33 / 60
第十章 飛ぶ決意
2
しおりを挟む
「雨降りそうだなー」
ハヅキくんが空を見上げると、真っ黒い雨雲がすぐそこまで近づいていた。
太陽はすっかり姿が見えなくなって、じっとりと生ぬるい空気が半袖から出た腕に絡み付いてくる。
「あー、この湿度なんとかなんねぇかなー」
いつも汗だくで走り回っているアオイくんが、走り回る前からもうすでに額から汗を放出させている。あたしはそれを見て、斜めにかけていたショルダーバックの中からタオルを取り出して渡した。
「はい、これ使っていいよ」
「え、だって、ミナちゃんは?」
「あたしはこっちで間に合うから」
頭からバケツで水をかぶったんじゃないかと思うくらいに汗だくのアオイくん。心配そうに遠慮するから、あたしはもう一つのタオルハンカチを取り出して見せた。
「あ、じゃあ、借りるね。ありがと」
「うん」
笑顔で差し出すと、アオイくんはさっきまでの勢いがなくなって、サッと素早くあたしの手からタオルを取ると後ろを向いてしまった。後ろ姿から見える耳が、なんだか赤くなっているような気がする。
「あれ、なに照れてんの? アオイ」
「は?! なんも」
「へー、そう」
ハヅキくんもアオイくんの反応に気がついて、からかうように笑っている。
「ミナ、アオイはいいやつだよー、これからも仲良くしてやってね」
「え……あ、うん」
それは、知っているし、仲良くしたいと思っている。けど。
ますます顔を赤くしてしまっているアオイくんを見て、なんだかあたしまで恥ずかしくなってきてしまう。
ポツンと、鼻先に当たった雨粒。
「あ、降ってきた」
手のひらを上へ向けて、キカくんがポンっと傘を開いた。ネイビーに赤い線の入った傘は、ランドセルとおんなじだと思った。
「キカは物持ちいいよな。その傘、一年生の時から使ってない?」
「あー、ランドセルに一緒についてきたやつ。俺はアオイみたいに振り回したり杖にしたりしたことないからな」
「振り回したりって……もうしてないし」
心当たりがあったのか、アオイくんはハッとしてから小さく言って俯いた。
「雨強くなるかな?」
ハヅキくんがキカくんに聞く。
さっきキカくんの見ていた天気図によると、雨はそう長くは続かないはず。
「いや、大橋に着く頃には上がるよ」
「向こう側、空が明るいもんな」
「これは虹が期待できるんじゃない?」
雨が降ってきているっていうのに、全然憂鬱にも、鬱陶しくも思わない。
どうして、みんなと一緒だと、こんなにワクワクできるんだろう。不思議だけど、これが当たり前なんだ。だって、キカくんもハヅキくんも、アオイくんも、こんなに笑顔なんだもん。
足が濡れたって少しくらい平気。雨と汗が混じってベタベタになったって、タオルで拭けばいい。
水溜りだってスキップで避けてしまうくらいに足取りは軽やかだ。
天気図とキカくんの発言通りに、大橋に着く頃には厚い雲の隙間から太陽の筋が現れた。
ハヅキくんが空を見上げると、真っ黒い雨雲がすぐそこまで近づいていた。
太陽はすっかり姿が見えなくなって、じっとりと生ぬるい空気が半袖から出た腕に絡み付いてくる。
「あー、この湿度なんとかなんねぇかなー」
いつも汗だくで走り回っているアオイくんが、走り回る前からもうすでに額から汗を放出させている。あたしはそれを見て、斜めにかけていたショルダーバックの中からタオルを取り出して渡した。
「はい、これ使っていいよ」
「え、だって、ミナちゃんは?」
「あたしはこっちで間に合うから」
頭からバケツで水をかぶったんじゃないかと思うくらいに汗だくのアオイくん。心配そうに遠慮するから、あたしはもう一つのタオルハンカチを取り出して見せた。
「あ、じゃあ、借りるね。ありがと」
「うん」
笑顔で差し出すと、アオイくんはさっきまでの勢いがなくなって、サッと素早くあたしの手からタオルを取ると後ろを向いてしまった。後ろ姿から見える耳が、なんだか赤くなっているような気がする。
「あれ、なに照れてんの? アオイ」
「は?! なんも」
「へー、そう」
ハヅキくんもアオイくんの反応に気がついて、からかうように笑っている。
「ミナ、アオイはいいやつだよー、これからも仲良くしてやってね」
「え……あ、うん」
それは、知っているし、仲良くしたいと思っている。けど。
ますます顔を赤くしてしまっているアオイくんを見て、なんだかあたしまで恥ずかしくなってきてしまう。
ポツンと、鼻先に当たった雨粒。
「あ、降ってきた」
手のひらを上へ向けて、キカくんがポンっと傘を開いた。ネイビーに赤い線の入った傘は、ランドセルとおんなじだと思った。
「キカは物持ちいいよな。その傘、一年生の時から使ってない?」
「あー、ランドセルに一緒についてきたやつ。俺はアオイみたいに振り回したり杖にしたりしたことないからな」
「振り回したりって……もうしてないし」
心当たりがあったのか、アオイくんはハッとしてから小さく言って俯いた。
「雨強くなるかな?」
ハヅキくんがキカくんに聞く。
さっきキカくんの見ていた天気図によると、雨はそう長くは続かないはず。
「いや、大橋に着く頃には上がるよ」
「向こう側、空が明るいもんな」
「これは虹が期待できるんじゃない?」
雨が降ってきているっていうのに、全然憂鬱にも、鬱陶しくも思わない。
どうして、みんなと一緒だと、こんなにワクワクできるんだろう。不思議だけど、これが当たり前なんだ。だって、キカくんもハヅキくんも、アオイくんも、こんなに笑顔なんだもん。
足が濡れたって少しくらい平気。雨と汗が混じってベタベタになったって、タオルで拭けばいい。
水溜りだってスキップで避けてしまうくらいに足取りは軽やかだ。
天気図とキカくんの発言通りに、大橋に着く頃には厚い雲の隙間から太陽の筋が現れた。
12
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ぬらりひょんと私
四宮 あか
児童書・童話
私の部屋で私の漫画を私より先に読んでいるやつがいた。
俺こういうものです。
差し出されたタブレットに開かれていたのはwiki……
自己紹介、タブレットでwiki開くの?
私の部屋でくつろいでる変な奴は妖怪ぬらりひょんだったのだ。
ぬらりひょんの術を破った私は大変なことに巻き込まれた……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる