79 / 90
四章RL:探り当てし交渉の地
九話:二転三転
しおりを挟む
「申し訳ないけど、これで終わりだよ」
魔術で黒くコーティングされた剣を手に、リンはまっすぐ上に飛び上がる。その高さは跳躍と言うより、飛行のそれに近い。
暗いのも相まってガーベラはリンを見失った。
「真上だと? ……まさか!」
ガーベラは縮地の要領で前に飛び出す!
それとほぼ同時。黒い剣が降ってきた。一筋の黒い流星は大地を砕く。直撃は免れたものの、衝撃波がガーベラを吹き飛ばす。
「ぐあぁぁぁぁ!!! ──ッ!?」
転がって地に伏すガーベラ、その腹を蹴飛ばすリン。
リンは最初から分かっていたかのように、ガーベラが転がってくるところに着地していたのだ。
「うぶっ……!!」
間髪入れずに繰り出される不意の一撃に、受け身も取れずに飛んで行く。さながら蹴られたボールのように。
「──ガッ……! あぁっ……」
木に真っ直ぐ叩きつけられたガーベラは、そのまま崩れ落ちた。
「……ゴ、ゴフッ……ガハッ……」
ガーベラは咳き込み、苦しそうに血を吐いた。
リンは無言のままガーベラの前髪を掴んで、無理やり顔を上げた。
虚ろな目がリンの方を向くと、ようやく口を開いた。
「……もしかしてとは思ってたけど、戦いはズブの素人だね? 」
「ご名答……ガフッ……」
「それに君……元々この世界出身じゃ無いでしょ? 魔術のそれとも全く違う匂いがする」
「そこまで……バレていたとはな 」
「でも、一つだけわかんないことはあるなぁ」
そう言ってガーベラの顔を覗き込む。
「なんで魔王軍幹部の君が、ローレルに肩入れするの? どう考えても魔王の命令じゃない。立派な背信行為だよ?」
血の滴る口角を吊り上げ、ガーベラは言う。
「また会おうと仰ってくださったからだ。 だからまた会いに来た。そういうものなのだろう? 友とは」
「──ッ!! 」
衝動的に振るわれた拳は空を切った。リンの手には髪の切れ端だけが握られていた。
「そなたのせいで前髪がぱっつんになってしまったでは無いか。 これではローレル殿に顔向けできぬのだが……どうしてくれる?」
声の方へリンは目を向ける。
少々頭をさっぱりさせたガーベラが、笑顔で口元を拭っていた。そして懐から血糊入りの袋を出して見せびらかした。その様子から、先程までのダメージは感じられない。
「よくもコケにしてくれたな」
「何、ローレル殿の真似をしたまで。……顔が怖いでござるよ? ほらほら、スマイルスマイル!!」
「笑えって? この状況で?」
「でも……まあ、笑っていたところでローレル殿に逃げられるくらいおっかない顔でござるからな。軽率な発言であった。相済まぬ!」
リンは唇を噛む。ロングソードを納刀し、髪を掻きあげた。リンの金髪に赤いメッシュが入る。
「そんなに殺されたいか。ガーベラ……!」
リンは血走った目を向ける。ガーベラの方を向いているようで、焦点はそこでない。
ガーベラは後ろを少し見やり、ほほえんだ。そして鞘ごと刀を掴んで柄を口元にかざした。
「まこと……底が知れぬ男よ。 激情の中、こうも冷静に判断ができているとはな……」
ガーベラの背後には、ここまで息を潜めていたステラが立っていた。白く光る両手をガーベラの方に向けて、今詠唱を終えようとしている。
ガーベラは笑みを絶やさずにリンに聞く。
「リンよ。ここらで手打ちとしよう。これ以上となると、そなたらを無傷で帰すことが難しくなりそうだ」
「私は最初からそんなつもりはないよ。せっかくローレルに会えたんだ。私はお前をここで殺し、ローレルを追わせてもらう」
「そうか。ならばとくと味わえ。それがし……いや、わたしの必殺技を」
ガーベラは柄を口に近づけ、さながらマイクのように構えた。右腕をまっすぐ伸ばして前方を指さす。そして目を閉じる。
「……『まもなく一番線に列車が参ります。 白線の内側までさがってお待ちください』」
リンは不思議そうに周りを見た。周りの風景が一変したのだ。騒々しい森の中から、不気味なほど静かな駅のホームへと。
魔術で黒くコーティングされた剣を手に、リンはまっすぐ上に飛び上がる。その高さは跳躍と言うより、飛行のそれに近い。
暗いのも相まってガーベラはリンを見失った。
「真上だと? ……まさか!」
ガーベラは縮地の要領で前に飛び出す!
それとほぼ同時。黒い剣が降ってきた。一筋の黒い流星は大地を砕く。直撃は免れたものの、衝撃波がガーベラを吹き飛ばす。
「ぐあぁぁぁぁ!!! ──ッ!?」
転がって地に伏すガーベラ、その腹を蹴飛ばすリン。
リンは最初から分かっていたかのように、ガーベラが転がってくるところに着地していたのだ。
「うぶっ……!!」
間髪入れずに繰り出される不意の一撃に、受け身も取れずに飛んで行く。さながら蹴られたボールのように。
「──ガッ……! あぁっ……」
木に真っ直ぐ叩きつけられたガーベラは、そのまま崩れ落ちた。
「……ゴ、ゴフッ……ガハッ……」
ガーベラは咳き込み、苦しそうに血を吐いた。
リンは無言のままガーベラの前髪を掴んで、無理やり顔を上げた。
虚ろな目がリンの方を向くと、ようやく口を開いた。
「……もしかしてとは思ってたけど、戦いはズブの素人だね? 」
「ご名答……ガフッ……」
「それに君……元々この世界出身じゃ無いでしょ? 魔術のそれとも全く違う匂いがする」
「そこまで……バレていたとはな 」
「でも、一つだけわかんないことはあるなぁ」
そう言ってガーベラの顔を覗き込む。
「なんで魔王軍幹部の君が、ローレルに肩入れするの? どう考えても魔王の命令じゃない。立派な背信行為だよ?」
血の滴る口角を吊り上げ、ガーベラは言う。
「また会おうと仰ってくださったからだ。 だからまた会いに来た。そういうものなのだろう? 友とは」
「──ッ!! 」
衝動的に振るわれた拳は空を切った。リンの手には髪の切れ端だけが握られていた。
「そなたのせいで前髪がぱっつんになってしまったでは無いか。 これではローレル殿に顔向けできぬのだが……どうしてくれる?」
声の方へリンは目を向ける。
少々頭をさっぱりさせたガーベラが、笑顔で口元を拭っていた。そして懐から血糊入りの袋を出して見せびらかした。その様子から、先程までのダメージは感じられない。
「よくもコケにしてくれたな」
「何、ローレル殿の真似をしたまで。……顔が怖いでござるよ? ほらほら、スマイルスマイル!!」
「笑えって? この状況で?」
「でも……まあ、笑っていたところでローレル殿に逃げられるくらいおっかない顔でござるからな。軽率な発言であった。相済まぬ!」
リンは唇を噛む。ロングソードを納刀し、髪を掻きあげた。リンの金髪に赤いメッシュが入る。
「そんなに殺されたいか。ガーベラ……!」
リンは血走った目を向ける。ガーベラの方を向いているようで、焦点はそこでない。
ガーベラは後ろを少し見やり、ほほえんだ。そして鞘ごと刀を掴んで柄を口元にかざした。
「まこと……底が知れぬ男よ。 激情の中、こうも冷静に判断ができているとはな……」
ガーベラの背後には、ここまで息を潜めていたステラが立っていた。白く光る両手をガーベラの方に向けて、今詠唱を終えようとしている。
ガーベラは笑みを絶やさずにリンに聞く。
「リンよ。ここらで手打ちとしよう。これ以上となると、そなたらを無傷で帰すことが難しくなりそうだ」
「私は最初からそんなつもりはないよ。せっかくローレルに会えたんだ。私はお前をここで殺し、ローレルを追わせてもらう」
「そうか。ならばとくと味わえ。それがし……いや、わたしの必殺技を」
ガーベラは柄を口に近づけ、さながらマイクのように構えた。右腕をまっすぐ伸ばして前方を指さす。そして目を閉じる。
「……『まもなく一番線に列車が参ります。 白線の内側までさがってお待ちください』」
リンは不思議そうに周りを見た。周りの風景が一変したのだ。騒々しい森の中から、不気味なほど静かな駅のホームへと。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生勇者の三軒隣んちの俺
@aozora
ファンタジー
ある日幼馴染のエミリーと遊んでいる時に木の枝から落ちて気を失ったジェイク。目を覚ました時、彼は自分が転生したと言う事を自覚する。ここはRPGファンタジーゲーム”ソードオブファンタジー”の世界、そして俺はオーランド王国の勇者、”赤髪のジェイク”。あのゲームで主人公は国王からの依頼で冒険の旅に旅立ったはず。ならばそれまでにゲーム開始時以上の力を手に入れれば。滾る想い、燃え上がる野心。少年は俺Tueeeをすべく行動を開始するのだった。
で、そんな様子を見て”うわ、まさにリアル中二病、マジかよ。”とか考える男が一人。
これはそんな二人が関わったり関わらなかったりする物語である。
この作品はカクヨム様、ノベルピア様、小説になろう様でも掲載させて頂いております。
よろしくお願いします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる