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寝所で添い寝

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「散花、大丈夫か?」
「え?」

弥太郎に声を掛けられ、散花は我に返る。散花は若旦那に抱きつかれたまま苦笑いを浮かべる。

「弥太郎さん。私はこのまま若旦那と床入するから、一緒に寝所に運んでくれる?」

散花の言葉に弥太郎は渋い顔をする。そして、眉を寄せたまま本音を洩らした。

「若旦那はお前を見て『菊乃』って呼んでた。今回は客に問題があった。このまま帰っても、茶屋の旦那は怒らへんよ。俺がちゃんと庇うから‥‥散花、帰ろう」

「私は左衛門さんに姉の事を聞きたいから、床入したい。二人っきりで話がしたくて。若旦那が目覚めるまでは添い寝でもしてるわ。いいやろ、弥太郎さん?」

弥太郎は気難しい表情を浮かべていたが、やがてため息を付いて口を開く。

「若旦那を担いで寝所に運ぶわ」
「ありがとう、弥太郎さん」
「散花は‥‥まあ、ええわ。行くで」
「うん!」

料理屋の旦那に挨拶をしたあと、女中に案内を頼み座敷の横の寝所に向う。寝所に入るとお香の良い香りがした。すでに床の準備は整っており、弥太郎はやや乱暴に若旦那を布団の上に寝転した。

「乱暴にしない!」

「いや、これくらいは許されるやろ!大体、こいつはお前の名前を一回も呼んでないんやで?腹立つやろ、普通は」

「元陰間の発言とは思えんよ、弥太郎さん。酔っ払いの相手は慣れてるやろ?」

弥太郎は少し唇を噛んだ後に、散花を引き寄せて耳元で囁いた。

「酔っ払いの相手を散々してきたから心配なんや‥‥お前のことが。寝所のそばの廊下で控えてるから、何かあったらすぐに呼べ、散花」

「弥太郎さん」
「返事」
「分かった。頼りにしてます。」
「よし、任せとけ」

弥太郎は軽く笑って散花の肩を軽く叩いた。弥太郎の言葉に安心して、散花は寝転ぶ左衛門の横に正座する。その様子を見た弥太郎はそっと寝所を出て襖を閉める。

「左衛門さん、お目覚めでしょ?」

「ああ、気付かれてしまった。恥じ入ってこのまま狸寝入りをしたがったのですが。許してはくれないようだね。散花と呼んでいいかい?それとも、琴風?」

「散花と呼んでください、若旦那様」

散花は左衛門に向けて頭を下げた。


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