異世界ダイエット

Shiori

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第九十話

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 「ラガルド様、代わりの者を推薦させていただけますか?」
だしぬけに言われ、ラガルドは黙ってセヴランを見る。
「殿下から今度の遣使の目的をうかがいました。大使には私の副官のアンリ・ベクールを推挙いたします。それと・・・」
セヴランは一度、言葉を切ってリシャールを見た。
「この目で見たわけではありませんので申し上げにくいのですが・・・、アルヴィーン滞在中に聞いた噂では、第二王女のイングリッド殿下はおみ足が不自由であることを理由に姉君であるヴィクトリア王太女殿下から不当に蔑まれ、陰湿な嫌がらせを受けておられるとか」
「なんと、そのような・・・。誠のことであろうか?」
「わかりかねます。あくまで噂です。それと、ナナミのような異世界からの迷い人を複数人、保護していらっしゃると。中には瀕死にあったところをご自身の魔力で救命され、片時も離さずにご寵愛の者さえあると」
「ご寵愛!? それはまさか・・・」
男性の王侯貴族であれば愛妾や側室が侍るのはめずらしくない。しかし、アルヴィーンは女帝を戴く国である。女帝や王女に男の側室やら愛妾やらがいるのかと、ラガルドは目を剥いた。
「イングリッド殿下は二十代半ばのはず。女性でもその歳まで独り身であれば、そうしたこともあるかもしれん」
まるで他人事のように言うリシャールにラガルドは血相を変えて詰め寄る。
「殿下! 男メカケを何人も抱えたようなふしだらな王女が我が国の王太子妃でも構わないとおっしゃるのですか!?」
「まだ俺の嫁になってくれると決まったわけではない。それにイネスを泣かせた時点で、俺自身には選択権もえり好みを言う資格も無い」
 リシャールがイネスを見初め、その美貌と才覚を愛したのは、数年前のことだ。そのまま王太子妃に迎え、生涯を共にするつもりだったのに、横やりが入った。
『アルヴィーンに朝貢し、第二王女の降嫁を願う』
正式に言えば、ベルチノアは小さな新興国とはいえ独立したひとつの国家でありリシャールはその王太子なのだから、『降嫁』ではない。
 しかし、国力にあまりにも差がありすぎる。吹けば飛ぶような小国の分際で思い上がりも甚だしい、無礼の極みであるとして、遣使全員が首を刎ねられる可能性すら否定できない申し出をしようというのだ。
 「愚兄エルネストが作りましたフライング・ソーサーの存在、それにゴールドのままで安定した魔力を与えられた異世界人・・・、ナナミのことですが、そうした存在についてお伝えすることができれば、我が国に関心をお示しくださる可能性もあるかと存じます」
セヴランはエルネストが描いた、あるものの図面を広げた。
「まだ実物を作れたわけではありませんが、フライング・ソーサーをかように工夫した物をエルネストが鋭意制作中です」
「こっ・・・、これは・・・」
 空飛ぶお盆の上に椅子が固定された、いわば空飛ぶ輿、或いは車椅子ならぬ飛行椅子とでも言うべき物だ。重量と魔石のエネルギー出力の調整を安定させれば、実用化はさして難しいことではないと、エルネストは言っている。
「おみ足が不自由であられるイングリッド殿下には、おおいに魅力的であろうな」
「ヴィクトリア王太女殿下がイングリッド殿下を虐げておられる理由は、おみ足の件だけが理由ではないようです。ヴィクトリア殿下よりも魔力の量も制御力もすばらしく・・・、五歳の頃には母君であらせられるパトリシア女帝陛下よりも制御力が上だと帝室付きの魔導士が絶賛したとの話も聞きました。ヴィクトリア殿下はご自身が廃され、イングリッド殿下が王太女に立てられるのではないかと疑心暗鬼に駆られ、イングリッド殿下を亡き者にせんと思い詰めておられるとの噂もありました」
「そのイングリッド殿下が、我が国のような大陸の東の果ての小国に降嫁ということになれば・・・」
「ヴィクトリア王太女殿下の心の安寧に寄与したとお褒めいただくのか、たわけたことを言うなとお怒りをかうのか・・・」
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