今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ

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第十章 飛ぶ決意

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 次の日、天気は薄曇り。雨はまだ落ちてこないけれど、今にも降り出しそうな灰色の雲に傘を手にして玄関へと向かった。

「お待たせ」

 玄関で座ってタブレットを眺めていたキカくんに声をかけると、手招きをされる。
 そばに近づいて横からタブレットを指差すキカくんの指先を見た。

「今から雨が降るらしい。あいつら来るまでちょっと待ってようぜ」

 画面の天気図にはここ周辺が赤くおおわれているのが表示されている。やっぱり降るんだ。

「うん」

 キカくんの隣に座って、まだ降っていないどんよりと暗い雲が広がる空を、窓枠から見上げた。

「ミナは向こうの友達と連絡取り合ってんの?」
「……え、あ、う、うん」

 うまく笑えてるかな。すぐに自分の表情に自信がなくなる。
 嘘をついちゃうのはいけないことだけど、友達がいないなんて、思われたくない。

「ミナって友達多そうだよな。俺らともすぐに仲良くなれたし」
「そ、そんなこと……ないよ」

 キカくんにはあたしがそんな風に見えるんだ。だったらなおさら、友達がいないなんて、言えるわけがない。

「でもさ、夏休みほぼずっとここにいるんでしょ? 友達に会いたいとか思わないの?」
「……あー、うん、まだ、平気かな」
「まじか、俺だったら帰るーって駄々こねるかも。あ、この前ミナに風呂入るの誘ったとき、母さんにお前は幼いんだよって怒られたけど、別に子供だもん、いーじゃんなぁ」
「あー、うーん、それはちょっと、困るかな」
「え!? まじ? ダメだったの?」

 あたしの反応に慌てるキカくんに思わず笑ってしまう。

「あたしね、弟がいるの。もうすぐ一才の」
「へぇ、そうなんだ。小さいな」
「そう、小さくて、可愛いんだけどね、ママは弟のことしか見ていなくて、あたしが話をしていても無視なの」
「は!? 無視とか酷くね?」

 あたしの方を振り向いて驚いた顔をするキカくんの反応に、「そうでしょ? そう思うよね!」と、なんだか嬉しくなる。

「あたしだってまだまだ子供だよ。いくら弟の方が小さくて可愛いからって、あたしの話を聞いてくれない理由にはならないよね」
「だな」
「あたし、こっちに来る前にママとケンカしてきたの。きっと向こうでまだ怒ってるはず。だからね、あたし帰りたいなんて思わない」
「あー、ケンカしてきたのか。それは……うーん、仲直りした方がいいんじゃないのかな」

 さっきとは打って変わって、共感してもらえないことにすぐに疑問を抱いた。

「え、どうして?」
「多分、ミナのお母さんは仲直りしたいって思ってると思うんだよね」

 あたしに真っ直ぐ視線を向けて、キカくんが笑う。

「俺さぁ、ケンカしたらそっこー謝るからさ。あ、もちろん俺が悪かった場合ね。だってさ、ケンカしたままだと、いつまで経っても遊べなくなるじゃん」

 タブレットをカバンにしまうと、キカくんが立ち上がった。

「来たぞ」

 玄関の外、並んで歩いてくるハヅキくんとアオイくんの姿に、ニッと笑って外へ飛び出して行ってしまった。
 置き去りにしたカバンを、あたしは邪魔にならないように玄関の端に寄せてから、慌てて追いかけた。
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