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第百六十八話
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奈々実が山の近道を使って、主都までオルフェに乗って通うようになってから、一か月が過ぎた。
季節は夏が終わり、秋の気配が濃くなってきている。ベルチノアは生まれ育った日本よりも全体的に湿度が低く、土地も痩せているので植生に乏しい。それでも山の近道では、様々な植物の色づきを見ることができる。週に二度、往復で二時間ちょっとの乗馬、それも起伏に富んだ山道というのは、体幹を鍛え、腸をしっかりと活動させて便秘を予防して、内臓脂肪を燃やすのにかなり有効だった。内臓脂肪が減って便通がよくなると、肌が格段にキレイになる。陽射しが強いので紫外線によって肌や髪がダメージを受けるのではないかという懸念があったが、多少、小麦色にはなるものの、赤くなったりヒリヒリしたりはしない。後からわかることだが、この世界の太陽光はもといた世界よりも紫外線が少ないというか、肌にもたらす悪影響があまり無いらしい。言われてみれば、街中やマルシェで見るお年寄りにシミなどは少ないような気がする。
いつも一緒に主都まで往復してくれるのは、現役時代のクロエの指導を受けたグレースという女性兵士と、少年兵見習いのサシャである。サシャの父親は漁師で、息子には自分の仕事を手伝わせたくて、少年兵養成所に入ることには反対していたという。しかし皮肉なことに、幼い頃から船に乗って海に出て父親の手伝いをしていたことで、動体視力やバランス感覚が鍛えられていて、サシャは同世代の少年の中では群を抜いて騎射の腕が優れていた。少年兵養成所の教官から頭を下げて頼まれ、本人の希望もあって、サシャは養成所に入ることができた。それでも一時帰宅の時には父親の手伝いをさせられるので、家に帰るのを心待ちにしている他の少年たちとは違って、あまり家に帰りたくないらしい。
そんなサシャにとって、奈々実の護衛でグレースと一緒に主都まで往復する役に抜擢されたことは、渡りに船だった。年齢は違うけれど、二人は家が近く、サシャは男勝りなグレースに幼い頃からなついていたのだそうだ。主都へは整備された道を行くと馬車で三時間の道のりであるため、海産物は塩漬けや干物にしたり、もしくは大きな魔石を使って冷蔵や冷凍の状態にしなければ運べない。山の近道なら一時間ちょっとで行けるので小さな魔石で保冷するだけで新鮮なまま運べる。サシャはロバ二頭に積めるだけの量の海産物を積んで運ぶのだ。奈々実一人に二人も護衛がつくのではものものしすぎて、かえって目立ってしまうので、海産物を運ぶ体を装ったほうが得策だし、サシャの父親も喜んで、一石二鳥であった。
季節は夏が終わり、秋の気配が濃くなってきている。ベルチノアは生まれ育った日本よりも全体的に湿度が低く、土地も痩せているので植生に乏しい。それでも山の近道では、様々な植物の色づきを見ることができる。週に二度、往復で二時間ちょっとの乗馬、それも起伏に富んだ山道というのは、体幹を鍛え、腸をしっかりと活動させて便秘を予防して、内臓脂肪を燃やすのにかなり有効だった。内臓脂肪が減って便通がよくなると、肌が格段にキレイになる。陽射しが強いので紫外線によって肌や髪がダメージを受けるのではないかという懸念があったが、多少、小麦色にはなるものの、赤くなったりヒリヒリしたりはしない。後からわかることだが、この世界の太陽光はもといた世界よりも紫外線が少ないというか、肌にもたらす悪影響があまり無いらしい。言われてみれば、街中やマルシェで見るお年寄りにシミなどは少ないような気がする。
いつも一緒に主都まで往復してくれるのは、現役時代のクロエの指導を受けたグレースという女性兵士と、少年兵見習いのサシャである。サシャの父親は漁師で、息子には自分の仕事を手伝わせたくて、少年兵養成所に入ることには反対していたという。しかし皮肉なことに、幼い頃から船に乗って海に出て父親の手伝いをしていたことで、動体視力やバランス感覚が鍛えられていて、サシャは同世代の少年の中では群を抜いて騎射の腕が優れていた。少年兵養成所の教官から頭を下げて頼まれ、本人の希望もあって、サシャは養成所に入ることができた。それでも一時帰宅の時には父親の手伝いをさせられるので、家に帰るのを心待ちにしている他の少年たちとは違って、あまり家に帰りたくないらしい。
そんなサシャにとって、奈々実の護衛でグレースと一緒に主都まで往復する役に抜擢されたことは、渡りに船だった。年齢は違うけれど、二人は家が近く、サシャは男勝りなグレースに幼い頃からなついていたのだそうだ。主都へは整備された道を行くと馬車で三時間の道のりであるため、海産物は塩漬けや干物にしたり、もしくは大きな魔石を使って冷蔵や冷凍の状態にしなければ運べない。山の近道なら一時間ちょっとで行けるので小さな魔石で保冷するだけで新鮮なまま運べる。サシャはロバ二頭に積めるだけの量の海産物を積んで運ぶのだ。奈々実一人に二人も護衛がつくのではものものしすぎて、かえって目立ってしまうので、海産物を運ぶ体を装ったほうが得策だし、サシャの父親も喜んで、一石二鳥であった。
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