすることもなく、広い城で思い思いに過ごしているようだった。
 もっぱら下のリシャウェルとマルクスは一緒にいることが多く、何かとルティシアの傍にきて一緒に過ごしていた。
 ルティシアが使っている寝台は、大人が四人ほど横になれそうなほどの大きさがある。
 一人で寝るには広すぎる寝台に、午睡どころか、夜もなぜか子供達がもぐりこんできて、いつの間にか一緒に寝るようになっていた。ルティシアにしても、誰かがいる方が安心で、どちらが子供なのかと内心で苦笑しながら彼らと添い寝した。

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