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冒険編

赤い宝石の付いた剣を奪取せよ!

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「冗談ではありません!そんなしれ者どもの甘言を受け、併合を拒否なさるとは、陛下らしくもありませぬぞ!」

そう叫ぶのは国の大臣であるシュラー伯である。
エドモンド・フォン・シュラーは彼の祖父の代より、大臣を務める家系であり、彼自身の頭も非常に優秀と来ている。
併合をあっさりと認めたのも、この頭の良さからきているのだろう。

ガレリアとオーランジュとの国力を比較すれば、ガレリアが圧倒的である。
おまけに今のガレリア軍には最新式の装備までも揃っている。
ガレリアの戦車に戦闘機という組み合わせに昔ながらの騎兵と弓兵ではあまりにも分が悪いと判断するのも無理はない。

エドモンドは机を叩きながら、幼い国王に向かって道義を説いていく。

「良いですか!陛下!あなたの誤った判断のために、全員を道連れにしてよろしいのですか!?ここは大人しく、併合をーー」

エドモンドの崇高なる説得はその併合反対の張本人によって遮られてしまう。
それに気を悪くしたらしく、エドモンドは下唇を噛み締めながら、会話に口を挟んだ男装の女騎士を睨む。

「では聞くが、併合された後にはどうするつもりだ?まず、オーランジュの国民は自分たちの国がなくなる事に抵抗を持つだろうな。それに、マナエ党の奴らがオーランジュの国の人間にどのように振る舞うのかもわからない。併合した後の国をどう扱うのかはその国次第だからな。かつてのように収奪や虐殺が起きんという保障はあるのかね?」

「失敬な!昔の騎士道物語の世界に登場する悪役国家ではあるまいし、この現実に、それも現在において、そんな話があってたまるものか!」

「この現在においてもあの女ならやりかねないだろうさ」

ルイーダは腕を組み、書斎の壁に自身の背中を預けながら皮肉混じりに呟く。

「お前、今が何年か理解しているのか?それに戦争となった方がこの何倍も収奪されるに違いないッ!」

エドモンドは拳を叩き付けて、ルイーダに抗議の言葉を飛ばす。

「我々は併合を受け入れるぞ!」

「そんな併合など、すんなりと受け入れる人の方が少ないだろうさ」

「多少の不理解はあっても仕方がないッ!」

エドモンドはルイーダを突き飛ばすと、机の上にその額を擦り付けて併合の受け入れを懇願していく。
その顔からは涙すらも出ていた。困ったのは幼い国王である。
助けを求めるような視線を向けるのだが、ルイーダは何も言わない。ジードも同様である。

この場合、国王には自分の意思で決めてもらわねばならぬ。
幼い国王は頭を抱えて、時折、喚きながらもようやく結論を見出したらしい。
唇をぎゅっと結んだかと思うと、書斎の椅子から立ち上がり、ハッキリとした声で告げる。

「決めたッ!我々は今より、併合に反対し、マナエ党と一戦を交える!最後の最後までこの戦いを続け、奴らが引くまで戦う所存だッ!」

「へ、陛下!お考え直しを!」

「黙れッ!私は守るのだ。父と母が残してくれたこの国を……」

この日、幼年の国王による宣戦布告の発言はオーランジュ王国のみならず全世界を駆け巡っていく。
苦虫を噛み潰したような表情をしたのはエルダー。愉悦の表情を顔に浮かべたのはルドルフ。酷く落胆したのはディアナ。
その他、側近たちによれば、各々の国の元首たちも多種多様な表情をのぞかせていたという。

当然、この報道はオーランジュ王国内に潜伏している各スパイにも伝えられ、動揺が走っていく。
特にヘルマンは焦燥感に駆られた。

(不味い。ガレリア軍が来るよりも前に、宝剣を回収しなければ、オレはおろか、部下たちまでもが殺されてしまう)

元々はヘルマンたちの裏工作が失敗したために、エルダーは表向きの併合策を提案したのだ。
その賭けには成功し、平和主義者のディアナにより認められたので、彼女の機嫌は直ったのだが、当の国王本人が戦うと主張したので、このままでは本当に立つ瀬がない。
ヘルマンは慌てて、宝剣を持つとされるオーランジュ王国の城へと向かっていく。

だが、城の警備は強固で、あちらこちらに銃を下げた兵士たちが辺りを彷徨いている他に城門までもが深く閉じられていれば、侵入は不可能だろう。
街の物陰に隠れながら、彼らは城の様子を伺っていたのだが、あまりにも固く閉じられている。自分の意思を持っているかのように黒金の柵が城門の前にあるのだ。
ヘルマンと部下たちはやむを得ずに武器の出し入れが行われる瞬間を利用して、城内への侵入を試みた。

この中で擬似高速魔法を使えるのはヘルマンだけである。
彼は武器を載せたトラックが城門の前に差し掛かり、その門が開かれたのを確認し、彼は城内へと侵入し、門の開閉番と思われる兵士の一人の首元に短刀を突き付けながら言った。

「この扉を開閉しろ。そして、オレの部下たちをこの城の中に入れるんだ」

「な、じょ、冗談じゃあないぞ!誰がそんな要求をーー」

門番としての誇り高い男の主張は男が首元に僅かばかりに刃を立てた事により、強制的に中断させられてしまう。
自身の首から生温かいものが流れると、やはり、何か考えさせられるものがあるのだろう。
それは、彼の崇高なる主張をも吹き飛ばすほどのものであるに違いない。

彼は慌てて城の門を開くボタンを押し続けた。すると、トラックの背後から四人ほどのガレリア人と思われる男たちが続いていく。

「き、貴様ら、ガレリアのスパイだろ?」

彼がそう尋ねるるのと同時に、ヘルマンは容赦なくその首をかき切った。
ヘルマンの喉元から生暖かい血が噴き出していく。
辺りの地面を一時的にとはいえ、赤く染めていた事から、彼がどれ程の血が出ているのかがわかるだろう。
ヘルマンは慌てて逃げようとする武器トラックの運転手を射殺し、部下に武器をトラックの荷台から出すように指示を出す。

指示を受けた四人の部下はトラックから散弾銃やら機関銃やらを入手し、堂々と城内へと侵入していく。
だだっ広い一階の城のホールにて、銃声を鳴らして彼は大きな声で自らの要求を叫ぶ。

「赤い宝石の付いたエルフの剣を我々に引き渡せッ!そうすれば、もう貴様らの元からは我々は手をひこうッ!」

無論、この場合の「我々」というのはガレリア軍の事ではなく、彼らの事である。
だが、わざわざ訂正する事もないので、ヘルマンは敢えて言う事はなかった。
すると、ヘルマンの前にその赤い宝石柄頭に付けた男装の麗人が階段を降りて現れた。
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