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長かった脳内会議
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俺が会議を終え、顔を上げると、とっくの昔に教師は帰っていたらしかった。
それに、空も綺麗なオレンジ色に染まっている。どうやら、今日の授業は終わったらしい。
脳内会議はいい暇潰しだ。俺は興味のない授業から解き放たれた喜びからか、ルンルンと鼻歌を歌っていると、突然、オリビア嬢に声を掛けられた。
「ねぇ、グレースさん。あなた、授業に身が入っていなかったわね。ずっーと何かを考えている風だったけど、何かあったの?」
「ええ、ごめんなさい。少し、身が入っていなかったわね。オッーホホホ」
と、この場を誤魔化すために、これまた悪役令嬢らしい高笑いをしてみせる。腰をくねらせ、手でアイーンというポーズまでしている様は滑稽だっただろう。
だが、オリビア嬢は訝しげに俺を眺めていた。
あぁ、視線が痛い。頼むから、その鋭い両目で俺を睨むのはやめてくれ。
俺が足早にその場を去ろうとした時だ。背後から声を掛けられて、半ば強制的に足を止められてしまう。
「やぁ、ミス・ベンフォール。こんな所で奇遇ですね」
「あ、あらぁ、サミュエル殿下ァ、御機嫌麗しゅうございますぅ~ところで、何の御用でございますかぁ~?」
「いえいえ、偶然、婚約者と話すキミの姿を見たものですから。つい、声をかけたくなりましてねぇ。それにしても、オリビア。キミはミス・ベンフォールとなにをしていたんです?」
サミュエル王子の問いに口籠るオリビア。
だが、王子の追及がフェイクである事を俺はよーく知っている。これは、悪役令嬢が虐めていると見せかけて、その実は裏で偽装工作をする性悪ヒロインを見定めるシーンなのだ。だから、
(嘘だッ!)
と、俺の頭の中でかぁいいものが好きなオレンジに近い髪色をしたボブショートの女の子がサミュエル王子に向かって叫ぶのだ。
その証拠にサミュエル王子がオリビア嬢を問いただす横で、チラチラと俺の方を見ている事が分かる。
全く鬱陶しい。
そんなに見たけりゃ、見せてやろうか。俺だって頑張れば、特撮ヒーローに変身できるだろう。
魔法が存在する設定の乙女ゲームの世界だから、多分、魔法でヒーローにくらい変身できるだろう。
俺がそんなくだらない事を考えていると、サミュエルは突然、話を振ってきて、
「あなたもそう思いますよね?」
と、同意を求めてきた。表向きは険しい視線であるが、その目の奥から透けて見える。こいつの真意が。
そう笑みだ。俺が余計な事をして、断罪の時の材料を増やせるという邪悪な笑みだ。
ここで同意すれば大変な事になるだろう。だから、俺はこう言った。
「い、いいえ、私は別にそうは思いませんわ」と。
だが、視線を逸らして言ったので、王子には不自然に思われたかもしれない。
その証拠に王子の瞳の奥から見えた笑みは完全に消失していた。
その目は失望のそれだ。これ以上、何かイベントがあっても困るので、俺は不自然な高笑いで誤魔化しながらその場を去っていく。
少なくとも、断罪の時にこの件でこれ以上追及される事はないだろう。
俺は二人から遠く離れた廊下で一人、安堵の溜息を吐く。
それに、空も綺麗なオレンジ色に染まっている。どうやら、今日の授業は終わったらしい。
脳内会議はいい暇潰しだ。俺は興味のない授業から解き放たれた喜びからか、ルンルンと鼻歌を歌っていると、突然、オリビア嬢に声を掛けられた。
「ねぇ、グレースさん。あなた、授業に身が入っていなかったわね。ずっーと何かを考えている風だったけど、何かあったの?」
「ええ、ごめんなさい。少し、身が入っていなかったわね。オッーホホホ」
と、この場を誤魔化すために、これまた悪役令嬢らしい高笑いをしてみせる。腰をくねらせ、手でアイーンというポーズまでしている様は滑稽だっただろう。
だが、オリビア嬢は訝しげに俺を眺めていた。
あぁ、視線が痛い。頼むから、その鋭い両目で俺を睨むのはやめてくれ。
俺が足早にその場を去ろうとした時だ。背後から声を掛けられて、半ば強制的に足を止められてしまう。
「やぁ、ミス・ベンフォール。こんな所で奇遇ですね」
「あ、あらぁ、サミュエル殿下ァ、御機嫌麗しゅうございますぅ~ところで、何の御用でございますかぁ~?」
「いえいえ、偶然、婚約者と話すキミの姿を見たものですから。つい、声をかけたくなりましてねぇ。それにしても、オリビア。キミはミス・ベンフォールとなにをしていたんです?」
サミュエル王子の問いに口籠るオリビア。
だが、王子の追及がフェイクである事を俺はよーく知っている。これは、悪役令嬢が虐めていると見せかけて、その実は裏で偽装工作をする性悪ヒロインを見定めるシーンなのだ。だから、
(嘘だッ!)
と、俺の頭の中でかぁいいものが好きなオレンジに近い髪色をしたボブショートの女の子がサミュエル王子に向かって叫ぶのだ。
その証拠にサミュエル王子がオリビア嬢を問いただす横で、チラチラと俺の方を見ている事が分かる。
全く鬱陶しい。
そんなに見たけりゃ、見せてやろうか。俺だって頑張れば、特撮ヒーローに変身できるだろう。
魔法が存在する設定の乙女ゲームの世界だから、多分、魔法でヒーローにくらい変身できるだろう。
俺がそんなくだらない事を考えていると、サミュエルは突然、話を振ってきて、
「あなたもそう思いますよね?」
と、同意を求めてきた。表向きは険しい視線であるが、その目の奥から透けて見える。こいつの真意が。
そう笑みだ。俺が余計な事をして、断罪の時の材料を増やせるという邪悪な笑みだ。
ここで同意すれば大変な事になるだろう。だから、俺はこう言った。
「い、いいえ、私は別にそうは思いませんわ」と。
だが、視線を逸らして言ったので、王子には不自然に思われたかもしれない。
その証拠に王子の瞳の奥から見えた笑みは完全に消失していた。
その目は失望のそれだ。これ以上、何かイベントがあっても困るので、俺は不自然な高笑いで誤魔化しながらその場を去っていく。
少なくとも、断罪の時にこの件でこれ以上追及される事はないだろう。
俺は二人から遠く離れた廊下で一人、安堵の溜息を吐く。
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