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六十六

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 わたしたちが言い合いしながらモンスターと退治していた。その間も詠唱続けていたミカの前に緑色にきらめく玉が現れる。

 ミカはそれに手を伸ばして、球の中から小枝を抜き取ると地面に突きさして、自分の杖の先端を地面に当てた。
 

「~癒しの木よ、癒しを我らにもたらせ――」


 さした枝はみるみる育ち、わたしの腰くらいの金色に光る木に育つ。

「ふうっ――上手くいきました。私の故郷の癒しの木とは比べ物になりませんが。木から落ちる癒しの光りに接すると、一、ニ時間くらいはどんな傷でも癒やすことができます」

「ありがとう、ミカ!」

「いいえ、私はこれくらいしかできませんから。まだ魔力の余力は残っていますので回復も出来ます。すぐに治したい傷がありましたら、遠慮なく言ってくださいね」


「「ありがとう!」」


 いまだ目を覚まさないカヤとリヤを、あの木の下に寝かせれば傷が回復する。わたしの視線の先が二人を見て、癒やしの木を見ていたことに気付いたナサが叫ぶ。

「リーヤ、目の前のオオカミどもが片付いたら、カヤとリヤを連れて癒しの木のところで動くな!」

「わかった、ナサ!」

「リーヤさん、落ち着いてオオカミを一体ずつ倒しましょう!」

「はい、リキさん!」

 リキの声に頷き、わたしは気を引き締め木刀を構えた。ナサたちは大熊モンスターに苦戦しているけど、確実に追い詰めてきている。


 ――この戦いの終わりが見えてきた。



 
 +




 わたしがオオカミ一匹を引きつけて、リキがもう一匹の強制召喚印を破壊するため、自分との間合いを詰めていた。


「――勝機、でぃやあっ!!」


 リキが振り抜いた刀がオオカミの額に命中して、召喚印は『バギィィィーッ』と音を立てて壊れた。


 ――残るオオカミはあと一匹だ。


「リーヤさん、二人を癒しの木までおねがいします!」

「はい、分かりました」

 わたしが近くに駆け寄り気絶する二人を抱えたとき、こちらに駆けてくる複数の足音が聞こえた。


(えっ、騎士団?)


 いまごろ現れた騎士達は大熊モンスターの前で、足を止め剣を構える。『総員大熊モンスターを退治しろ!』と、誰かが命令を出した。


「「かしこまりました!」」

  
 命令を受けた複数の騎士たちは、大熊モンスターに向かっていく姿が見える。

 その姿を見てナサが焦った。


「ま、待て、騎士団! オレの盾陣営から出るな!」


「亜人の言うことなど聞くか!」
「俺たちに命令するな亜人!」

 彼らは盾役のナサに暴言を吐き、大熊モンスターに駆け寄ってしまう。――その、一瞬の隙、集中の途切れがナサの盾陣営を崩した。その隙を狙うかの様に大型熊モンスターは見合っていたナサに飛びかかり、彼を癒しの木まで吹っ飛ばした。
 
「グハァッーー!!!」


「ナサ!」


 亜人隊の盾役がいなくなりアサトは斧を構え、一歩下がる。ロカは杖を握り守りの魔法を詠唱始めた、それはミカも同じだった。

「くそっ、俺たちの盾陣営がある所に、なぜ? 騎士がいきなり入って来やがったぁ! お前たちもその訓練はしているだろう!」

 アサトの怒りの声。
 
 しかし、それは騎士達に届かず大熊モンスターに切り掛かっていく。盾役――ナサの力のお陰で抑えられていた大熊モンスターだった。

 切りかかった騎士たちは力なく、大熊モンスターの爪攻撃にやられていく。


「お前たち何をやっている、盾役――盾を構えモンスターの攻撃に耐えよ!」


「はっ!」


 指揮官の命令を受けて、騎士団の中から盾役数人が盾を構えた。しかし、大型熊モンスターの体当たり攻撃に耐えられず、一人二人と吹っ飛ばされていく。


「リーヤさん、危ない!」

「きゃっ!」

 それはこっちも同様だ。

 残ったオオカミはこのできた隙に、リキには敵わないとカヤとリヤを抱えようとしていた、わたしに飛びかかったのだ。


 ――しまった、二人を抱えるために木刀は地面に置いたままだ。


 このままではオオカミの切り裂き攻撃に、みんなやられてしまう。どうにか二人だけでも守らなくては! (カヤ君、リヤ君、乱暴に扱ってごめんね) リキと近くのナサに向けて、二人を思いっきり投げ飛ばした。


「お願い、二人を守って!」


 ――ギャオォォン!


 オオカミが来る、プロテクトは? さっきナサとアサトにかけたから無理――『こうなったら、やるしかない!』と気合を入れて、向かって来るオオカミに体当たりした。だけど、守る物がないわたしの体は軽々と飛ばされる。

「うわぁ、!!」


「「リーヤ!」」


 ナサの声が聞こえた。
 わたしは地面を転がり、目の端に見えた木刀を握った。
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