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ロックウェル一族の闘争篇

大いなる人物からの忠告

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だが、アンドリューは依然として沈黙を保っている。
(ど、どうしたんだ!?黙ったままだぞ!?エミリオのあの糸をどうやって解くつもりなんだ!?)
チャーリーはその言葉を敢えては口には出さない。そうする事で、アンドリューを不安に陥らせてしまうと考えたからだ。
だが、アンドリューはチャーリーの考えとは違うようで、
「ご心配はなく、このような簡単な魔法なんぞに、私は負けませんから」
相変わらずの原稿を棒読みする昔の吹き替え声優のような声ではあったが、顔は自身に満ち溢れていた。
「アンドリュー……キミは何を考えているんだい!?」
アンドリューはエミリオのCMSに絡まれていないもう片方の手。つまり、左手の人差し指を左右に振りながら、
「大丈夫ですよ。私はサセックス王国国立魔法大学を首席で卒業したエリートなんですから」
アンドリューは相変わらず殴りたくなるような上から目線の笑みであったが、それとは対照的な表情を浮かべていたのは、エミリオ・カルデネーロ。
「ふざけるなよ……お前は既にその腕が使えなくなっているんだぜッ!いい加減、強がりは辞めるんだなッ!」
「強がり?」
エミリオの言葉にアンドリューは口元を緩めて、
「ご冗談を、私はこの程度の浅い魔法ならば、簡単に振り解く事が出来るんだと主張しているんです」
「舐めた口を聞くんじゃあねぇ! 」
エミリオは再びCMSから、蜘蛛の糸を飛ばすが、アンドリューはやれやれとでも言わんばかりに肩をすくめながら、CMSから氷と吹雪を出して、エミリオの蜘蛛の糸を凍らせた。
「さてと、まだやりますか?」
「まだ……まだ負けていないさッ!お前は、その蜘蛛の糸をどうやって切断する気なんだ!?」
エミリオは人差し指を震えながら指して、尋ねる。
「それはですね、以前に炎魔法をコピーした事がありまして、そのストックがまだ残っているのを思い出しましてね」
アンドリューの言葉が発せられるのと同時に、エミリオが飛ばした糸はみるみるうちに火に包まれていく。
「あ、アァァァァァァァ~!!! 」
エミリオは炎が自分の身に引火すると感じたのだろう。急いで、糸をCMSから切り離す。
「あ、危なかった……」
エミリオは危機を脱せた安堵感からか、息を荒げて、全身から冷や汗を垂らす。
「さてとあなたも見たでしょう?私はこの通りに見事にこの危機から脱せられましたよ」
チャーリーはアンドリューの戦い振りに拍手を送る。
それ程までにアンドリューは華麗な戦い振りをチャーリーに見せ付けたのだ。
「クソッタレ……親父が勝てなかった訳が分かったぜ……どうして、神はあんな奴にこれ程の才を与えたのだ?どうして、おれは……いや、カルデネーロはあいつに勝てないんだ?」
アンドリューはそのエミリオの言葉に耳を傾ける事なく、代わりに冷静な態度と冷徹な表情を向けている。
「ちくしょう! お前なんぞに……おれのような誇り高きファミリーのドンが負けるはずがねぇんだよ。おれはカルデネーロ・ファミリーのドンだぞッ!」
エミリオが発した言葉そのものは強かったであろうし、もし会議の場やファミリーの会合などで使えば、部下の統制に使える事は間違いのない言葉であったのだろうが、いかせんアンドリューにとってその言葉は何の効力も発さないものであったし、アンドリューは元から言葉などには怯えない性質の人間である(ただし、彼が忠誠を誓ったサセックス国王の言葉のみは別であったが……)
ともかく、エミリオは追い詰められていたのだ。アンドリューはそれを逃がすほど頭が欠けているわけではない。
アンドリューは氷と吹雪を引っ込める事なく、CMSの矛先を向け続けている。
「さてと、まだやるかい?そうだ、キミがどんな方法を取ろうが、キミが我々の提示する無条件降伏を受け入れない限りは攻撃する予定だよ」
アンドリューの精神を破壊するトドメの一撃のような言葉はエミリオの自尊心を打ち砕くのには十分すぎた。
エミリオは男泣きをしながら、
「わ、分かったよ……あんたらに降伏するよ、無条件降伏だ……さあ、おれを笑ってくれ! おれを見下せッ!おれは我が身可愛さに恋人を見殺しにした、クズ野郎なんだからなッ!」
「恋人だと?」
その言葉にチャーリーが反応する。
「キミは人質を取られて、我々を殺しに?」
「ああ、おれの大事な人を人質に取られちまったんだよ、あのデブめッ!おれが行かなくちゃあ、あいつを殺すって……」
アンドリューはエミリオの言葉を聞いても、しばらくは無言であったが、やがて10秒ほどの時間が経過した後に、ようやく口を開く。
「ならば、私たちが助けに行きましょうか?場所はどこなんです?」
「無条件降伏をしたんだぞ、おれは?敗者のためにワザワザ危険を犯して……」
「いいから、場所はどこなんです?」
アンドリューの遠慮のない言葉にチャーリーは思わず閉口してしまう。
エミリオは言葉を詰まらせているようで、口をパクパクと動かしている。
「そんな事をしていても、何も変わりませんよ、いいから、我々に……」
その時だ。再びシャリム・ギデオンのデスクの上の電話が鳴り響く。
「はい、私ですが」
シャリムは何やら、ガン食らったような表情を浮かべた後に、アンドリューに受話器を渡す。
「はい、お電話代わりまして、アンドリュー・カンブリアですが……」
『アンドリュー・カンブリアくんかね?例の異世界から来た人間という?』
穏やかな声が電話口の向こうから聞こえてくる。
「失礼ですが、あなたは?」
『失礼、アメリカ合衆国大統領のジャック・ピーターソンさ、キミらの世界の国王に値する人物だよ』
「ふーん」
アンドリューはわざと興味のなさそうな声で返答する。そうする事で、相手がどのような反応になるのかを見たかったのだが、ジャックは相変わらず穏やかな声で、
『いいかね、キミらが相手にしようしているのは、世界を牛耳っている一族なんだ。彼らを敵に回すという事は世界を敵に回すという事……キミらだって世界の警察と世界の脅威の両方を敵に回したくはないだろ?』
「失礼ですが、大統領閣下……私はサセックス王国の使者として派遣されたのでございます。もし、あなたに例の……」
『ロックウェル家のことかな?』
「ええ、彼らから離れたいのなら、我々がサポートしますよ。それとも、我々では力不足ですかな?」
電話口からは答えが返ってこない。恐らく、切ってしまったのだろう。
アンドリューは元居た世界の国王と比べて、こちらの世界の大統領とやらは弱い存在なのだなと思った。
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