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第十章 飛ぶ決意

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「雨降りそうだなー」

 ハヅキくんが空を見上げると、真っ黒い雨雲がすぐそこまで近づいていた。
 太陽はすっかり姿が見えなくなって、じっとりと生ぬるい空気が半袖から出た腕に絡み付いてくる。

「あー、この湿度なんとかなんねぇかなー」

 いつも汗だくで走り回っているアオイくんが、走り回る前からもうすでに額から汗を放出させている。あたしはそれを見て、斜めにかけていたショルダーバックの中からタオルを取り出して渡した。

「はい、これ使っていいよ」
「え、だって、ミナちゃんは?」
「あたしはこっちで間に合うから」

 頭からバケツで水をかぶったんじゃないかと思うくらいに汗だくのアオイくん。心配そうに遠慮するから、あたしはもう一つのタオルハンカチを取り出して見せた。

「あ、じゃあ、借りるね。ありがと」
「うん」

 笑顔で差し出すと、アオイくんはさっきまでの勢いがなくなって、サッと素早くあたしの手からタオルを取ると後ろを向いてしまった。後ろ姿から見える耳が、なんだか赤くなっているような気がする。

「あれ、なに照れてんの? アオイ」
「は?! なんも」
「へー、そう」

 ハヅキくんもアオイくんの反応に気がついて、からかうように笑っている。

「ミナ、アオイはいいやつだよー、これからも仲良くしてやってね」
「え……あ、うん」

 それは、知っているし、仲良くしたいと思っている。けど。
 ますます顔を赤くしてしまっているアオイくんを見て、なんだかあたしまで恥ずかしくなってきてしまう。
 ポツンと、鼻先に当たった雨粒。

「あ、降ってきた」

 手のひらを上へ向けて、キカくんがポンっと傘を開いた。ネイビーに赤い線の入った傘は、ランドセルとおんなじだと思った。

「キカは物持ちいいよな。その傘、一年生の時から使ってない?」
「あー、ランドセルに一緒についてきたやつ。俺はアオイみたいに振り回したり杖にしたりしたことないからな」
「振り回したりって……もうしてないし」

 心当たりがあったのか、アオイくんはハッとしてから小さく言って俯いた。

「雨強くなるかな?」

 ハヅキくんがキカくんに聞く。
 さっきキカくんの見ていた天気図によると、雨はそう長くは続かないはず。

「いや、大橋に着く頃には上がるよ」
「向こう側、空が明るいもんな」
「これは虹が期待できるんじゃない?」

 雨が降ってきているっていうのに、全然憂鬱にも、鬱陶しくも思わない。
 どうして、みんなと一緒だと、こんなにワクワクできるんだろう。不思議だけど、これが当たり前なんだ。だって、キカくんもハヅキくんも、アオイくんも、こんなに笑顔なんだもん。

 足が濡れたって少しくらい平気。雨と汗が混じってベタベタになったって、タオルで拭けばいい。
 水溜りだってスキップで避けてしまうくらいに足取りは軽やかだ。
 天気図とキカくんの発言通りに、大橋に着く頃には厚い雲の隙間から太陽の筋が現れた。
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