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誘拐②
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◆◆◆◆◆
兼業作家として3冊のミステリー小説を出版した俺は、思い切って専業作家になった。
兼業より専業の方が当然執筆の時間は多く取れる。次回作の進捗状況もよく順調に専業作家としての一歩を歩み始めていた。
でも、交通事故に遭って俺の人生は一変した。
高齢者が運転する高級車が、赤信号を無視して交差点に侵入した。運悪く横断歩道を渡っていた俺や小学生は、次々に車に撥ねられてしまう。
俺は病院で目覚めて命が助かった事に安堵した。
だが、脳に衝撃を受けた俺は高次脳機能障害と診断された。同時に左足の感覚がなくなり、杖をついて左足を引きずりながらの退院となる。
同じ事故で小学生がひとり亡くなっている。命を取り留めた俺はツイている‥‥そう思うように努めたが、上手くはいかなかった。
専業作家になりたての俺には、執筆活動に集中できない脳の障害は致命的だった。集中はすぐに途切れて記憶も曖昧。大切なアイデアが不意に消えていく。
そんな状態で執筆活動などできるはずもなく、次回作の話は流れた。仕事を失った俺は、保険と障害年金と賠償金を頼りに不自由な生活が始まる。
担当のケアマネジャーは、自宅に籠りがちな俺に、近所を散歩する様に勧める。筋力の衰えを防ぐ為に、俺はそのアドバイスを受け入れた。
雨の日以外はできるだけ散歩に出掛けたが、急に雨に降られる事もある。散歩中に雨に降られると杖は滑り左足が上手く動かせなくなり、酷く疲れてしまう。
『家まで送りましょう』と見知らぬ男に誘われて、疑いもせず車に乗ってしまったのは、そんな事情があった。
それにしても‥‥誘拐されるとは。
最悪だ。
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だが、脳に衝撃を受けた俺は高次脳機能障害と診断された。同時に左足の感覚がなくなり、杖をついて左足を引きずりながらの退院となる。
同じ事故で小学生がひとり亡くなっている。命を取り留めた俺はツイている‥‥そう思うように努めたが、上手くはいかなかった。
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そんな状態で執筆活動などできるはずもなく、次回作の話は流れた。仕事を失った俺は、保険と障害年金と賠償金を頼りに不自由な生活が始まる。
担当のケアマネジャーは、自宅に籠りがちな俺に、近所を散歩する様に勧める。筋力の衰えを防ぐ為に、俺はそのアドバイスを受け入れた。
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『家まで送りましょう』と見知らぬ男に誘われて、疑いもせず車に乗ってしまったのは、そんな事情があった。
それにしても‥‥誘拐されるとは。
最悪だ。
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