社内で秘密の恋が始まる

美桜羅

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俺は、何か物を綺麗に揃えたり一つのものを集めたりすることにはあまり価値を見出せない。

どちらかというと、デザインやブランドなどは関係なくあくまで使いやすさに対して価値を求めるたちだ。

比較的外食もあまりしないが、その中で頻繁に利用しているこのレストランはお世辞にもリーズナブルとは言えないがその分料理の味やスタッフの対応にはいつも感心させられる。

この店は雑誌などにも掲載されているのでいつ来ても程々の客が店内にいるのだが、一人で入っても他人の目など気にしなくてもいい設計になっているのでとても使いやすい。

目の前に座る立石さんは自らに緊張していますというような顔でメニューを見ていた。

しかしその目は本当にメニューに書かれている字を読んでいるのだろうかといいたくなるように忙しなく動いている。

「…立石さん」

俺がそう声をかけると、ようやく俺の視線に気づいたようではっと顔を上げた。

「何にするか、決まった?」

「…い、いや、あの、その…」

彼女は少しずつ顔を赤くして、何かを言いにくそうにモジモジとしている。

なんだ。
何が言いたい。

「…どうしたの」

俺がそういうと彼女は意を決したように深呼吸してからいった。

「あの、私、今日手持ちのお金がなくて…」

…?

予想外の言葉だった。
最初からこの店に誘った時から彼女に払わせる気は無かったし、何よりそんな女は初めてだった。

「いや、君はそんなことを気にしなくていい。
好きなものを食べればいい。」

「でも、申し訳ないので本当に大丈夫です!
チョコレートを渡したのも本当にただの軽い気持ちで、だから…っそ、それにこんなお高い料理食べてもその価値がわからないかもしれないっていうか…」

その価値がわからないかもしれない

そこで俺は思わず少し笑ってしまい、
「ちょ、っと落ち着いて…」
といった。

するとようやく彼女はそこで言葉を止めて、すみませんと謝った。

「…立石さんは、こういうお店あまり興味はないの?」

「きょ、興味?」

「例えば、値段のはる料理食べてみたいとか一回入ってみたいとか。
女性なら誰でもそう思うんじゃないのか。」

ゆっくりと俺がそう聞くと彼女は少し悩んだような顔を見せてから、
「…いや、思ったことない…です…。
私、そんなに上手いわけではないんですけど料理するのが好きで…家にいるのも好きだから仕事が終わると真っ先に家に帰って…こういうお店がどこにあるのかも知らないので…」
と言った。

「そう。
それなら余計なことしたね」

すると彼女は慌てたように顔の前で手を振りながら言った。

「そ、そんなことないです!
松永さんの気持ちは十分嬉しかったですし…」

「…それならやっぱり君は好きなものを食べればいい。
余計なことは考えなくていい。」

「で、でも…」

あくまでそう言い続ける彼女に俺は、
「じゃあ今度、君のお弁当が食べたい。今日はそのお弁当代の前払いもお礼と一緒に含めよう。」

「…え!!いや、でも本当に大したものは「楽しみにしてる」

俺がそういうと彼女はまたモゴモゴと口を動かしてからわかりました、と静かに言った。
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