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白き翼の勇者は初陣す
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「敵の数はおよそ、十数体!!恐るるに足らずッ!進めッ!進めェェェェ~!!」
隊長であるブレードの号令によって私たちの隊はエンジェリオンの部隊と正面からの衝突を果たした。
先程までの悪口や愚痴はどこへ消えたのか、全員一致でブレードの命令に従って、各々の魔法を用いてエンジェリオンと斬り結んでいた。
お調子者のオットシャックは既に巨大な戦斧に氷を纏わせたもので三体のエンジェリオンを仕留めていたし、ティーはその幼体に似合わずに短剣を自身の魔法をくっ付けて光の刃の生えた長剣に変えたものを振り回して数体のエンジェリオンを相手にしていた。
マリアもベテランを自称するだけのことはあり、容赦なく未知の魔法を用いてエンジェリオンたちを仕留めていた。
私はといえば固唾を飲んで討伐隊のあり方を見守るしかなかった。
エンジェリオンを前に一歩も引かないなど今の私には難しい。
私とて一応は訓練を受けていた。それでも、実際にエンジェリオンを相手にすると恐ろしくてたまらない。
戦争に参加する兵士たちのほとんどがそうであるように、私も武器を手に震えていた。
その時だ。背後に気配を感じて振り向くと、そこに武器を構えた天使の姿が見えた。
殺される。咄嗟に両目を閉じた時だ。私の体全体から力が迸っていく。
あの時、ブレードに魔法を見てもらった時と同様であった。
違いはその時の私の中から自我が奪い取られていたことにあるだろう。
気が付けば、私は何が何だかわからないうちに一体のエンジェリオンを一刀両断にしていた。
一刀両断にするのと同時にエンジェリオンの体から火花が走り、途端に大きな爆発の音が聞こえた。
どうやら、私がエンジェリオンを仕留めたらしい。
自分でも信じられなかった。けれど、この力は現実なのだ。
しかし、呆然とする時間は与えられない。左右から仲間の仇とばかりに二体のエンジェリオンが武器を振り上げて襲ってきた。
私は左右から襲ってくるエンジェリオンに対し、馬を前面に向かって駆ることで両者をぶつけさせることに成功した。
それから、馬の向きを変えて、改めて二体と向かい合う。
同時に私に向かって襲い掛かってくるエンジェリオンを横一閃に切り伏せた。
それから爆発に巻き込まれないために再び馬を駆っていく。
背後で爆発音が聞こえて、二体が爆発したのを確認した。
その時だ。背後に気配を感じた。慌てた振り向くと、そこには槍を構えたエンジェリオンの姿が見えた。
不幸中の幸いというべきか、槍の穂先は私ではなく馬の目を掠めた。
だが、一瞬で片目を奪われた馬は混乱に陥り、制御する術を失ってしまっていた。
私は馬の背中から押し出されて地面の上を転がっていく。
それを好機と見做したエンジェリオンが私に向かって襲い掛かっていく。
咄嗟に武器を構えたが、負傷した私が防ぐことができるだろうか。
その時だ。私の前に馬が躍り出た。そして、そのまま馬の足を使ってエンジェリオンを蹴り飛ばした。
私が馬に乗った人物を見つめると、それはブレードだった。
ブレードは私に一瞥した後に私を襲ったエンジェリオンを葬りに向かう。
その背中を私はじっと見つめていた。
こうしてはいられない。私も馬を失ってしまったが、少しでもエンジェリオンを倒して役に立たなくてはならない。
そして、少しでもブレードに自分を視界に入れてもらうのだ。
そして、あわゆくば……。
そこまで考えたところで私は自身が恐ろしい考えに至っていたことに気がつく。
私はマリアからブレードを奪い取り、恋人にしようと目論んでいたのだ。
そんな道徳的にダメだということを考えてしまうなど自分はなんと愚かなのだ。
恋にかまけてしまったツケが回ってきたのだ。私に隙が生まれてしまったのだ。
気が付いた時には目の前にエンジェリオンが迫っていた。
武器を構えてエンジェリオンと剣を切り結んでいくが、いくら戦っても突破口というのが見えてこない。
自身が神に与えられた魔法も用いているはずなのに……。
どうしてなのだろうか。このままエンジェリオンに押されて殺されてしまえば自分はどうなってしまうのだろうか。
私が混乱に陥ってしまった時だ。
「なにやってんだよ!バカ野郎!」
と、別方向から声が聞こえた。声の主はタンプルだった。
彼は私を殺すことに夢中になっていたエンジェリオンの脇腹に向かって勢いよく炎の剣を突き刺し、葬り去ったのである。
「あ、ありがとう……」
「礼なんて要らねぇ。それよりお前危なかったぞ、おれが助けなかったら今頃ーー」
「うん。ごめん。反省してる」
「それより、今回の討伐はもう少しだぞ」
タンプルは私に周りの様子を見せた。自分自身が妄想の世界に行っていたり、戦いに夢中になっていたりしたので見えなかったのだが、周りは既に殆どの敵を片付け、残り一体というところまで追い詰めていた。
平原の端で右腕を負傷した一体のエンジェリオンが仲間たちに追い詰められている姿を見た。
どうやら、あの一体を倒せば今回の戦闘は終了らしい。
四方八方を敵に囲まれたエンジェリオンは翼を用いて空中から逃げ出そうとしたのだが、ブレードがそれを許さなかった。
ブレードは自身の剣を宙に向かって放り投げてエンジェリオンの背中に命中させたのである。
背中に攻撃を喰らったエンジェリオンは地面の上を転げ回り、地面の上で仰向けに倒れたかと思うと、体全体から黒煙を噴き上げていく。
ブレードは落ち着いた様子で背中から剣を奪い取り、周りに撤退を指示した。
倒れたエンジェリオンは這々の体で地面の上を這っていたが、やがて耐えきれなくなったのかその場で消え去っていく。蒸発してしまったのである。
「これで今回の討伐は終わりなの?」
「あぁ、これに懲りてしばらくは奴らも出てこれないだろうさ」
「……本当に奴らは天使の姿をしているもんなんだね」
「当たり前だろ?お前、とおさんが嘘を吐いていたでも言いたいのか?」
「そんなんじゃないけどさ」
私は思わず言葉を濁らせた。どうしてタンプルはこんなにぶっきらぼうなのだろう。
もう少し優しく言ってくれれば私も彼に対して親愛の情を示すことができていたのかもしれないのに。
私は彼の馬の尻に乗りながらそんなことを考えていた。
タンプルは私を助けてくれたし、もう少し優しい人間なのはわかるが……。
隊長であるブレードの号令によって私たちの隊はエンジェリオンの部隊と正面からの衝突を果たした。
先程までの悪口や愚痴はどこへ消えたのか、全員一致でブレードの命令に従って、各々の魔法を用いてエンジェリオンと斬り結んでいた。
お調子者のオットシャックは既に巨大な戦斧に氷を纏わせたもので三体のエンジェリオンを仕留めていたし、ティーはその幼体に似合わずに短剣を自身の魔法をくっ付けて光の刃の生えた長剣に変えたものを振り回して数体のエンジェリオンを相手にしていた。
マリアもベテランを自称するだけのことはあり、容赦なく未知の魔法を用いてエンジェリオンたちを仕留めていた。
私はといえば固唾を飲んで討伐隊のあり方を見守るしかなかった。
エンジェリオンを前に一歩も引かないなど今の私には難しい。
私とて一応は訓練を受けていた。それでも、実際にエンジェリオンを相手にすると恐ろしくてたまらない。
戦争に参加する兵士たちのほとんどがそうであるように、私も武器を手に震えていた。
その時だ。背後に気配を感じて振り向くと、そこに武器を構えた天使の姿が見えた。
殺される。咄嗟に両目を閉じた時だ。私の体全体から力が迸っていく。
あの時、ブレードに魔法を見てもらった時と同様であった。
違いはその時の私の中から自我が奪い取られていたことにあるだろう。
気が付けば、私は何が何だかわからないうちに一体のエンジェリオンを一刀両断にしていた。
一刀両断にするのと同時にエンジェリオンの体から火花が走り、途端に大きな爆発の音が聞こえた。
どうやら、私がエンジェリオンを仕留めたらしい。
自分でも信じられなかった。けれど、この力は現実なのだ。
しかし、呆然とする時間は与えられない。左右から仲間の仇とばかりに二体のエンジェリオンが武器を振り上げて襲ってきた。
私は左右から襲ってくるエンジェリオンに対し、馬を前面に向かって駆ることで両者をぶつけさせることに成功した。
それから、馬の向きを変えて、改めて二体と向かい合う。
同時に私に向かって襲い掛かってくるエンジェリオンを横一閃に切り伏せた。
それから爆発に巻き込まれないために再び馬を駆っていく。
背後で爆発音が聞こえて、二体が爆発したのを確認した。
その時だ。背後に気配を感じた。慌てた振り向くと、そこには槍を構えたエンジェリオンの姿が見えた。
不幸中の幸いというべきか、槍の穂先は私ではなく馬の目を掠めた。
だが、一瞬で片目を奪われた馬は混乱に陥り、制御する術を失ってしまっていた。
私は馬の背中から押し出されて地面の上を転がっていく。
それを好機と見做したエンジェリオンが私に向かって襲い掛かっていく。
咄嗟に武器を構えたが、負傷した私が防ぐことができるだろうか。
その時だ。私の前に馬が躍り出た。そして、そのまま馬の足を使ってエンジェリオンを蹴り飛ばした。
私が馬に乗った人物を見つめると、それはブレードだった。
ブレードは私に一瞥した後に私を襲ったエンジェリオンを葬りに向かう。
その背中を私はじっと見つめていた。
こうしてはいられない。私も馬を失ってしまったが、少しでもエンジェリオンを倒して役に立たなくてはならない。
そして、少しでもブレードに自分を視界に入れてもらうのだ。
そして、あわゆくば……。
そこまで考えたところで私は自身が恐ろしい考えに至っていたことに気がつく。
私はマリアからブレードを奪い取り、恋人にしようと目論んでいたのだ。
そんな道徳的にダメだということを考えてしまうなど自分はなんと愚かなのだ。
恋にかまけてしまったツケが回ってきたのだ。私に隙が生まれてしまったのだ。
気が付いた時には目の前にエンジェリオンが迫っていた。
武器を構えてエンジェリオンと剣を切り結んでいくが、いくら戦っても突破口というのが見えてこない。
自身が神に与えられた魔法も用いているはずなのに……。
どうしてなのだろうか。このままエンジェリオンに押されて殺されてしまえば自分はどうなってしまうのだろうか。
私が混乱に陥ってしまった時だ。
「なにやってんだよ!バカ野郎!」
と、別方向から声が聞こえた。声の主はタンプルだった。
彼は私を殺すことに夢中になっていたエンジェリオンの脇腹に向かって勢いよく炎の剣を突き刺し、葬り去ったのである。
「あ、ありがとう……」
「礼なんて要らねぇ。それよりお前危なかったぞ、おれが助けなかったら今頃ーー」
「うん。ごめん。反省してる」
「それより、今回の討伐はもう少しだぞ」
タンプルは私に周りの様子を見せた。自分自身が妄想の世界に行っていたり、戦いに夢中になっていたりしたので見えなかったのだが、周りは既に殆どの敵を片付け、残り一体というところまで追い詰めていた。
平原の端で右腕を負傷した一体のエンジェリオンが仲間たちに追い詰められている姿を見た。
どうやら、あの一体を倒せば今回の戦闘は終了らしい。
四方八方を敵に囲まれたエンジェリオンは翼を用いて空中から逃げ出そうとしたのだが、ブレードがそれを許さなかった。
ブレードは自身の剣を宙に向かって放り投げてエンジェリオンの背中に命中させたのである。
背中に攻撃を喰らったエンジェリオンは地面の上を転げ回り、地面の上で仰向けに倒れたかと思うと、体全体から黒煙を噴き上げていく。
ブレードは落ち着いた様子で背中から剣を奪い取り、周りに撤退を指示した。
倒れたエンジェリオンは這々の体で地面の上を這っていたが、やがて耐えきれなくなったのかその場で消え去っていく。蒸発してしまったのである。
「これで今回の討伐は終わりなの?」
「あぁ、これに懲りてしばらくは奴らも出てこれないだろうさ」
「……本当に奴らは天使の姿をしているもんなんだね」
「当たり前だろ?お前、とおさんが嘘を吐いていたでも言いたいのか?」
「そんなんじゃないけどさ」
私は思わず言葉を濁らせた。どうしてタンプルはこんなにぶっきらぼうなのだろう。
もう少し優しく言ってくれれば私も彼に対して親愛の情を示すことができていたのかもしれないのに。
私は彼の馬の尻に乗りながらそんなことを考えていた。
タンプルは私を助けてくれたし、もう少し優しい人間なのはわかるが……。
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