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第二部 王国奪還

サウス・スターアイランド事変ーその④

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「ギベェェェェェェェェ~~!!」
トロールは左頬と左目に銃弾を喰らい、その場に倒れる。
「騙しやがったな、この女ッ!」
トロールはすぐに立ち直ろうとするが、中々起き上がろうとしない。余程銃のダメージが大きかったのだろう。
「脚に当たった時は何ともなかったのに……どうしてだ?」
マイケルの質問は最もだ。実際誰でも思うだろう。
だが、ルーシーは銃が聞いた理由を簡単に説明する。
「それはね、銃をね、左目に当てたからなのよ、目は急所の一つよ、脳や心臓と同じくらい人間が喰らうと痛い場所なの」
ルーシーは自分のベレッタ拳銃の銃身を触りながら言った。
「スゲえよ……だから、あんたはあんな手に乗ったのか……」
マイケルは感嘆の声を上げている。
「わたしはできる限りは交渉するのだけれど、アイツに関しては最初から無理な要求ばかり、だから話すよりも撃った方が早いと考えたの……父もアル・カポネの使者を撃った時にそう答えんたんですって」
ルーシーが父親の例を出すと、全員が安堵のため息を吐く。
だが、それに納得していないのは、トロールだった。
左目を奪われた彼の怒りはまさに般若そのものと言っても過言ではない。
「クソッタレがッ!よくもよくも……オレにこんな真似をッ!ぶち殺してやるぜッ!」
トロールは棍棒を振り上げる。
「マズイわね……と言うとでも思ったの?」
トロールはルーシーの言葉に反応し、咄嗟に背後を振り返る。
そこにはヴィトが剣を構えて突っ込んできていた。
「なっ、どうしてお前がッ!?」
「お前に説明する義理はないッ!」
ヴィトの予想外のスピードにトロールは反応できずにそのまま黄金の剣に切り裂かれ、爆発する。
「ヴィト !大丈夫だった!?」
マリアはヴィトに駆け込み、抱きつく。
「大丈夫さ、キミにはどうして無事なのかを説明する義務があるからな……」
ヴィトはマリアに説明を始める。
「まず、オレはさっき落ちるのと同時に防御魔法ガード・マジックを使い、衝撃を和らげた……それから、機会を伺っていたのさ……最もドン・カヴァリエーレには分かっていたらしいがな」
ヴィトはルーシーに目をやる。
「そうよ、あなたがあんな事で倒されるなんて信じられなかったもの……何かあるんじゃないかと思って、話を引き延ばして、それからあいつに重傷を負わせたの」
ルーシーはそう言うとヴィトに目配せする。
「ふぅ、ビックリさせないでよね、でも、あなたが無事で良かった」
マリアは更に抱擁を強める。
「おいおい、よせよ……ファミリーのみんなが見てるのに照れくさいよ」
ヴィトは今更ながらだなと思いながら、頭をかく。
「ドン・カヴァリエーレ……いいんですか?」
「いいのよ、あれで」
マイケルの質問にルーシーは苦笑しながら二人を見つめる。

その後に一行は駅から出て、ハリーが立て籠もっているアパートへと向かう。
「ったく、どこもかしこも荒れ放題だ。マーニーの奴らめカタギにも手を出したのか」
忌々しげに吐き捨てたのは、マルロだった。
「いいや、マーニーだけなら、ハリーはオレらをここサウス・スターアイランドには呼ばないぜ、ハリーがオレらを呼んだのは、マーニーの奴ら以上の脅威を感じたからだろうな」
ヴィトの説明にマルロはうーんと唸る。
「つまり、ルカとかトーマスみてえなあんたの言う異世界の奴らとマーニーの残党が手を組んだというのか?」
「そうだよ、そうでもなければ、行く前にあんなに銃を運べとは言わん」
ヴィトの説明にマルロは納得したようであった。
「よく、来てくれました !ドン・カヴァリエーレに相談役コンシリエーレに、マリア !」
ハリーは笑顔で出迎えたが、それはプイスの顔は少し不機嫌そうだった。
「まぁまぁ、とにかくここで作戦会議でも立てましょうよ」
ハリーは部屋の中にヴィトとルーシーとマリアとプイスを入れ、他のメンバーは余っているアパートの部屋に待機するように言った。
「早速だが、この戦況を打開するにはどうしたらいいと思う?」
ヴィトはテーブルの上にきちんと全てコーヒーと紅茶が並べられたのを確認すると、話を切り出す。
「私に聞いているんですか?この戦況を打開するには、やはり全ての黒幕を倒すしかありませんよ、そのためにはルカの奴を殺した時みたいに一人一人着実に殺し、尚且つビジネスを全て奪っていくのが、ベストだと思われますが……」
ハリーの提案にヴィトは賛同しかねた。ヴィトは抗議の声を上げるために右腕を宙に挙げてみる。この方法は学生の頃から変わらない、意思表明の仕方であった。
ヴィトの右腕に気がついたのか、ハリーがヴィトを指名する。
「おれとしてはこの方法に賛同しかねるな、FBIの奴らの介入を招けば最悪だ……例えこの街にいるマリアの従兄弟とマーニー・ファミリーの奴らを壊滅させたしても、この街をオレたちの縄張りシマにできるかは分からないからな」
ヴィトの意見にハリーは肩を落とす。
「じゃあ、どうすれば?」
ハリーの問いかけに答える代わりにヴィトは紙とペンを要求した。それから、用意された真っ白な用紙にボールペンで何やら記入していく。
「それは?」
「この街を支配している連中の実態さ、おれ達の敵はマーニー・ファミリーとそれに手を貸しているマリアの従兄弟、つまり現在のフランソワ王国の勢力だ。数の上では恐らく奴らの方が圧倒的に上だ……だが、それでもやれる方法はある」
ヴィトの言葉には説得力があった。全員の視線がヴィトの端正な顔に向けられた。
「オレが言いたいのはな、敵の大将を討てば、相手の軍を直ぐに倒れると言いたいんだ。日本の戦国時代にしろ、中国の三国時代や春夏戦国時代にしろ、敵の大将を討てば、相手の軍は崩壊する。つまり、マーニー・ファミリーの現首領ドンとフランソワ王国の現女王エリザベス・ド・フランソワを討てば、オレ達に勝機が出てくる。しかもFBIやアメリカ政府の介入なしでだ……」
この言葉に他のメンバーは納得する表情を浮かべていたが、唯一ルーシーだけは納得できないようだ。
「何か質問でも?」
「一つあるわ、過去に誰も相手の大将を暗殺して勝利を収めたなんて例はないわ、古代中国の秦の始皇帝を暗殺しようとした燕王は失敗しているし、ナポレオンと戦った優秀なネルソン提督も戦いの途中に流れ弾に当たって死んだけど、イギリスはナポレオンに侵略されていないままだったわ、日本の天草島原の乱にしたって、総大将の板倉重昌は死亡してるけど、その後に一揆軍は全滅してるわ、その件についてはどう考えてるの?」
その問いに対するヴィトの答えは鮮やかなものであった。
「大丈夫さ、昔日本では忍者という存在があったが、忍者は相手方の殿様を暗殺するなどが任務だったそうだ。それに暗殺で歴史が動いたケースだってあるオーストリア皇太子の暗殺が確か、第一次世界大戦を引き起こしたんだよな?なら、暗殺でも歴史は動かせるといういい例だと思うぜ」
ヴィトの答えにルーシーは黙ってしまう。反論しようにもできないからだ。
ヴィトは全員を安心させるために一つの言葉を言い放つ。
「キミらの焦りは無理もないが、問題解決の手立てはキチリとある。それは、夜襲さ……丁度夜になるな」
ルーシーは慌ててアパートにかけてある時計を見る。時刻はちょうど午後七時であった。
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