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そういえば、元カノの件で忘れていたが、俺の背後に厄介な男が居た事を忘れていました……

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その日の放課後、俺が教室で鞄の中に教材を詰めていると、背後から、友人の山杉晋太郎にシャーペンで背中を突かれた。

山杉は俺の同級生で、中々に明るい性格をした男だ。
チャームポイントは両頬のニキビである。だが、顔は良い。ニキビさえなければ、彼はこの学校の女子にかなりモテていたかもしれない。

それに、彼は運動部に所属している。そのため、体は俺よりも引き締まっている。

「なぁ、零。お前さぁ、今日、空いてる?」

「空いてるけど、どうしたんだ?」

「いやさぁ、今日は新作ゲームの発売日じゃん。お前も気になってるやつだからさぁ、一緒に買いに行かねぇか?んで、その後、お前ん家でやろう!」

彼は満面の笑みで、俺が困る事を言い放つ。
冗談ではない。ゲームなどをして、部屋でやっていたら、俺の元カノ兼母の事がバレてしまうではないか。
俺は断固拒否をした。

「やだよ。今日は……その、ダメなんだ。それに、お前部活どうするんだよ?サボる気か?」

それを聞いて、言葉に詰まる山杉。そして、答える代わりに、彼は唐突に歌い始めていく。

「寂しく歌ってぇ~嘘を吐くオレさぁ~出直さないかぁ~」

「悪いが、部活をサボったら、もう出直せんぞ、遅れが出てくるからな。それに、お前、よくそんな曲知ってたな!?それ、もう今から、五年くらい前の曲だぞ!」

それと、朝のワイドショーで某借金ヒーローを取り上げた時に、一瞬だけ流れた曲だ。なんで、五年もの月日が流れていたというのに、こいつは覚えているのだ。

山杉は変なところで記憶があるのだ。
例えば、一週間前に買ってきて、家の冷蔵庫に入れっぱなしであったアイスの事を一週間後も覚えて、オレにそれを出すように迫ったり、一日前に落ちていた百円玉を覚えており、翌日も拾おうとしていたりという事だ。

そのくせ、山杉は肝心な事は覚えられない。例えば、杉田玄白を落語家と言い張ったり、ペリーが日本に来た目的を遊びに来たとか言ったりという風にだ。

酷い時には、俺がカエサルの話題を出したら、

「カエサル?あぁ、知ってるぞ!お風呂を通して、タイムトラベルする男が主人公の映画のタイトルだろ!?」

と、顔をキラキラとさせながら言うのだ。精々、ローマという事くらいしか共通点がないではないか。

そもそも、あの映画の舞台は五賢帝の時代であり、カエサルは何処にも出てこない。それこそ「か」の字も。

これならば、まだ某有名英霊ゲームのデブと間違えてくれた方がマシだ。
そんな山杉だからこそ、俺の家庭の事情など見せれば、確実に覚えるだろう。

おまけに、コイツは結構、口が軽い。
変に記憶力が良く、口が軽い。つまり、今の俺にとっては宿敵とも言えるべき男なのである。

だから、俺はこれ以上、追求される前に、慌てて部活棟へと向かう。
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