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第二部 王国奪還

サウス・スターアイランド事変ーその③

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「くっ、私がそれくらいで終わると思うなよ、平民ッ!」
隊長の男は何やら呟き始めると、彼は全身を醜い怪物へと変えた。いや、この怪物は姿形からトロールと名付けるべきなのだろうか。
「ふっ、ふっ、言っておくがオレの魔法は強力だぞ、お前なんかに簡単に倒されるわけがないんだッ!」
男は木の棍棒を何処からか、召喚し、ヴィトの頭に振り下ろそうとする。
だが、ヴィトは男の側から離れ、間一髪のところで難を逃れる。
「危なかったな、あいつにこれ以上好き放題させりゃあ、この駅がぶっ壊れちまうよ……」
ヴィトは自分より三階建の駅より少し低いくらいの醜い怪物を見上げながら、ヴィトは対処法を考えた。
(参ったな、野郎の弱点は何なんだ……アイツの脚でも攻撃してみるか?)
だが、ヴィトはその考察をすぐに引っ込めた。何故なら、彼の脚に剣を刺した瞬間に自分が彼の脚に吹き飛ばされる事を理解したからだ。
「ふん、お前も諦めが悪いなぁ……とっとと、お仲間と一緒に降伏すれば、オレは女王陛下に命乞いを頼んでもやってもいいぜ、女王陛下はマリア・ド・フランソワ旧国王陛下の首をのみを欲しがっているんだからなッ!」
隊長はいや、トロールはヴィトを見下ろしながら大きな声で叫ぶ。
「一つだけ言っておこう、バケモノ……オレはお前らにマリアとルーシーやファミリーを売り渡すくらいなら、ここで死んだ方がマシだと言っているんだぜッ!」
ヴィトは剣の矛先を自分よりも遥かに大きいトロールに向ける。
「へん、あくまでもオレと戦うというわけか……なら、オレの怖さをよく知るといいさッ!」
そう言うと、トロールはあちこちに脚を振り下ろし、地震を起こす。この攻撃にファミリーも損害を喰らっているだろう。ヴィトは唇を噛み締めた。
が、同時にいや、それ以上の損害を被ったのは彼の部下であった。
「隊長やめてください !オレらは部隊ですよ !!」
「お願いです !この攻撃を止めてください !!」
部下たちは次々と抗議の声を上げるものの、トロールは止めようともせずにひたすら地震を起こしている。
「やめろって言ってんだよ、このブタヤローがッ!」
マイケルはトロール目掛けて銃を発砲したが、トロールは意に返していないようで、平気な顔をしている。でも、銃が発砲されたのは駅構内に響き渡る轟音で分かっただろう。ただちに彼は標的をヴィトから、マイケルへと変更した。
彼は無言で木の棍棒をマイケルとファミリーが固まっている方向に振り下ろす。
「マズイッ!」
ヴィトはトロールの顔に目掛けて咄嗟に銃を発砲した。
だが、トロールは棍棒を止めようとしない。
「くっ、どうすればいい……」
ヴィトはジャンプをして飛びかかろうとしたが、届いても彼に攻撃が当たる確証はなかった。彼の体は頑丈そうだったし、何より彼との間には絶望的なまでの高さがそびえていた。
そんな時だった。ファミリーの周りを強烈な風が覆った上に雷が何処からか生成され、トロールへと向かう。
「ギゲャァァァォァォァ~!」
奇天烈な悲鳴を上げ、トロールは脚を抑える。ヴィトが固まっているファミリーの方を見ると、そこにはプイスとマリアが魔法を使っている姿が見えた。
(一先ず安心だな、あとはオレはこの怪物を何とか片付けるだけだッ!)
ヴィトは勇気を振り絞り、剣を構えてトロールに向かって突っ込む。
「これでも喰らいやがれッ!」
ヴィトの握っている剣の矛先はキチリとトロールの心臓を狙っていた。トロールは咄嗟のことだと思ったのか、木の棍棒をヴィトの目の前にやる。
巨大な木の棍棒と伝説の剣がぶつかり合う。
「野郎……どんだけデカブツなんだよッ!デカさといい、武器といい、腕力といい、今までとは桁違いだぜッ!」
ヴィトは剣を握る手の力を強めるが、トロールはまだまだ余裕があるという表情を浮かべていた。
(何を考えている……)
ヴィトは一瞬トロールは何かとんでもない秘策を用意しているのかと疑ったが、そんな心配は無用だとすぐに思い出された。
最もそれは別の心配の表れでもあったが。
(力をッ!力を強くしているッ!木の棍棒を握る手を……ッ!)
冗談ではない。このまま握る力が強くなれば、元々重い手の重さと棍棒の重さの上に更に重圧がのし掛かるという最悪の事態になってしまう。いや、もうそうなっている。
「どうだ?お前が悪いんだ……オレを見くびるからよぉ~お前が悪いんだ……大人しくマリアをオレらに引き渡せば、良かったのに、意地はってるから、お前は死ぬことになるんだよ !」
トロールの握る木の棍棒が更に重くなる。マズイ……これ以上重くなられては……。
「お前は今こう考えているだろ?と……そうだよ、オレの目的はそれさッ!」
トロールの顔は満面の笑みを浮かべていた。これから先まだまだ重さが増えるだろう。
ぜッ!」
ヴィトは浮遊魔法スカイアップ・マジックを使って、空中に踏ん張ったが、それも限界に近い。
(オレの指が長い間ペンを動かしている時みてえに痺れてやるがる……それだけ、オレの手に負担がのしかかっているんだ)
ヴィトは冷や汗を垂らす。
「お前もそろそろ限界なんだろ?なら、よッ!」
トロールの渾身の一撃がのしかかる。ヴィトは地面に重圧に叩きつけられた。
「ふん、死んだか……」
トロールはヴィトを見下ろしながら、残ったファミリーの構成員に向かって叫ぶ。
「お前ら、オレはこれ以上の流血を望まんッ!お前らには全面降伏をお勧めするぜッ!サッサとマリアを渡せば、オレたちはお前らを見逃してやるッ!」
その声に応えたのはルーシーだった。
「本当に……本当に……そうすれば、わたし達を逃がしてくれるの?」
「そうだよ」
トロールの声には確かな自信があった。
「本当に命だけは助けてくれるのよね?」
「そうだよ、だからそのためにマリアを寄越せと言っているんだッ!」
今度のトロールの声はキツかった。
「でもね、残念ながらお断りさせてもらうわ……わたし達は仁義に外れたことはしないのよッ!」
ルーシーはトロールの頭に銃を発砲した。
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