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第一章『この私、カーラ・プラフティーが処刑台のベルを鳴らせていただきますわ』

強請りの王様

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「な、なんの話だか……」

口籠る王子の顔を眺めながらセバスチャンが言った。

「おとぼけなさるな。駆除人に殺させたでしょう。ロッテンフォード公爵家の方々とグリーンランドさんを」

王子はセバスチャンの追求に答えられずにいた。彼は王子の沈黙を肯定と取ったのか、口元に勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
そして、何も言えずに顔を背ける王子を見下ろしながら告げる。

「まぁ、今日のところはお引き取りさせていただきましょう。口止め料はまた別の日に請求させていただきましょう」

セバスチャンは我が物顔で警備隊の施設を出た後はその足で城下で評判の菓子屋へと向かう。
菓子屋の扉を強く叩いて、彼は従業員を呼び出した後で店主を出すように指示を出す。
セバスチャンは腕を組みながら菓子屋の女性店主が出てくるのを待ち構えていた。
セバスチャンは菓子屋の女性店主が出てくるのを待って、彼女に向かって高圧的な口調で語り始めていく。

「夜分遅くに失礼致します。今晩参りましたのはですね。一年前にお亡くなりになったお嬢さんの素行についてお知らせしようと思いましてな」

「娘の?」

「えぇ、おたくの亡くなられたお嬢さんは我が娘と同じ学校に通われていたようでしてね。その娘が言うんです。『あの子は万引き』をしていたんだとね」

「や、やめてください!」

女性主人の声が声を上げる。その様をながらセバスチャンはニヤニヤと陰湿な笑みを見せる。

「静かになさい。近所迷惑ですよ」

「あ、あなたが……」

「私?私が悪いと言いたいんですか?……いいでしょう。私だって死人を辱めるような真似はしたくないんですがね、この秘密を公表させていただきましょうか」

「ひ、ひどい!どうしてそんなひどいことを……」

「私だって不本意だからしたくはないんですよ。なのでそれ相応の報酬さえ払っていただければ私は口を紡ぎましょう」

「……お、お金を取ろうというの!?」

「嫌ならいいんですよ。このことを公にするだけですから」

女性主人はしばらくの間、セバスチャンを睨んでいたが、舌を打ってから懐から財布を取り出して、セバスチャンの鼻先へと突き付ける。
セバスチャンは財布を受け取ると、それを自分の懐の中へと仕舞い込み、先程と同じようなニヤニヤとした笑みを浮かべながら言った。

「ありがとうございます。まぁ、ちと額が少ないですが、これは手付け金として受け取っておきましょう」

「ま、まだお金を取ろうというの!?」

「えぇ、今度は……そうですねぇ。店の売り上げの10%をいただきましょうか」

セバスチャンは店先で自分を殺さんばかりの勢いで睨む女性店主を放って夜の街を歩いていく。
これこそが一代でセバスチャンを貴族としての地位へと成し上げた強請り術であった。
もちろん敵も多いが、殺した場合には恐喝の内容が全て公になるように仕組んでいる。そうすれば身分や財産に関係なくどんな人物でも破滅してしまう。だから自分を放置しておいた方がいいと彼は恫喝を終える際にそう念を置くことを忘れてはいなかった。
なので、セバスチャンは護衛もなしで夜の街を大手を振るって歩けたのだ。そしてそのまま自分の足で自身の邸宅へと帰りついた。

城下の中に聳え立つ庭付きの巨大なステンドグラスの付いた塔が聳える屋敷こそがセバスチャンの自宅であった。
セバスチャンは自室の書斎に潜り込むと、自身が昔からつけてきた恐喝対象をまとめたノートに新たな対象を書き記していく。
恐喝対象の名前と住所、それに内容を記したノートは彼にとっての矛であり盾であった。
もし、このノート一冊が公に出回ればこの国は崩壊するだろう。そんな表に出せない秘密ばかりが詰まったノートだった。このノートは自分が不慮の死で死んだ後で自分がもっとも信頼する腹心に公表するように厳命しており、先述の通り彼を裏の世界において絶対的な王者にせしめるための重要なものであった。

セバスチャンは自分にとっての最大の武器であるノートに新たな恐喝の対象を記し終えた後でニヤニヤと笑いながらノートを見返していく。
三度ほどノートを読み返したところで扉を叩く音が聞こえた。セバスチャンが入室を許可すると、そこには燃え上がるような赤い色の髪をポニテールで纏めた若い女性であった。
彼女は満面の笑みを浮かべながら父親の元に抱き付き、猫撫で声で父親に今日の日の収穫を尋ねた。
それを聞いた父親はニヤニヤと陰湿な笑顔を浮かべて答えた。

「もちろんだとも、お前が教えてくれた情報のお陰であの菓子店から金を絞れ取れそうだ」

「やった!流石パパ!しかし、あいつもバカだよなー。あいつが死んだことであいつの家に迷惑がかかってんじゃん」

「そういうな。そのお陰で父親であるオレが金を取れるんだから」

「それもそっか」

ポニテールの少女、メーデルは父親譲りの陰湿な笑みを浮かべて答えた。














「無償と有償……どっちの依頼から先に仕掛けるかねぇ」

レキシーが葡萄を使った紫色のワインが入った瓶を片手に唸っていた。

「決まってるでしょう。あの強請り野郎を始末するのが先ですよ」

ヒューゴが客人用のグラスを片手に言った。

「でも、あんないい菓子屋の店主の娘さんを苦しめた方が気になりますの。今頃何をしているのやら……」

「話から察するにそっちも悪そうな奴だけど、強請り野郎の方が上だと思いますよ」

「でも、強請りだけならばそこらの小悪党でもできますわ。やはり、先に駆除するのはいじめた人の方では?」

カーラの問い掛けにヒューゴは黙って首を小さく横に振る。

「甘いな。あいつの強請りのせいで何人の人間が首を吊ったと思ってるんです?直接手を掛けずとも奴は既に大勢の人を殺してるんですよ」

「あたしから見たらどっちも悪党だ。どっちもおんなじくらい真っ黒い腹わたを持っていると見えるね。ほら、よく言うだろ?『三十歳とゼロ歳だと普通に親子だけど、百歳と七十歳だとどっちも老人にしか見えない』って」

「……なら、同時に駆除致しましょうか?その方が早いでしょう?」

カーラの提案にレキシーが首を縦に動かす。だが、それを聞いて慌てたのはヒューゴであった。

「待ってください!だからそれじゃダメなんです!!どうしても先にセバスチャン・ミーモリティを駆除してもらわなくちゃ……」

ヒューゴの慌てぶりはただ事ではなかった。口からは荒い息が出ているし、顔全体から冷や汗が流れている。
その姿を見たレキシーは敢えて何も言わずに尋ねた。

「何があったんだい?」

「……マスターが脅されているんです。そいつに……セバスチャン・ミーモリティに」

ヒューゴの話によれば少し前にギルドまで来て、マスターを脅迫してきたのだという。
口止め料をせびるばかりか、自分の邪魔をしようとする善人を仕留めようという依頼を強制的に受けさせようとしてくるのだ。
ヒューゴは拳を震わせながら自身を三人に向かって叫んでいく。

「ちくしょう!あの野郎ッ!駆除の件を警備隊にチクるとか抜かして、ギルドを自分の子飼いの組織にしようとしていやがるッ!それが許せねぇ!あの油虫野郎がッ!」

珍しい敬語口調をかなぐり捨て彼自身の素の口調でセバスチャンという男を詰っていく。
カーラは真剣な表情でヒューゴに向かって問い掛けた。

「ねぇ、ヒューゴさん。もしかして今回の依頼はマスター本人ですの?」

「……その通りです。マスターが直々に害虫を駆除しろとオレに命令されました」

「……わかりましたわ。先にセバスチャンの方を始末させていただきましょう」

その言葉を聞いてヒューゴの顔が明るくなる。それから椅子の上から身を乗り出し、カーラの両手を握りながら礼の言葉を叫んでいく。
そのヒューゴに対してカーラは淑女らしい微笑を浮かべながら子どもを嗜めるように言った。

「こらこら、紳士たるもの断りもなしにレディーの手を握るものではありませんよ」

それを聞いたヒューゴが慌ててカーラの両手から自身の手を離していく。
それを見たレキシーが手に持っていたワインを飲み干して言った。

「決まりだね。今後、あたしたちはセバスチャン・ミーモリティの駆除に全力を挙げるよ。いいね?」

二人が同時に首を縦に振る。レキシーはそれを見て微笑み、これまでも逞しく働いてくれた二人の駆除人仲間を優しい笑顔で見つめていた。
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