32 / 60
第十章 飛ぶ決意
1
しおりを挟む
次の日、天気は薄曇り。雨はまだ落ちてこないけれど、今にも降り出しそうな灰色の雲に傘を手にして玄関へと向かった。
「お待たせ」
玄関で座ってタブレットを眺めていたキカくんに声をかけると、手招きをされる。
そばに近づいて横からタブレットを指差すキカくんの指先を見た。
「今から雨が降るらしい。あいつら来るまでちょっと待ってようぜ」
画面の天気図にはここ周辺が赤くおおわれているのが表示されている。やっぱり降るんだ。
「うん」
キカくんの隣に座って、まだ降っていないどんよりと暗い雲が広がる空を、窓枠から見上げた。
「ミナは向こうの友達と連絡取り合ってんの?」
「……え、あ、う、うん」
うまく笑えてるかな。すぐに自分の表情に自信がなくなる。
嘘をついちゃうのはいけないことだけど、友達がいないなんて、思われたくない。
「ミナって友達多そうだよな。俺らともすぐに仲良くなれたし」
「そ、そんなこと……ないよ」
キカくんにはあたしがそんな風に見えるんだ。だったらなおさら、友達がいないなんて、言えるわけがない。
「でもさ、夏休みほぼずっとここにいるんでしょ? 友達に会いたいとか思わないの?」
「……あー、うん、まだ、平気かな」
「まじか、俺だったら帰るーって駄々こねるかも。あ、この前ミナに風呂入るの誘ったとき、母さんにお前は幼いんだよって怒られたけど、別に子供だもん、いーじゃんなぁ」
「あー、うーん、それはちょっと、困るかな」
「え!? まじ? ダメだったの?」
あたしの反応に慌てるキカくんに思わず笑ってしまう。
「あたしね、弟がいるの。もうすぐ一才の」
「へぇ、そうなんだ。小さいな」
「そう、小さくて、可愛いんだけどね、ママは弟のことしか見ていなくて、あたしが話をしていても無視なの」
「は!? 無視とか酷くね?」
あたしの方を振り向いて驚いた顔をするキカくんの反応に、「そうでしょ? そう思うよね!」と、なんだか嬉しくなる。
「あたしだってまだまだ子供だよ。いくら弟の方が小さくて可愛いからって、あたしの話を聞いてくれない理由にはならないよね」
「だな」
「あたし、こっちに来る前にママとケンカしてきたの。きっと向こうでまだ怒ってるはず。だからね、あたし帰りたいなんて思わない」
「あー、ケンカしてきたのか。それは……うーん、仲直りした方がいいんじゃないのかな」
さっきとは打って変わって、共感してもらえないことにすぐに疑問を抱いた。
「え、どうして?」
「多分、ミナのお母さんは仲直りしたいって思ってると思うんだよね」
あたしに真っ直ぐ視線を向けて、キカくんが笑う。
「俺さぁ、ケンカしたらそっこー謝るからさ。あ、もちろん俺が悪かった場合ね。だってさ、ケンカしたままだと、いつまで経っても遊べなくなるじゃん」
タブレットをカバンにしまうと、キカくんが立ち上がった。
「来たぞ」
玄関の外、並んで歩いてくるハヅキくんとアオイくんの姿に、ニッと笑って外へ飛び出して行ってしまった。
置き去りにしたカバンを、あたしは邪魔にならないように玄関の端に寄せてから、慌てて追いかけた。
「お待たせ」
玄関で座ってタブレットを眺めていたキカくんに声をかけると、手招きをされる。
そばに近づいて横からタブレットを指差すキカくんの指先を見た。
「今から雨が降るらしい。あいつら来るまでちょっと待ってようぜ」
画面の天気図にはここ周辺が赤くおおわれているのが表示されている。やっぱり降るんだ。
「うん」
キカくんの隣に座って、まだ降っていないどんよりと暗い雲が広がる空を、窓枠から見上げた。
「ミナは向こうの友達と連絡取り合ってんの?」
「……え、あ、う、うん」
うまく笑えてるかな。すぐに自分の表情に自信がなくなる。
嘘をついちゃうのはいけないことだけど、友達がいないなんて、思われたくない。
「ミナって友達多そうだよな。俺らともすぐに仲良くなれたし」
「そ、そんなこと……ないよ」
キカくんにはあたしがそんな風に見えるんだ。だったらなおさら、友達がいないなんて、言えるわけがない。
「でもさ、夏休みほぼずっとここにいるんでしょ? 友達に会いたいとか思わないの?」
「……あー、うん、まだ、平気かな」
「まじか、俺だったら帰るーって駄々こねるかも。あ、この前ミナに風呂入るの誘ったとき、母さんにお前は幼いんだよって怒られたけど、別に子供だもん、いーじゃんなぁ」
「あー、うーん、それはちょっと、困るかな」
「え!? まじ? ダメだったの?」
あたしの反応に慌てるキカくんに思わず笑ってしまう。
「あたしね、弟がいるの。もうすぐ一才の」
「へぇ、そうなんだ。小さいな」
「そう、小さくて、可愛いんだけどね、ママは弟のことしか見ていなくて、あたしが話をしていても無視なの」
「は!? 無視とか酷くね?」
あたしの方を振り向いて驚いた顔をするキカくんの反応に、「そうでしょ? そう思うよね!」と、なんだか嬉しくなる。
「あたしだってまだまだ子供だよ。いくら弟の方が小さくて可愛いからって、あたしの話を聞いてくれない理由にはならないよね」
「だな」
「あたし、こっちに来る前にママとケンカしてきたの。きっと向こうでまだ怒ってるはず。だからね、あたし帰りたいなんて思わない」
「あー、ケンカしてきたのか。それは……うーん、仲直りした方がいいんじゃないのかな」
さっきとは打って変わって、共感してもらえないことにすぐに疑問を抱いた。
「え、どうして?」
「多分、ミナのお母さんは仲直りしたいって思ってると思うんだよね」
あたしに真っ直ぐ視線を向けて、キカくんが笑う。
「俺さぁ、ケンカしたらそっこー謝るからさ。あ、もちろん俺が悪かった場合ね。だってさ、ケンカしたままだと、いつまで経っても遊べなくなるじゃん」
タブレットをカバンにしまうと、キカくんが立ち上がった。
「来たぞ」
玄関の外、並んで歩いてくるハヅキくんとアオイくんの姿に、ニッと笑って外へ飛び出して行ってしまった。
置き去りにしたカバンを、あたしは邪魔にならないように玄関の端に寄せてから、慌てて追いかけた。
13
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる