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五大ファミリーの陰謀編

ジャック・カルデネーロの暴走ーその②

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ロバートはこの展開を予想していたのだろうか。いや、恐らくしていないだろう。
アンドリューはロバートが笑っている姿を一応は確認したのだが、どうも、彼の笑いは、勝利を確信した笑みや、あるいは余裕のある笑みという笑みではなく、苦し紛れに笑っているようにアンドリューには確認できた。
アンドリューはここは一つ試してやろうと、ロバートを挑発してみる。
「あなたが苦しいのなら、私はこの炎を引っ込めてあげるのですが」
アンドリューの口元の端に笑いを浮かべているような姿勢に腹が立ったのだろう。ロバートは笑顔を引っ込め、青筋を立てて叫ぶ。
「ふざけるなッ!お前のよう奴に舐められるのも、これで終わりにしてやるッ!」
ロバートは火力を強めていく。成る程、これは確かに苦戦するなと、アンドリューは心の中で呟く。
だが、火力を増やしたところで、国立魔法大学を首席で卒業した自分には勝てないだろう。アンドリューは鷹をくくっていた。
「終わりだァァァァ~!!! 」
ロバートは最大出力とばかりに滝のような速さで炎を出す。
「アンドリューゥゥゥ~!!! 」
階下のチャーリーもただ事ではないと判断したのだろう。階段を登って、駆け上がろうとする。
だが、そんなチャーリーをアンドリューは片手で静止する。
「ご心配は無用さ、私がこんな独学でやっているような、チンピラに負けているとでも思っているのかい?」
アンドリューはCMSの刃から、炎を放出し続ける。幾ら何でも無茶だ。チャーリーが銃を構えた時だ。
詰みチェックメイトだ」
アンドリューはCMSを使い、新たな魔法を起動させた。周囲を凍らせて、ロバートを拘束した。
「ちくしょう! こんな簡単に捕まっちまうなんてッ!」
ロバートはあからさまな悪態を吐き、アンドリューとチャーリーを睨み付ける。
アンドリューが相変わらず、自分にCMSの先端を突き付けている事から、抵抗するのは不可能だろうと、ロバート・フェローチは判断した。直ぐに両手を広げてみせる。
その後はチャーリーにより、利き腕からCMSを外され、手錠をかけさせられ、応援の警察官たちに引き渡される。
連行されていく中、チャーリーはロバートにジャックの居場所を尋ねたのだが、
「ふん、死んでも教えるもんかッ!」
視線を逸らし、そう吐き捨てた。
「では、ヒントだけでも教えてはくれませんか?」
アンドリューは丁寧語を使い、まるで王族に対応するかのようにお辞儀をして、尋ねるのだが、これもまた意味はなさない。
「しょうがないよ、ジャック・カルデネーロは我々だけで追いかけよう」
チャーリーの言葉にアンドリューは「キミはそれで良いのか?」と 尋ねた時だ。
「警部大変です! 街の中心部にカルデネーロ・ファミリーが現れ、騒動を引き起こしているとッ!」
警官の一人が無線を傍受したらしい。チャーリーは自分が最も欲した質問の事を警察官に尋ねてみる。
「ジャックは……?ジャック・カルデネーロはそこにいるのか!?」
「ええ、ジャック・カルデネーロもそこにいるとの確かな情報です! 」
チャーリーは天は自分を見捨ててはいないのだと確信した。そして、アンドリューに向かって微笑む。
「よし、市街地へと向かうぞ! おれ達はカルデネーロ・ファミリー壊滅に全力を尽くすんだッ!」
「おやおや、キミはジャック・カルデネーロを逮捕して、功名を挙げたかったんじゃあないのかい?」
この言葉を聞き、チャーリーは思わず笑ってしまう。その顔を見るなり、アンドリューは不機嫌そうな顔を見せた。
「何が面白かったんだい?私は何も笑えなかったんだが……」
「いいや、キミが『壊滅』という言葉の意味を理解していないんだと、思ってね」
「『壊滅』というのは、相手を死に至らしめる事だろ?」
「いいや、その場合もあると思うんだが、おれらの場合の『壊滅』は逮捕や、それによって、相手の組織を潰す事を意味するのさ」
ふーんとアンドリューは心底どうでも良さげな様子である。
「それよりも、市街地とやらに急がなくていいのか?」
チャーリーはハイハイと言って、パトカーにアンドリューと相棒の青山冬菜・メアリーが乗ったのを確認し、市街地へと急行する。不思議な事にチャーリーに負けるという確信は一つもない。


ジャック・カルデネーロは屋敷に残っている部下全員とエルフの王から貸し与えられた怪物達を使い、ニューヨークを襲撃していた。もはや、彼はマフィアではない。単なる大量殺戮を行うテロリストへと成り果てていた。最低限の仁義を捨て、権力に屈さないという誇りも捨て、今や彼は異世界の王の命じられるがままに部下や怪物に破壊行為を命じていた。
無論、警察も出動したが、ジャックが両腕に付けている二つの腕輪の妙な力の前には屈服するしかない。
そんな時だ。
「待てッ!ジャック・カルデネーロ! 」
破壊行為を満足げに見ていた、ジャックはその言葉に舌を打ち、声の方向を凝視する。
「なんだ、黒人か……黒人の刑事がおれに何の用なんだ?」
「何の用だと、お前を逮捕するために決まっているだろう?お前の暴走を止めてな……ッ!」
ジャックは自分に銃を構えている黒人の刑事が、素人ではない事を知った。彼の銃を握っている両手が震えていない事がその確固たる証拠と言えよう。だが、ジャックも敬意を払い、捕まってやる事を選択はしない。あくまでも強気に、
「ふん、お前におれの暴走を止める?お前のような非力な人間風情が?」
と、強気に言ってみせる。そして、両腕にはめたCMSを見せる。
「これを見ても、何か分からないようだな?」
「知っているよ、CMSだろ?」
答えたのは、黒人の刑事ではない。一体誰が?ジャックがその心地の良いアルトの声を見ると、そこには中世ヨーロッパの貴族のような服を身につけた男が立っていた。
「私だって持っているよ、何なら試してみるかい?」
男の挑発にジャックは眉間にシワを寄せていた。いいだろう、天下のカルデネーロ・ファミリーの首領ドンを怒らせた罪は重いぞと、二つのCMSの先端を黒人の男から、端正な中世ヨーロッパの貴族のような男に向ける。
「これで、オレが弱いのか、どうか試してみようじゃあねぇか?」
ジャックは自分の魔法を試す時だと、内心胸を躍らせていた。
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