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ファースト・ミッション編

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魔法というものが世界の歴史に公に登場してから、百年以上の年月が過ぎていったのだろうか。
初めて魔法を活用したウィリアムズ博士の活躍により、世界の人々が魔法を使えると判明され、検査によってそれは発見されていったのだった。人々は魔法と科学を巧みに発展させていき、やがて、世界も魔法の存在による強いリーダーを求めるようになり、あちこちの国家で君主制や共産党の一党独裁による支配が行われていった。
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魔法はやがて、国家のみならず個人までも狂わせていき、世界のあちこちで魔法による凶悪犯罪が増加していった。
暴力団が魔法を悪用し、個人的な犯罪者が魔法を犯罪に悪用していく。
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だが、それでも増加する犯罪者を押さえつける事は難しかったに違いない。
特に白籠市のアンタッチャブルのリーダーがその犯罪者による凶刃に倒れたとあっては……。


ーー西暦、2332年。日本共和国。首都、ビッグ・トーキョーの白籠市。
高層ビルの立ち並ぶ、白籠市のオフィス街にてマスコミと思われる男は高層ビルの入り口で高級車に乗り込もうとする男に持参した小型のマイクを突きつけて、
「ミスタートマス!!あなたがこの白籠市の広域暴力団と癒着しているというニュースは本当なのですか!?」
見事なまでに光る黒髪を持った赤色のネクタイにワイシャツ姿の男は、たった今一つの小さな山よりも高いビルから出てきた、一人の外国人の男に思い切った質問をしてみた。彼には恐らく相当勇気のいる行動であったのには間違いない。
何故なら、今の彼は首筋に汗が流れ、震える手でマイクを絹のスーツの見事なまでのちょび髭を生やした中年の男性に向けていたからだ。事実、これ程勇気を振り絞ったとしても取材を受け入れてくれない可能性は高いし、最悪の場合には警備員を呼び出されて、強制的に排除されるかもしれない。
だが、男はそんなインタビューアーの緊張や勇気など鼻も止めない様子で、目の前の空中浮遊車スカイアップ・カーに乗り込もうとしていた。
そして、運転手の男に何やら耳打ちする。
恐らく、携帯端末を使ってこのビルの警備員ガードマンを呼ぶつもりらしい。
やはり、強制的に排除しにかかるのだ。だが、男は再び勇気を振り絞り、トマスと呼ばれた男性に引き続き質問を浴びせる。
「ミスタートマス!お願いです!私の話を聞いてください!!あなたとヤクザ組織の関連性について何か一言お言葉をいただければ良いんです!」
その言葉にトマスと呼ばれた中年の男は初めて記者の方に振り返り、記者の格好を一瞥してから、ふんと鼻を鳴らすと、
「キミはそのようなデマを信じているのかね?我が社はユニオン帝国でも創業年の長い信用ある会社なのだよ。何処に証拠があって、そんな……」
「いえ、証拠は……」
「証拠?あのネズミどもの言っている事か?」
インタビューアーの男はトマスの思いがけない発言に思わず言葉を詰まらせてしまう。
その記者の様子を読み取ったのだろう。トマスと呼ばれた男は口元を緩めて、
「言っておくがね、奴らの威光は既に3年前の事だ。あの刈谷阿里耶検挙の件や三原青子の逮捕にはワシも一目置いているがね、あの中村とかいう男が死んでからは、奴らは落ち目になった。ここ3年で捕まえた犯罪者はチンケなヤクの売人グループだけ……フフフフフフ、笑ってしまうな」
トマスは太った腹を鈴のように揺らしながら笑う。何とも下品な光景だ、とインタビューアーの男は心底感じた。
だが、何とか不快感を笑顔の下に押し込めてトマスとの会話を続ける。
「ですが、一年前に現れた新興組織であり、それまでは無名だった暴力団がこれ程拡大したのは、何かしらの背後関係があるからだと大衆は訴えていますがッ!」
「そんなものは好き勝手に言わせておけばいいのさ、我が社はお客との『信頼』で繋がる名誉ある会社なのだからね」
そう言って、トマスは質問を打ち切って車に乗り込もうしたのだが、急にインタビューアーの方に向き直り、
「そうだ、この記事を掲載したまえ、あの女狐どもに思い知らせてやるんだ!」
トマスは再び腹を鳴らしながら笑うと、車に乗ってその場を跡にした。




「チクショー!バカにしやがって!」
いかにも気の強そうです、と主張せんばかりの顔をした赤色のパンツスーツを着た女性は例のトマスの言動が載った新聞を床に叩きつけながら言った。
それから、この作業用の机と椅子が並び、来客用のソファーまでも並ぶ部屋の中で一人叫ぶ。
「あの野郎!アタシらを何だと思っていやがるッ!あのクソ野郎のドタマ撃ち抜いて、脳味噌をあいつの会社の中の偉そうな社長室の机にぶちまけさせてやろうかッ!」
「ちょ、ちょっと聡子ちゃん……そんな言い方良くないよ……」
丸渕の眼鏡をかけた気の弱そうな、だけれどどこか頭の良さを片鱗に匂わせる女性は震える声で、仲間を諫めたが、彼女の怒りは治らないようで、
「うるせッ!こうでも言わなけりゃあ、治らねーんだよ!それよりさ、絵里子さん」
聡子と呼ばれた気の強そうな女性はこの部屋の中で一番端に存在して、尚且つ一番豪華な机に座る美人に質問をしたいらしい。
絵里子と呼ばれた女性はハァーと溜息を吐いてから、
「何かしら?」
「今度こそ、何か尻尾は掴んだかい?例えば、東海林会とを繋ぎ合わせるヒントのようなものとか……」
聡子のその問いかけに絵里子と呼ばれた女性は残念そうに首を横に振る。
「チッ、あんたにもどうしようもないのかよ!こんな時に……」
聡子はこの言葉を何気無しに発したつもりであった。だが、その効果は絵里子に予想外のダメージを与えたらしい。
絵里子は産卵期の海亀のように涙を浮かべて、聡子の方に向き直り、
「何よ、あたしだけじゃあ、事件は解決できないと言いたいの?」
被告人を追求する検察官のような鋭い口調で聡子に質問する。
こんな状態に陥られれば、聡子も降参するしかないだろう。
聡子は悪かったよ、と謝罪の言葉を口にして、入り口近くの自分の席に座り直す。
「あ、あの……」
丸渕の眼鏡をかけた青い色のスカートスーツを着た女性は心底心配しているという声で絵里子にある事を尋ねた。
再び絵里子の顔が変わる。女性は思わず身震いしてしまうが、怯んではいられない。ライオンを前に全力の勇気を振り絞り立ち向かうマサイ族の戦士のように、彼女の目をしっかりと見て、
「お、弟さんの意識はまだ戻らないんでしょうか!?あの事件から、もう3年になりますもの……少しは何か良いニュースがあるかと」
何も無いわ……」
絵里子は不機嫌そうに答えると、一旦椅子を立って、深く座り直してから、大口の取引を待つ大手会社の社長のように椅子を大きく回転させてから、貧乏揺すりを行う。
その様子を二人は深刻そうな顔で眺めるしかなかったが、次の瞬間に事態はに好転したのだった。恐らく、彼女らにとってはその後の彼女の携帯端末にかかったきた一本の通知こそ救いの神だったに違いない。
何故ならば、次の瞬間には彼女は今までの不機嫌そうな顔を引っ込めて、その代わりに落ち武者狩りで明智光秀を討ち取った農民のようなこれ以上の喜びは無いという顔で二人に向き合っていたのだから。
絵里子のあまりの変貌ぶりに二人は当初は困惑していたが、絵里子からのメッセージを聞くなり、二人も絵里子同様にこれ以上ないくらいの笑みを浮かべていた。
たった一本の連絡によって……。
彼女らをここまで喜ばせた連絡と言えば何なのだろう。答えを言えば、たった一人の人間の目覚めであった。
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