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仁義なき追求!〜悪役令嬢代理闘争編〜

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「サユース、ニュルシームィィィ~リースプブリク~スヴァボードヌィフ」
俺は半ば無意識のうちに家の庭のテーブルの上で、ソビエト国歌を歌っていたらしい。いけない、この世界ではソビエトなど存在しないのだから、気を付けなければ。
俺が愛想笑いを浮かべて、流行りの宝石の話でもしようと彼女に話し掛けようとした時だ。なんと、彼女は予想外の反応に出た。
漫画に登場するヒロインの取り巻きに値する子爵令嬢であり、今世での俺の友人、ロージー・アントワークスはあろう事か、持っていた紅茶のカップを落として暫く、俺を放心した様子で眺めていた。
だが、すぐに目を輝かせて、お茶会のために紅茶を持っていた俺の手を強く掴んで、
「そ、それってソビエト国歌ですよね!?どうして、あなたが!?」
「え、ロージー様、ソビエト国歌をご存知なのですか!?」
その後に、俺は彼女が俺と同じ転生者という事を知り、久しく飢えていた世界史界枠の話題を話していく。
時々、俺が確認のために、問題を出しながら。彼女は人差し指を立てて、最後の問題に意気揚々とした態度で答える。
「美大落ちおじさんですね!」
「そうそう!!それでいて、そのおじさんを倒すために連合国軍が行った史上最大の作戦は!?」
「ノルマンディー上陸作戦!」
「そう、正解!」
結局、その日、俺たち二人は空の端に茜色が染まるまで話し続けていた。
一方で、使用人の方々からは俺が余程、子爵令嬢と気が合ったのだと思われたのだろう。
特に、狸のように太った親父は子爵令嬢を舐め回す様に眺めた後に、彼女に宝石を与える。
小石ほどに大きい紫色の宝石を贈られた彼女は困惑した顔を浮かべながら、それを受け取る。
だが、その前に一言、親父よ。その宝石を買う金は何処で手に入れた。あの宝石は王家やそれに連なる華麗なる一族の方々が買うもので、我々のような爵位の端にある人間には買えん物だと思うのだが。
そんな事を問い詰めると、親父は気まずそうに目を逸らし、空咳を何度か行うと、部屋へと戻っていく。
俺は両腕を組みながら、親父の頭の悪さに呆れる。
弾劾された時はどうして誤魔化そう。そうだ、インディジョーン○のみたいに辺境の奥地で美大落ちおじさんの部下もしくはソビエト連邦のサーベルのおねーさんと戦い抜いて、勝った親父が辺境の神から褒美として、手に入れたものなんていいな。
きっと、サミュエル王子もニコニコとした顔で聞いてくれる筈……。
いや、ふざけてる場合ではないな。直ぐにでもこんな事は辞めさせないと、俺も親父も破滅だ。
『あんなんでも親父じゃけぇ』と某ヤクザ映画の主人公の台詞を心の中で吐いてから、階段を登り、親父の部屋へと着いていく。
親父の後を付けながら、俺は辺りを見渡していく。この世界に産まれてから、15年を過ごしている我が家だが、こうして改めて見ると、中々に広いものだ。
公園が五つほど、すっぽりと収まる程の広い庭に、祖先から受け継がれてきたという大きな二階建ての館。
館の玄関をくぐれば、2階の部屋に行くための煌びやかな階段。
階段はそれは、それは恐らく親父が公金を横領して拵えた装飾やらがゴテゴテと付けられている。
二階には俺の部屋だけではなく、親父と御福の部屋がある。俺は前世でも一人っ子だったが、今世でも一人っ子であったらしく、両親からは基本、甘やかされて育っている。それこそ、俺の記憶が正しければ、『蝶よ、花よ』と言う程に。
と、そんな事を考えていると、親父が部屋に到着したらしい。
趣味の悪いライオンの取手の付いた扉を開ける。同時に、俺も部屋の中に入り込む。
困惑する親父を他所に、俺は先程のヤクザ映画のテンションで話を始めていく。
「のぅ、親父ぃ、あんたに話があるんじゃが」
「ど、どうしたんだ、そんな怖い顔して、それになんだ、その変な喋り方?」
親父はあたふたとして様子で尋ねる。当然だろう。愛娘が突然、柄の悪い口調で、聞いた事もない様な言葉で口を開いたのだから。
だが、俺はそんな親父の意思など無視して話を進めていく。不正の話を進めるたびに、狸の様な顔をした丸い親父はその顔を青く染めていく。
そして、恐怖を感じ、出て行こうとするのを防ぐために、俺は黙って扉を勢い良く閉める。そして、俺は渾身の気持ちを込めて、机を叩いて叫ぶ。
「のぅ、親父!おどりゃ、最初からワシらが担いどる神輿とちゃうのか!?神輿が勝手に歩けるんなら、歩いてみぃや!ワシらの言う通りにしといてくれたら、ワシらも黙って担ぐわ!のぅ、親父。お前の不正に目を瞑ってくれるほど、王家はそんな甘うないんじゃぞ!」
と、一度言ってみたかった、某ヤクザ映画の主人公の台詞を叫ぶ。案の定、親父は肝を冷やしたらしい。
その後に俺はトドメとばかりに親父に公金横領の書類を突き付ける。たちまちのうちに親父の顔が病気の様に青く染まっていく。
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