親父の再婚相手が俺の元カノだった件について

別れ、そして、再会

自慢ではないが、俺は自分自身の顔には自信がある。

鏡に映る自分の顔はどう見ても、平均以上の顔であったし、髭も生える気配を見せるたびに、剃刀で落としていたので、無精髭が整うという事もない。

加えて、俺は尽くすタイプ。一度、惚れた女には必ず、プレゼントを上げている。向こうから貢いでもらうのではない。こちらから貢ぐのだ。

と、言っても、ユリウス・カエサルのように、借金をしてでも高価なプレゼントを与えるという事は不可能なので、自らの体に鞭を打ち、高額な短期のアルバイトを重ね、それでなんとか買っていた。
その成果はなんと頬へのキスひとつ。

あまりにも、あまりにも気の毒ではないだろうか。

と、同情する男も居るだろう。だが、長期的な目で見れば、そんなものはどうって事はない。

どうせ、彼女と将来、結婚すれば、全て手に入るではないか。

手料理もデートも俺の意のまま。そう考えていたので、可憐な白色のワンピースに身を包んだ、俺の恋人、如月涼子きさらぎりょうこが海がよく見えるデートスポットで別れ話を告げた時は自分の耳を疑ったほどだ。

「ごめんね、あたし、もうあなたとは付き合えないの」

「え！？なんで！？」

当然、俺は抗議する。すると、彼女はしおらしい表情を見せて、

「あたしね、合わないなと思ったの、あなたとは、何というか、気が合わないというか、歯車と歯車が合わないっていうか……」

彼女はその後も最もらしい言い訳を続けたが、あまりにもショックであったので、俺の耳にその後の言葉は入ってこなかった。

放心状態の俺は暫くの間、そこに立ち尽くしていたのだが、通りがかりの人が俺目の前で手を振って、意識を確認してくれた事で、俺はようやく意識を取り戻す。

それから、俺はズボンのポケットの中に手を突っ込み、今日、渡す予定であった指輪を掴む。

金の装飾の付いた金剛色の宝石の付いた指輪。

何ヶ月も、何ヶ月も、コツコツと金を貯めて買った高価な指輪。

全てはこの茶番のためであったのかと思うと、虚しくなり、俺は下げていた小さな黒色のポテージーからスマートフォンを操作し、近くの質屋を検索する。

自棄になった俺は質屋で指輪を売り、その日、欲しかったゲームやマンガを片っ端から購入して、帰った。

それでも、まだ財布には高校生ならば思わず目が眩んでしまう程の大金が入っている。

これは、貯金に回しておこう。俺はその日、部屋に戻ると、適当に漫画を開き、何冊か読んだ後に、乱暴にそれを閉じ、眠りに就く。

眠れば、全て忘れる。翌日、学校が始まれば、そんな事は忘れる。

そんな甘い考えを抱いていた時期が俺にもありました。

最も、実際のところ、二ヶ月ばかりは如月涼子の事など忘れていられた。
だが、それは最悪のタイミングで思い出された。

その最悪の日、俺は親父と並んで飯を食っていた。

すると、突然、親父が箸を置いて、俺を神妙な顔で睨む。

「よく聞け、零れい、お父さんは今度、新しくお嫁さんを貰うことにした」

それを聞いた、俺はご飯を食べる手を止め、親父に向かって微笑む。

「そうか、おめでとう。再婚相手はどんな人？親父の同僚？それとも、上司の人とか？」

「……違う、お前と同じ学生だ」

「大学生なのか？」

「違う、お前と同じ高校生だよ」

稲妻を打たれたような衝撃というのはこの時の俺の事を指して言うのだろう。
実際、俺は暫く、固まって動けなかった。

だが、親父は固まって動けない俺に向かって更なる追撃を掛けていく。

「しかも、お前と同じ高校の子だ。誤解のないように言っておくが、お父さんは本気なんだ！」

もう言葉もない。俺は頭を抱えて大きく溜息を吐く。

しかも、親父の態度からして冗談ではない事は確かだ。

明日から、俺はロリコンの子と後ろ指を指されるのではないだろうか。

俺が頭を抱えていると、俺の目の前に座る親父は大きく空咳を吐いて、

「しかも、その人はもう今、この家に来ようとしている。どうか、家族と認めてやってくれないか？」

どうやら、俺も兜を脱ぐしかないようだ。俺が覚悟を決めた時、玄関のチャイムが来客を告げるチャイムを鳴らす。

親父は席を立ち上がり、玄関を開けに行く。

向こうから、親父とその再婚相手とやらが話す声が聞こえた。

小鳥のさえずりを思い起こせるような可愛らしい声だ。

俺がどんな人物かと待ち構えていると、扉を開けて、親父とその再婚相手が入ってきた。

俺が若干の期待を寄せながら振り向くと、そこには親父と俺の元カノ、如月涼子が立っていた。