婚約破棄された悪役令嬢の巻き返し!〜『血吸い姫』と呼ばれた少女は復讐のためにその刃を尖らせる〜

アンジェロ岩井

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第三章『私がこの国に巣食う病原菌を排除してご覧にいれますわ!』

ミレリアの緑色のドレス

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ミレリア・フランモンドは夢を見ていた。それは過去、かつて自分が騎士の家の娘であった時の記憶だ。
ミレリアは近所でも評判の美女だった。よく噂をされたものである。彼女の休日の楽しみはお気に入りであり、普段から着用していた緑色のドレスを着て、父親と共に郊外にある屋敷で穏やかな一日を過ごすことであった。
ミレリアはこんな穏やかな日々が続けばいいと願っていた。

だが、あの穏やかで平穏な日々はたった一人の身勝手な男の手によって潰されてしまい、二度と自分の元には戻ってこない。
今でもあの日のことは鮮明に思い出せる。ミレリアは両眼を閉じ、あの日のことを思い返す。同時にその後でブランスター家という家に浮かんだ憎悪の感情を。
白昼の往来、人々の目の前で父親は斬り殺されてしまい、あまつさえは先先代の領主から寵愛を受け、現在も破格の待遇を受けている家だからという理由で追放という名目でどこかへ匿われてしまったのだ。このようなことが許されていいわけがない。
復讐の炎に燃えたミレリアはブランスター家の断絶に燃え、その計画は成功に終わった。
そして5年という月日をかけて、ようやく仇であるジェイミーを見つけ出した。
だが、5年という歳月の間でバラニス家とジェイミーは対策を取っていたらしい。

ミレリアが乗り込むなり、伏兵を繰り出してミレリアを拘束し、警備隊へと突き出したのである。
ミレリアはその後の裁判で懸命に戦ったものの、有罪宣告を受け、死刑が決まった。ミレリアは立ち去る間際にジェイミーが勝ち誇ったような表情を浮かべていたことが忘れられずにいた。

今に自分が乗り込む前に依頼した駆除人がジェイミーを始末してくれるだろうが、それまでに自分がこの世に居られるのかがわからない。
見届けられないのならばせめて最後に自分が幸せであった時の服を着て死にたい。
ミレリアはそう懇願したのだが、一週間という時間の中で希望のドレスを仕立て上げられる腕を持つお針子というのはなかなか見当たらないものであるらしい。
半ば諦めていたミレリアの元にカーラというお針子が現れたのは天の運命であったといってもいいだろう。

面会のために用意された小さな部屋。それこそ椅子と机しかなく、周りには警備隊の隊員たちが見張っているような部屋の中で懸命にミレリアの記憶を引き出し、どのようなドレスにすればいいのか、どのような素材を使えば、希望に沿うようなドレスが作れるのかを雄弁に語っていく。
ミレリアはたちまちのうちにカーラに魅了され、友達となった。
カーラは話せば話すほど好きになるような人物であったが、ただ一つ引っ掛かったのが、彼女の仇であるジェイミー・ブランスターについて深く尋ねてきたことだった。普通のお針子であるのならば自身の復讐対象の話など無視するはずだ。

だが、カーラという美しい針子は例外的だった。カーラはもしかすれば普通の人間ではなく、噂に聞く駆除人であるのかもしれない。もし、本当に駆除人であったのならば声を掛けることは掟に反するだろうし、そのことを周りを囲んでいる警備隊の隊員たちに聞かれれば彼女は捕らえられてしまうだろう。
しかし、それらの事情を踏まえてもなお、ミレリアはカーラに問い掛けたかったのだ。彼女は大きく声を振り絞って問い掛けた。

「あ、あの、あなたはもしかしてーー」

「えぇ、お察しの通りですわ。ミレリアさんの最後の時間までに望み通りのものを差し上げますわ」

カーラはミレリアの言葉を遮り、笑顔でそう答えた。ミレリアはカーラの言葉の意味に気が付き、顔を綻ばせた。
そして感謝の言葉の代わりとして立ち去る前のカーラに向かって優しく微笑んだのである。
カーラもミレリアに対して微笑み返す。ここで二人の間には鉄壁ともいえる友情が生まれのであった。















ドレスの仕上げは完璧といってもいいだろう。ミレリアの要望を忠実に再現しているはずだ。カーラは仕立て終えたばかりの緑色のシンプルなドレスを撫でながら改めてそう思わされた。
カーラは仕上がったドレスをベッドの上に置き、今度は机の上に置いていた針を袖の中に仕込む。

明日で一週間目。ミレリアが処刑される日である。処刑の時間までにジェイミーを駆除しなくてはならない。
そのため、のんびりとジェイミーが外に出るまでの時間を待っていてはミレリアが処刑されてしまう。
カーラは表の仕事とドレスの仕立てと並行し、ジェイミーを仕留める作戦を必死に立案していた。

窮地に陥ったともいえるカーラの頭に降ってきたのは逆転ともいえる状況である。
“出てくるのを待つ”のではなく“こちらから出るように仕向けさせらればいい”というものだ。
カーラが立案した作戦は敵襲を装った上でジェイミーを挑発し、外へと誘き出すというものである。
問題は彼の従者であるが、共犯者が言葉巧みに従者を引きつけ、ジェイミーから引き離し、そのまま共犯者は夜の闇に紛れて逃げるという算段になっている。
その隙にカーラがジェイミーを仕留めるのである。その後で合流するのは自宅。レキシーが夜食とお風呂を用意して待っているこの世で最も寛げる場所だ。

それに力を貸す共犯者となるのはジェイミーや従者たちと同じく剣士であるヒューゴである。ヒューゴの剣によってランプを破壊し、彼らの光を断たせた後でジェイミーに針を打ち込むというものになっていた。
カーラは頭の中で算段を弾き終えると、居間で待たせていたヒューゴに声を掛け、共に駆除へと向かう。

本来組む予定であったレキシーは予定を変更し、帰ってくる二人のために夜食と風呂とを用意して待っていることになった。
準備は万端である。二人は家を出て、ジェイミーの駆除のために夜の城下町を歩いていく。

その道中のことだ。ヒューゴが不意に口を開いたのは。

「少し気になっていることがあるんですけれど」

「気になっていること?」

「えぇ、どうしてミレリアさんはジェイミーの悪行を裁判で証言しなかったのかなって」

「……ミレリアさんは裁判でちゃんとそのことをお答えになっておられましたわ。ただ、その証言が取り上げられなかっただけですの」

「取り上げられなかった?どうして?」

「ジェイミーの背後についているのが大貴族だからですわ。恐らくこのことを知られれば恥だと判断したバラニス家が警備隊に圧力を掛けたのでしょうね」

「……クソッタレ」

ヒューゴは短くも分かりやすい言葉で王国の大貴族を、大貴族という理由で法の裁きを免れるような連中を詰った。カーラは怒りに燃えるヒューゴを宥め、彼に落ち着くように指示を出す。
怒り狂って我を忘れた状況では上手く駆除が行えないだろうというカーラからの配慮だった。
幸いなことにヒューゴは道中で怒りを抑え、屋敷の前に着く頃には冷静さを取り戻していた。

ヒューゴは屋敷の前に立つと、大きく深呼吸を行ってから屋敷に向かって大きな声で悪口を叫んだのである。
それもただの悪口ではない。ジェイミーが気にしていると思われる全ての言葉を口にし、彼に屋敷から出るように叫んだのである。
数分の後に屋敷からジェイミーと思われる若い男の怒鳴り声が屋敷近くの物陰に身を潜めている二人の耳元に響き渡ってきた。

徐々にその声は近付いていき、最後に扉を蹴破るような音が辺りに響き渡ってから、ランプを持ったジェイミーと従者の姿が見えた。
今だ。ヒューゴは物陰から飛び出して従者たちの手からランプを弾き落とし、その場を去っていく。
それを見て激昂するジェイミー。ジェイミーは従者たちにランプを落とした男を追いかけるように指示を出す。
ジェイミーも従者の後を追ってヒューゴを追い掛けようとした時だ。

カーラが物陰から飛び出し、袖に仕込んでいた針を取り出し、ジェイミーの首筋に針を打ち込んだのである。
カーラが突き刺した針は延髄へと食い込み、彼の血流を静止させた。
針を受けたジェイミーは口をパクパクと動かした後でそのまま力尽きて地面の上へと倒れ込む。

カーラは死体を一瞥することもなくその場を立ち去っていく。標的を仕留めたのならば用はない。
カーラは真っ直ぐにレキシーが待つ自宅へと急いだ。

自宅に向かえば塩漬けの豚肉と野菜を煮込んだ温かいスープ、それにハムと卵を焼いた料理、白色の丸パンなどが待っているに違いない。
カーラはレキシーの用意している料理を想像し、その喜びで思わず体を震わせた。
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