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幸せの在り処

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途方もなく長く感じた人生の道。



歩き疲れて



なんだかひどく眠りたくて。



あなたがたどり着いた先は



幸せがいっぱいの場所でした。




それでも、なんだか



気持ちがついてきません。




その幸せは、ああ、そうだ



何処か他人事のようでした。




笑えても、


おなかから笑った気がしません。



幸せを感じてもそれは



すぐに心をすり抜けていきました。




「わかってた…私は幸せにはなれないんだ」




ふと、そこには絶望がありました。



絶望の崖っぷちには



沢山の靴が揃えられています。



「私も、ここに靴をぬいで並べてしまおうかしら」




あなたはそんな事を思います。





その時、神様があなたに声をかけました。



「辛いのか、生きる事が」


「はい」


「苦しいのか、想いを抱える事が」


「はい」


「怖いのか、捨てられそうで」


「はい」


「痛いのか、愛されぬ事が」


「はい」


「悲しいのか、柵に埋もれる事が」


「はい」




その言葉はまるであなたの心を



見透かしたように心に落ちてきます。





神様は深く頷いて



あなたの目を見据えました。





「お前は、お前を辞めたいか」



「……っ、はい」



あなたの中に一瞬の戸惑いがありました。






あなたの戸惑いを見抜いた神様は



持っていた扇子であなたの頭を



ビシッと強く叩きます。




「いたっ」


その打力はビンっと響くような痛みを



身体中に与えました。



叩かれた頭は火がついたように



じりじりと痛みます。




思わず頭を押さえ込んで



しゃがみ込んだあなたに神様は



こう言いました。





「お前は今、死んだ」




「今、お前は消えた」




「これからは新しいお前だ」




「泣くもよし」



「笑うもよし」



「苦しみを分け合うのもよし」



「痛いと叫ぶのもよし」



「元のお前と共に柵は消え去った」







そして、もう一言。





「お前は、自由だ」






そういった神様は



あなたの頭を一撫ですると



また天の世界へと還っていったのです。




あなたはまた一人



取り残されました。



だけど、今までのあなたは死んだのです。




自由になれたのです。




振り返るとそこには



幸せな世界が広がっていました。




さっきまで



幸せと感じられなかった場所でした。





「あ、そっか」



あなたは大切なことに気が付きました。



「私、幸せになることが怖かっただけなんだ」




そう、幸せになる事は誰でも恐いのです。




幸せと終わりはいつも隣り合わせだから



考え始めたら誰でも身が竦んで



幸せを信じる事が難しくなるのです。



でも、あなたは歩み始めました。



恐いけれど一歩一歩、踏みしめました。



幸せを信じて歩み出しました。




新しいあなたは何事にも負けません。




生き直しのあなたは



本当の強さを手に入れたのです。


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