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三神官編

ブレード国王誕生の道

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「それって正気なの?」

「正気も正気、超正気ですよ」

私は得意げな顔を浮かべて言った。

「確かに、反発している人は多いし、貴族の中でもあの女王を快く思っていない人は多いけどさ。それでも殺すのはよくないよ」

「勘違いしないで……私はブレードを国王にするとしか言ってないよ」

「それって?」

「国王の首をすげ替えるってだけの話……マリアも『神の大粛清』を控えている身としてはあんな女王に統治されているよりもブレードに統治されてる方がいいでしょ?」

マリアは私の問い掛けに黙って首を縦に動かす。

「善は急げっていう言葉の通り、早く行ったほうがいいよ」

「そうだね。ブレードはとおさんと一緒に地下の方で監禁されているはずだよ」

「わかった。地下だね」

私は地下に向かう準備を行う。というのも、地下に行くまでの道のりには大勢の見張りが付いているからだ。
マリアの計らいで面頬の付いた顔全体を隠せる兜とこの城の兵士が身に付ける鎧を貸してもらえることになった私は全身装備の兵士を装って地下へと降りていくのだった。

武器の文化が中世ヨーロッパに近かったことに感謝しながら私は城の地下牢へとの階段を降りていく。地下へと繋がる大きな石造りの螺旋階段である。
階段を降りたすぐ後には見張りの兵士が退屈な表情で壁を眺めていた。
余程、暇であるのだろう。そんなことを考えながら私は兵士の監視ともいえない監視を突破し、地下牢へと辿り着いたのである。

地下牢はその文字通り大勢の囚人が繋がれていた。私が謁見の間へと連れて行かれる際には観察する余裕がなかったのでこうして改めて見てみると、大勢の人間が繋がれているものである。
しかし、それらの人間は老若男女問わず暗い顔をしていた。希望を全て奪い取られたような、絶望という文字を顔にくっ付けられたかのような暗い表情であった。

私は牢に繋がれた人々の中から懸命にノーブとブレードの二人を探した。
ノーブも殺されていないことは不幸中の幸いであった。もし、ノーブが殺されていたのならばブレードを王位に就けるのは難儀したであろう。

ノーブは元は王族であり、その権利を有しているのだが、ブレードは産まれた時は平民であったので復帰の権利は有していない。
すなわち、穏便に彼を王位に就けるためにはノーブの生存が不可欠であったのだ。

私が胸を撫で下ろしながら二人が閉じ込められている牢屋を探していると、やたら豪華な食事を運ぶ兵士の姿が見えた。
私にとって幸運であったのはこの時に他の囚人と思われる粗末な食事が見えたことにあるだろう。
この豪華な食事は恐らくブレードのものだろう。閉じ込められているものの、天使たちとの戦争では役に立つブレードに食事だけはマシなものをご馳走しよという計らいなのだ。

もちろん、これは私の考えは推測に過ぎない。そのため豪華な食事を運ぶ兵士の後をつける必要があった。
兵士の後をつけると、そこには両手と両足を鎖に縛られたブレードの姿が見えた。

ブレードとまた話せる。ブレードにまた笑顔を向けてもらえる。そう考えただけで私は視界が滲む。
涙を拭けないのが面頬付きの兜の欠点であった。今すぐにでも話しかけたかったのだが、今はまだ食事を運んでいる兵士がいるので牢の外で待つ他にない。

私は牢の外で用事が終わるのを待ち、兵士が空のお盆を下げて牢屋が出るのと入れ違いに牢屋に入っていく。
その際に牢屋の鍵を受け取る。私が牢屋の鍵を閉めて然るべき場所に戻しておくと、説得すれば兵士は喜んで鍵を渡してくれた。

より間近で見るブレードの姿は酷く痩せ細っているように見えた。
上半身が服を纏っていないためか、痩せ具合が私にまじまじと伝わってくる。
そればかりではない。彼の体には多くの傷が付いている。
戦いで喰らった傷であるのか、はたまた兵士たちによる虐待によってついた傷であるのかはわからない。

いずれにしろブレードが酷い目に遭っているのかは明白である。
私が心配してブレードの元へと近付こうとした時だ。ブレードが両目を大きく見開いて、私を憎悪に満ちた視線で睨む。

「なんだ……ぼくを笑いにきたのか?」

「違うよ。ブレード。私の顔に見覚えはない?」

「女王の犬と顔馴染みになった覚えはないな。さっさと消えてくれ」

「ブレード。これでも私の顔に見覚えはないっていうの?」

私はそう言って兜の面頬を外して自らの顔を見せた。

「は、ハルなのか?」

「うん、そうだよ!ブレード!久し振り!」

ブレードはしばらくは信じられないと言わんばかりに目を丸くしていた。
だが、次第ににこやかな笑顔を浮かべて私に話し掛けた。

「久し振りだね。ハル」

「ありがとう!ブレード!」

涙を流しながらわたしは牢屋に拘束されたブレードに飛び付く。
ブレードは困惑しつつも私を受け入れてくれた。両手が鎖で縛られているために抱き返すことは不可能であったが、その体からは彼の温もりが伝わってきた。

私は抱擁を終えると、ブレードに自らの考えを話していく。
全てを聞き終わったブレードは神妙な顔を浮かべ、私に視線を合わせながら言った。

「キミの覚悟はわかった。だが、どうやって女王の支配を終わらせるつもりだい?」

「決まっているでしょ!今度の出撃の際にーー」

「む、無茶だッ!絶対に途中で見つかるぞ!」

ブレードは声を荒げたが、私は構うことなく話を続けていく。

「平気、平気、女王による支配の不当性を主張すればきっと王都の人たちも納得するよ」

「わかった。キミの作戦に命を賭けようじゃあないか……でも、失敗すればぼくやキミの命はともかく、父や仲間の命が危うい。そのことについてはどうするつもりだい?」

「ご安心を、私絶対に失敗しませんから」

私は可愛らしくウィンクをしてみせた。その姿を見てブレードは大きな溜息を吐いたが、やはり、また寛大な笑顔を浮かべてくれた。
去る間際、ブレードは真剣な顔を浮かべながら私に問い掛けた。

「じゃあ、決行は次の討伐戦の時だね?」

「うん。その時にまたよろしくね」

私はブレードに手を振って、ブレードと別れた。
その後にノーブの檻に入り、ノーブに計画のことを告げた。
ノーブは私の計画を知った際に大いに驚いた。反対さえしていた。

だが、私は懸命にノーブを説き伏せ、彼を説得してこのクーデターに参加することを容認させたのである。
これで中心人物の説得は完了した。残るは討伐隊の仲間たちだけである。

私は意気込みながら地上へと続く階段を上がっていくのだった。
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