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私は菩薩とは違いますから!

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「左衛門様、ご気分はいかがですか?白湯を貰って来ましょうか?」

散花が桔梗屋の若旦那に尋ねると、左衛門は首を軽くふり上半身を起こす。そして、散花を見つめて柔らかく微笑んだ。

「私はお酒に弱くてね。商人の会合では酒を飲んだふりをしてやり過ごしてる。でも、菊乃の弟に逢うと思うと緊張して‥‥つい酒を口にしてしまった。醜態を見せて済まなかったね、散花」

「いえ、構いません。ですが、商人の会合ではお酒は飲まないことをお勧めします。商売に触りがありますので」

散花が真面目な顔でそう返すと、左衛門は軽く笑って陰間の頬に手を添えた。

「菊乃から同じ忠告をされたよ‥‥。双子だとは聞いていたが、本当に二人はよく似ているね。菊乃が私を迎えに来たのかと、勘違いしてしまったほどだ。」

散花は左衛門の手に己の手を重ねた。そして、小さく呟いた。

「双子に生まれてよかったと思ったことは、一度もありません。小さく生まれた姉も私も病弱でしたし、双子の男女でしたから世間や家族からも気味悪がられました。ただの厄介者扱いです‥‥。」

「男女の双子は、心中した男女の生まれ変わりだと言われているからね。世間は変わった存在を煙たがるものだ」

散花はそっと頷きさらに言葉を洩らす。

「でも、姉さんは豪農の若旦那に見初めされて、人生は劇的に変わりました。変わった筈だった。なのに、どうして姉が遊女になり‥‥私より先に亡くなるのですか、若旦那様?」

「‥‥散花」

散花は虚ろな表情で独り言のように呟きつづける。

「私は姉の持参金を用意するために奉公に出されました。実際には陰間茶屋に売られたんですけどね。姉は私を売って得た持参金を持って、豪農の若旦那の妻になり‥‥優雅に暮らしていると思っていました。」

左衛門は僅かに表情を曇らせて散花に尋ねる。

「散花は菊乃を恨んでいるのか?」

若旦那の言葉に散花は唇を噛みしめた。それでも、溢れる思いを抑えられず口を開く。

「当然です!私は菩薩とは違いますから。家族も姉も恨んでいます。特に姉は私の人生を奪って幸せになったのやから、恨んでもいいでしょ?なのに、姉さんは幸せになれなかった。それじゃあ、私はなんの為に男に抱かれる毎日を送って‥‥こんなに穢れて‥‥こんな、」

散花はいつの間にかポロポロと涙を溢していた。左衛門は散花を抱き寄せて、その背をそっと撫でる。


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