婚約破棄された悪役令嬢の巻き返し!〜『血吸い姫』と呼ばれた少女は復讐のためにその刃を尖らせる〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
85 / 223
第二章『王国を覆う影?ならば、この私が取り除かせていただきますわ』

重大な指針はそこにあって

しおりを挟む
レキシーは一目見て、王の命が長くないことを知った。本来であるのならばこのまま見捨てるところであったのだが、リーバイトの約束がそれを邪魔した。レキシーは国王を少しでも助けるために全力を尽くすことに決めたのだ。
レキシーの腕ならば国王の体を寿命まで錯覚させる薬を作ることならばできた。その薬を使えば意思疎通を取ったり、椅子に座ったりすることができるようになるはずだ。
レキシーが椅子の上でそこまで考えていると、王の治療に関する考えとは別の疑問が頭の中に思い浮かんできた。
どうしてここにいる奴らは国王をここまで放置していたんだ、という至極真っ当な疑問であった。
レキシーが頭を悩ませていた時だ。第二王子のベクターとその婚約者であるマルグリッタがその姿を見せた。
ベクターは焦った様子で父王が眠るベッドの下へと駆け寄っていく。
そこで父王を揺らそうしたところをレキシーが大きな声で叫んで静止させたのである。
それを聞いたベクターが眉をピクリと動かしながらレキシーの方を振り向いた。

「何者だ、貴様は」

「あたしかい?あたしはここの医者に陛下を見るように頼まれた町の医者だよ。そういうあんたこそ何者だい?」

「貴様、なんだその口の利き方はッ!平民のくせにッ!それにおれの顔を知らんのか?おれはこの国の第一王子、ベクターだそッ!」

レキシーは『ベクター』という言葉を聞いて固まってしまう。ベクターは自分の相棒であるレキシーに婚約破棄の身分剥奪を言い渡した王子の名前であったからだ。
ベクターはレキシーが驚嘆してその場を動けないでいるのをいいことにレキシーの元へと詰め寄っていく。
「お前町医者も聞いたが、どうしてたかが町医者如きが父上の病気の診察に来ているのだ。ははぁ、わかったぞ。父上に取り入って財産を狙おうという魂胆なのだろう」
ベクターは側でマルグリッタが止めているのも聞かずにレキシーへの悪口を続けていく。
レキシーへの悪口がついに頂点に達した時だ。レキシーは黙って椅子の上から立ち上がり、ベクターの胸ぐらを勢いよく掴み上げた。

「舐めるんじゃないよ、あたしはねぇ、ウィリアム・バトラーっていう医者から頼まれてここにやって来たんだよ。あんたのパパを助けるためにね」

「ぶ、無礼なッ!このおれを誰だと思っている!?」

「王子様だろ?けど、それがどうかしたのかい?生憎だけどあたしはそんなことで怯えるような弱々しい性格をしていないんだよ」

レキシーはそのまま乱暴にベクターを突き放して地面の上に尻餅をついて痛がるベクターを見てフンと鼻を鳴らした。
その姿を見てマルグリッタが悲鳴を上げる。

「な、何をなされますの!殿下ッ!しっかりなさいませッ!」

この時マルグリッタは密かにレキシーを睨みつけたが、レキシーは意に返すこともなく腕を組んだまま地面の上に倒れているベクターを見下ろしていた。
一色触発ともいえる状況が続いた時だ。ベッドの上に横たわる国王が呻めき声を上げた。
それを聞いたベクターが我を忘れて国王の元へと駆け寄っていく。
レキシーは国王を揺れ動かそうとするベクターを止め、必死に口を動かして何かを言おうとしている国王の言葉に耳を傾けた。
国王はか細い声でベクターを呼んで耳元で何かを囁いた。
それを聞いたベクターの両目が大きく見開いたのをレキシーは見逃さなかった。レキシーは国王の元から離れると落ち込んだ様子のベクターの姿が見えた。何言われたのかはわからなかったが、ベクターにとってよくない話を聞いたというのがわかった。
その後に血相を変えたマルグリッタがベクターと小さな声で口論を行っているのを耳にした。

「どういうですの?この状況でフィン様をお呼びになられるだなんて……」

「おれだってわからない。だが、よくないことだというのは確かだ」

その言葉を聞いたレキシーは国王が何を言おうとしているのかを悟った。
どうやら国王は死の淵に立って見えなくなっていたはずの目を再び開けたらしい。一足先に冥界の王の元へと旅立ったリーバイも喜んでいるに違いない。
レキシーも心の内で密かに国王の目が覚めたことを笑っていた。
どうやら国王は今後の王家の指針を話そうとしているのだ。そのためわざわざ街の警備に回しているはずのフィンを呼びだすのだ。恐らく今後国王の体調が戻れば兄であるフィンを交えて、ベクターにとって望ましくない話が開かれるのだろう。ベクターの顔が青ざめていたのはこのためだろう。
レキシーはこのまま耳を澄ませて二人の話す内緒話に耳を傾けていく。

「心配するな。父上は病人……上手くいけば父上はこのままお隠れになるはずだ」

「……ですわね。このまま上手くいけば殿下が次の国王ですわ」

「その通りだ。だが、万が一ということもある。その時は……」

どうやら二人は国王が寝たきりであるのをいいことに二人にとって不味くなるであろう話を封殺させて、そのまま次の国王に就任するつもりであるらしい。
そうはさせてはならない。レキシーは国王の体を騙すための薬を是非とも開発し、二人を奈落の底へと叩き落とすことを決めたのであった。
レキシーは二人が小さな声での会議に夢中になっている間に国王の体を診察し、どのようにすれば体を騙せるのかを探っていくのであった。
処方するべき薬を思い付いた後に一旦は宮廷を退いて家へと戻っていくのだった。
レキシーの腕を持ってすれば国王の体を騙すことができるのは三ヶ月。今後のことを話し合うには十分だろう。
レキシーは馬車の中で一人笑っていた。というのも、自身の相棒をあれだけ苦しめた王子とその婚約者を合法的に地獄に叩き落とせる準備ができるのだから。









カーラからすればシュポスとのデートは正直にいえば楽しかった。シュポスは自分に惚れているということもあり、紳士的に振る舞ってくれていた。エスコートは完璧であったし、レディファーストという言葉も忘れなかった。好きなものを奢ってくれようとしたし、デート中もカーラの気を引くような面白い話をしてくれた。
ユーリという男とも引けを取らないほどの面白い話ばかりであり、カーラは自身の本来の目標を忘れ掛けそうになっていた。
もし、自分がまだ、恋を知らない身であったのならば恐らくシュポスという男に恋焦がれていたかもしれない。
カーラがそんなことを考えているとシュポスがレストランで何を頼みたいのかを尋ねた。

「……あぁ、そうでしたわね。では私は香草と魚を煮詰めたものをいただいてもよろしいでしょうか?」

「いいよ、それね」

シュポスは店員にその件を伝え終わった後で黙ってカーラに向き直って言った。
カーラがぼんやりとしているのが気になったのか首を傾げながら問い掛けた。

「そういえば、カーラさぁ、さっきからぼんやりしているけど、どうかしたの?」

「い、いえ、少し考え事をしていただけですわ」

「そうなの?なら別にいいけど」

怪しまれてはいないだろうか。その途端に心拍数が上がり、その音がカーラの両耳にまで聞こえるほどになっていた。
カーラは慌ててその心を沈め、自身に向かって必死に言い聞かせたのであった。
目の前の男は蓋を開ければ魅力的な男性であった。恋を知らない頃であったのならば自分も恋に落ちていたかもしれない。
だが、彼は自分の駆除の現場を目撃し、それをネタに強請ってきた。今はまだこの程度で済んでいるが、生かしておいては今後の駆除に影響が出かねない。

そう言い聞かせてカーラは自分を奮い立たせたのであった。カーラは夕方までシュポスとのデートを楽しんだ上でシュポスを始末するために人気のない空き地へと誘ったのであった。名目は二人で夕陽が落ちるのを楽しみたいという旨のものであった。
空き地で二人で並んで西陽が消えていく姿を見るのは初めてのことであったからカーラは別の意味でも緊張していた。
そんな淡い思いをカーラは必死に打ち消し、シュポスが夕陽を眺めているのを確認してから袖の下に仕込んだ針に手を掛ける。これでシュポスの延髄に向かって針を突き立てることができれば口封じは完了だ。
カーラが針を突き立てようとした時だ。不意にシュポスがカーラの元へと向き直り、カーラの右手首を勢いよく掴み上げたのだった。
夕陽を背にしているためかシュポスの背中がやけに大きく見えた。
















本日の投稿遅れてしまい、誠に申し訳ありません。重要な場面でしたので何度も何度も考え直しているうちに投稿予定時間を大幅に超えてしまっていました。
大変身勝手な話ですが、お許しいただければ幸いです。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

処理中です...