友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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四章RL:探り当てし交渉の地

九話:二転三転

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 「申し訳ないけど、これで終わりだよ」


 魔術で黒くコーティングされた剣を手に、リンはまっすぐ上に飛び上がる。その高さは跳躍と言うより、飛行のそれに近い。
 暗いのも相まってガーベラはリンを見失った。
 

  「真上だと? ……まさか!」


 ガーベラは縮地の要領で前に飛び出す! 
 それとほぼ同時。黒い剣が。一筋の黒い流星は大地を砕く。直撃は免れたものの、衝撃波がガーベラを吹き飛ばす。


 「ぐあぁぁぁぁ!!! ──ッ!?」


 転がって地に伏すガーベラ、その腹を蹴飛ばすリン。
 リンは最初から分かっていたかのように、ガーベラが転がってくるところに着地していたのだ。
  

 「うぶっ……!!」

 
 間髪入れずに繰り出される不意の一撃に、受け身も取れずに飛んで行く。さながら蹴られたボールのように。

   
 「──ガッ……! あぁっ……」


 木に真っ直ぐ叩きつけられたガーベラは、そのまま崩れ落ちた。


 「……ゴ、ゴフッ……ガハッ……」


 ガーベラは咳き込み、苦しそうに血を吐いた。
 リンは無言のままガーベラの前髪を掴んで、無理やり顔を上げた。
 虚ろな目がリンの方を向くと、ようやく口を開いた。


 「……もしかしてとは思ってたけど、戦いはズブの素人だね? 」

 「ご名答……ガフッ……」

 「それに君……元々この世界出身じゃ無いでしょ? 魔術のそれとも全く違う匂いがする」

 「そこまで……バレていたとはな 」

  「でも、一つだけわかんないことはあるなぁ」


 そう言ってガーベラの顔を覗き込む。


 「なんで魔王軍幹部の君が、ローレルに肩入れするの? どう考えても魔王の命令じゃない。立派な背信行為だよ?」

 
 血の滴る口角を吊り上げ、ガーベラは言う。


会おうと仰ってくださったからだ。 だから会いに来た。そういうものなのだろう? 友とは」
   
 「──ッ!! 」


 衝動的に振るわれた拳は空を切った。リンの手には髪の切れ端だけが握られていた。


 「そなたのせいで前髪がぱっつんになってしまったでは無いか。 これではローレル殿に顔向けできぬのだが……どうしてくれる?」


 声の方へリンは目を向ける。
 少々頭をさっぱりさせたガーベラが、笑顔で口元を拭っていた。そして懐から血糊入りの袋を出して見せびらかした。その様子から、先程までのダメージは感じられない。


 「よくもコケにしてくれたな」

 「何、ローレル殿の真似をしたまで。……顔が怖いでござるよ? ほらほら、スマイルスマイル!!」

 「笑えって? この状況で?」

 「でも……まあ、笑っていたところでローレル殿に逃げられるくらいおっかない顔でござるからな。軽率な発言であった。相済まぬ!」

 
 リンは唇を噛む。ロングソードを納刀し、髪を掻きあげた。リンの金髪に赤いメッシュが入る。

 
 「そんなに殺されたいか。ガーベラ……!」


 リンは血走った目を向ける。ガーベラの方を向いているようで、焦点はそこでない。
 ガーベラは後ろを少し見やり、ほほえんだ。そして鞘ごと刀を掴んで柄を口元にかざした。
 

 「まこと……底が知れぬ男よ。 激情の中、こうも冷静に判断ができているとはな……」


 ガーベラの背後には、ここまで息を潜めていたステラが立っていた。白く光る両手をガーベラの方に向けて、今詠唱を終えようとしている。
  ガーベラは笑みを絶やさずにリンに聞く。


 「リンよ。ここらで手打ちとしよう。これ以上となると、そなたらを無傷で帰すことが難しくなりそうだ」

「私は最初からそんなつもりはないよ。せっかくローレルに会えたんだ。私はお前をここで殺し、ローレルを追わせてもらう」

「そうか。ならばとくと味わえ。それがし……いや、の必殺技を」


 ガーベラは柄を口に近づけ、さながらマイクのように構えた。右腕をまっすぐ伸ばして前方を指さす。そして目を閉じる。


 「……『まもなく一番線に列車が参ります。 白線の内側までさがってお待ちください』」 


 リンは不思議そうに周りを見た。周りの風景が一変したのだ。騒々しい森の中から、不気味なほど静かな駅のホームへと。
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